第4話 リハーサル前 一 芽衣・瑞葉
発声練習や活舌の練習をする者。台本をもう一度見直す者。一年生や二年生の何人かは、まだ玲奈のことが気になるようだ。
アリサ役の晴美が父親役の野上良一、母親役の佐山あゆみと段取りを確認している。
「山野玲奈って、かわいいよなあ」
「え? 山野玲奈って……玲奈さんでしょ。年上だよ」
慈代が言う。
「そう、でも、おれファンなんですよ」
慈代が微笑みながら良太に、
「じゃあ、話しかけてくればいいじゃない。私たちじゃなくて、あっち。玲奈さん、あそこで台本読んでるよ。こんなチャンスめったにないよ」
良太が玲奈の方を見る。
「いやあ、無理。近付けないよ。慈代さん一緒に行きませんか?」
慈代が良太の方を指差して、
「奥手ぇ、もっと積極的にいかなきゃ」
「積極的って、女優の山野玲奈ですよ」
「呼び捨てるなって、玲奈さんでしょ」
そんな話をしているところへ、早口言葉を言いながら、一年生の
「ぶぐばぐ、ぶぐばぐ、みぐるばる……」
慈代の前を通りかかり慈代と目が合う芽衣。
「慈代さん、今日はよろしくお願いします」
「芽衣ちゃん、第一場で私が呼び止めて芽衣ちゃんが振り返るシーンがあったわね」
座ってストレッチをしていた慈代は立ち上がり、芽衣の肩にそっと手を置いた。優しく肩をマッサージするようにさする。
「リラックスしてね。ぶぐばぐぶぐばぐみぶぐばぐ、あわせてぶぐばぐむぶぐばぐ」
慈代は芽衣に微笑む。芽衣も少し落ち着いたようで微笑み返す。
「はい。よろしくお願いします。おややがおやに、おあやまり、おややがおやに、おあやまり……」
と言いながら歩いて行った。
そして
「慈代さん……今日はよろしくお願いします」
微笑んで頷く慈代。
「頑張ろうね。今日はよろしくね」
なにか、まだ、慈代に話しかけるとき怖さなのか緊張なのか、慈代にどう接したらいいか迷っているような雰囲気がある。慈代も瑞葉の態度から、それを強く感じている。慈代の方から、この状況を打開してあげなければいけないという思いを強く感じていた。
「瑞葉ちゃん。今日練習終わったら、みんなで食事に行くんだけど、時間が大丈夫だったら一緒に行かない?」
目を丸くする瑞葉。
「いいんですか?」
「いいよ、無理強いはしないから、よかったら、ほかの大丈夫な一年生も誘ってさ」
泣きそうになって頷く瑞葉。
「恵人君も一緒だけどいい?」
頷く瑞葉。
「芽衣ちゃんも誘ってきなよ」
もう一度大きく頷き、芽衣の方に走って行った。慈代は『少し自分に対する怖さのようなものが
今回の作品は、いろいろな意見もあるようだが、やはり、この物語の絶対的な主役は晴美である。
玲奈は今日ここに来て初めて台本を見たわけではない。劇団の稽古場で何度か部分練習を見てもらったのだが、そのとき台本も部分的には見てもらったことがある。しかし、今回のようにきちんと台本を渡して全部通して読んでもらったのは初めてだった。集中して読んでいたサッとではあるが、もう全部目を通してくれたようだ。晴美と玲奈が台本を見ながら話をしている。
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