第3話 突然キャンパスに現れた衝撃 玲奈
渋谷駅から一人の女性が歩いてくる。白のセーターに黒のスリムなジーンズ。白のニット帽をかぶった女性が颯爽と歩いてくる姿にすれ違う人は男性も女性も一様に振り返る。
誰かわからないが綺麗な女性だと振り返る者。テレビで見たことのある女性だと思い振り返る者。彼女が
行き違う人々を振り向かせながら通りを歩いてくる美しい女性。そして彼女は足を止めることなく、いつも通っているキャンパスであるかのようにスッと大学の門を入ってきた。キャンパス内で話をしている学生が振り返る。固まったように言葉を失うもの。思わず声を出してしまう者。友達同士で彼女が誰なのか確認し合う者。すれ違う学生も思わず道を開けてしまう。
彼女は少し周りを見回すようにしていたが、通りかかった女子学生に教室を聞く、声をかけられた数人の女子学生は緊張しているが彼女の顔から目が離せない様子で、ずっと彼女を
演劇部の部員たちも何か普段と違う雰囲気を感じ始めた。ざわついている。廊下を行き交う人の様子に違和感を感じ始めた。
今日は本番通りのリハーサルで普段の練習とは違う。プロの先生方が勢ぞろいしてのリハーサルである。そういう日は何か普段とはまったく違う雰囲気が稽古場に漂う。しかし今感じるこの教室のある建物、いや、この建物の外からも感じるざわつきはまったく今まで感じたことがないものだった。何かとてつもない大きなものがキャンパス内に入ってきたようなざわつき、そして感じる『それ』は段々この教室に近づいてきている。
「なに?」
「山野玲奈よ」「山野玲奈がキャンパスに来てるって」「見に行こう」「まじかよ山野玲奈がいるんだって」
そんな声が聞こえてきた……『山野玲奈』会ったことがなくても、芸能人とスポーツ選手はフルネームで呼び捨てだ。
教室にいた演劇部の部員たちも顔を見合わせざわつき始める。まだ練習まで時間がある。部員の何人かは教室を出て見に行く。
しかし、教室から出て行くまでもなかった。恵人が感じた『こちらに近づいてくる気配』は間違いではなかった。廊下の方から聞こえてくる声や行き交う人のざわつきは更に大きくなり、教室に走り返ってくる一年生や二年生。教室前の廊下に集まって来た他のサークルや部活の学生たち、授業帰りの学生たちが教室の前に廊下を埋め尽くすほどの人数になった。
その集まった群衆が一瞬にして、サッと両脇に道を開けたかと思うと、まるでレッドカーペットを歩いてくる女優のように美しく颯爽と一人の女性が現れた……
山野玲奈
山野玲奈はまるで何事もなかったかのように教室に入ってきた。一年生や二年生は呆気に取られたように口を開け、彼女に見とれ立ち尽くしている。
「おはようございます」
まるで部員であるかのように、彼女の方から挨拶して教室に入ってきた。教室を見回した彼女は演出家の宮原に気付き頭を下げて、もう一度挨拶する。竹内や青野も彼女と面識があるようで玲奈は二人にも丁寧に挨拶した。
そして玲奈は
「ど、どうぞ」
緊張して椅子を準備する。
「ありがとう」
言葉を発することもできず頷く芽衣。玲奈は彼女が緊張しているのを察してやさしく微笑みながら声をかける。
「急に来て、ごめんなさいね。今日は練習を見させて頂くわね」
芽衣は息が届くほどの距離で玲奈から話しかけられ心臓が飛び出るほど緊張した『綺麗すぎる』同じ世界で息をしているものとは思えないほど美しい。透き通るような色の白さ。想像していたより細く、きりっとした感じ。自分とそれほど変わらない身長なのに
玲奈が慈代と恵人に気付く。慈代と二人で玲奈のところに行って挨拶する。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
「慈代ちゃんに恵人君。こちらこそ。急に来てごめんね。どうしても練習を見たかったから」
「ありがとうございます」
玲奈は恵人の方にも目配せして微笑んでくれた。
そこへ晴美と和美がやってきた。
「玲奈さん。おはようございます」
「玲奈さん、お久し振りです」
一年生や、二年生は、またも呆気に取られる『ここの三年生たちは山野玲奈に気軽に声をかけられるのか?』という驚きの表情。
雑誌やネットの情報で見る限り、年齢的には山野玲奈は大学三年生である晴美や和美、慈代より三つぐらい年上のはずだ。玲奈が晴美、和美と楽しそうに話している。
まだ、教室の外はざわついている。教室の周りに集まった、たくさんの人が教室を覗き込んでいる。
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