【09】同級生の話
「ねえ、ウチも話したんだから、話してよ。みんなも」
ミルフィナが
「話って、怖い話って事?」
ティナの問いにミルフィナが頷く。それをガブリエラが笑い飛ばした。
「だから、私に怖いものなどないと言っただろう?」
すると、ティナが他の三人の反応を
「……自分の話じゃなくてもいい?」
ガブリエラがミルフィナと顔を見合わせてからティナの方に向き直り、言った。
「ああ、話してみろ。ただし、子供騙しはやめてくれよ? シーツのお化けなんか、怖くもなんともないからな」
ティナは右手でパタパタと扇ぎ、得意気な顔で笑った。
「そんなんじゃないわ……アタシが『賢者の塔』にいた頃の友だちから聞いた話をちょっと思い出してね。これなら、けっこう怖いかも」
『賢者の塔』とは、この大陸から東の海を越えた先にある白亜の巨大建造物である。そこには多数の魔導師たちが暮らし、日々魔導の探求に明け暮れている。世界最大かつ最高峰の全寮制魔法学校であり、魔導研究機関であった。
ここに入学するには厳しい試験に合格しなければならない。
「その友だちって、男の子なんだけど……」
と、ティナが誰も聞いていない情報を付け加え、得意気な顔になった。すると、ガブリエラが意地悪な顔で笑う。
「お前、友だちいなかったんじゃないのか?」
「ちょっとはいたわよ、失礼ね!」
ティナはムキになって早口で捲し立てる。
「彼はその中の一人。言っておくけど、本当に友だちで何ともなかったんだからね? アタシはナッシュ一筋だし。向こうはアタシの事が好きだったみたいだけど、彼の事は何とも思ってなかったわ」
またもや、聞いてもいない情報をつけくわえるティナに、ミルフィナは呆れ顔を浮かべた。
「はいはい。それは良いとして、早く本題に入りなさいよ」
「あー……うん」
ティナは少し考え込んだ様子で視線を上にあげてから語り始める。
「アタシもそうなんだけど『賢者の塔』に入れる子って、けっこう良いとのろの血筋が多いんだ。でも、彼ってば、北方の寒村生まれで凄く苦労人なの。名前はビリーよ」
「ビリーか。で、その彼がどうしたんだ?」
ガブリエラに促され、ティナは更に言葉を続けた。
「ビリーはね、アタシの後ろをくっついてきて、他の同級生たちに意地悪されても黙って我慢するようなタイプの男の子たったわ」
「根性なしか」
ガブリエラがくすくすと笑うと、ティナは眉を釣りあげる。
「ビリーを馬鹿にしないで。確かに彼は大人しい子だったけど、いつもアタシと一緒にいてくれたし、アタシの話を黙って聞いていてくれた」
「やっ、優しい子だったんだね……」
サマラが、ティナとガブリエラの間に流れた険悪な空気を取りなすように言った。
すると、ティナは不機嫌そうに鼻を鳴らして話を再開した。
「その彼の人形にまつわる話」
「人形……?」
ミルフィナが眉をひそめると、ティナは懐かしそうに目を細めながら頷く。
「そう。ビリーは汚ならしい女の子の人形をいつも大事に抱えていたわ。その人形が彼にとっての唯一の友だちだった……」
◇ ◇ ◇
ビリーの母親はね、元々はその村の生まれじゃなかったみたい。本当か嘘かは解らないけど、アタシと同じ『賢者の塔』の出身で、都で宮廷務めをするくらい優秀な魔導師だったらしいんだ。でも、さる貴族と浮気して、それが奥さんにバレたのが原因で失脚したみたい。どうも彼女の才能と美貌に嫉妬した同僚たちに告げ口されたらしいわ。
で、その貴族との間に生まれた子供がビリーっていうワケなんだけど、まあ半分は嘘だったんじゃないかって、彼は薄々感づいていた。
彼女の話は、いつもあやふやだったから。それに、貧乏でみすぼらしくて、母親の事はとても宮廷務めの魔導師なんかに見えなかった……って、ビリーから聞いたわ。
兎も角、毎日、昼間から酒ばかり飲んでいて、良い感じで酔っ払ってくると、いつもその話をしだした。
そして、最後にビリーに向かってこう言うらしいの。
「良いかい、あんたは絶対に『賢者の塔』に入って、偉い魔導師になって、アタシをハメた連中を全員宮廷から追い出してやりな。そして、アタシを選ばなかったあんたの父親と、あの女に目にもの見せてやるんだよ? あんたならできる。だって、このアタシの血を引いているんだから」
実際、ビリーの母親は魔法が使えた。けれど、それはやっぱり宮廷務めというには
本人の言い訳によると、歳のせいらしいけど、元々宮廷務めができるほどの実力があったのかは怪しいものだったんだって。
ただ、貧乏な家ではまずお目に掛かれない高価な魔導書や辞典、図鑑なんかは、家にたくさん揃っていて、ビリーはずっと狭く汚い家の中で勉強させられてたんだって。
朝から晩まで休みなんかほとんどなくて、ずっと傍らではその母親が見張っていた。眠たくなって船を漕いだり、ときおり彼女が出す問題を間違えたりしようものなら、容赦なく怒鳴りつけられた。
そんなビリーの唯一の友だちが、その女の子の人形だった。
人形は彼が物心つき始めた頃、母親が
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