4-6:フーリッシュ・ルーザー

 Foolish・Loser(フーリッシュ・ルーザー)、それが彼女に名付けられた名前であった。


 彼女はイギリスで生まれた。


 奴隷の母と奴隷の父から生まれ、生まれた時から彼女もまた奴隷である事が運命づけられた娘だった。


 その名が初めて世界の舞台の上がったのは西暦1530年、超娘として初の組織代表として会社を設立した事が最初となる。


 当時25歳であった彼女は、同じ超娘の保護と自身を含む超娘達を魅せる為の会社を作ったのである。


 その会社設立までの道程は楽な物では無かった、奴隷からの脱却、脱却しても同時まだ忌避された超娘としての立場、楽なはずがない。


 それを助けたのが彼女の最初の持ち主であったHamilton・Lewis(ハミルトン・ルイス)、その仲は決して良い物では無かったが互いにその関係を切る事が出来ない程に互いに大きな影響を持ち、付かず離れず、手を取り合いながら成り立っていく事になる。


 後のフーリッシュの日記にて自身の始原となった事について記されている事がある。


 始まりは西暦1522年、当時17歳となったばかりの彼女に初めて名前が付けられた時から始まっていく。


 彼女の名前は決して良い意味を持つ言葉ではない事が多少であってもイギリス英語ないし、英語を知る者であれば解る事だろう。


 フーリッシュ、愚か者、愚者、そう言う負の意味の単語に、ルーザー、敗北者、敗者、負け犬、そう言う負の意味を持つ単語を組み合わされた名前なのだ。


 それもそうなるだろうと、そうなるべしとして名付けられた物であり、奴隷として名前さえ与えられない立場だった彼女にそれが与えられたのは見世物で、主であるハミルトンが自身の所属する馬を自慢する為の舞台装置としてだったと記されている。


 ハミルトンは当時まだその力が小さく、影響もほぼない程度、ある程度の金だけがある良い所中規模程度の会社を持つ存在だった。


 その中で偶然見た目も良く美しさもありその速さと力強さも中々の良い馬を手に入れる事になったのが始まりだ。


 自身が見ても魅せられる位にその走りに魅力があった。


 幾度か見る中で自らの自尊心が掻き立てられ、それを他の人に見せ自慢したいと思うようになるのは可笑しな事では無かったのであろう。


 だがその馬を上手く魅せるだけの相手の馬は中々見つからない、その中で思い立ったのが馬とも相手して走れる超娘の存在だった。


 彼は当時をして異端に近い考えを持つ存在であり、超娘を純粋に資産としての価値しか認めておらず、それが忌避される存在であるや排除しなければいけない等という当たり前の考えを一切もっていなかった。


 普通の人よりも安く、普通の人よりも力強く、普通の人よりも良く働ける、そんな資産価値が高い存在であるとしか認識していなかったのだ。


 人気の無かった超娘という存在を多く集め、囲い、それを元に人よりも大きく働けるそれらの力を使い力を付けて行っていた。


 彼の存在は当時の社会で愚かしい、馬鹿な奴だ、何を考えているのか解らないと決して良い物ではない、当たり前であろう。


 彼が囲う奴隷はそこそこの数がいたが、奴隷に名前を一切許す事無く唯の物として扱い続けた。


 その中の奴隷と奴隷の中に生まれた子供、当時彼が持つ奴隷の中で1番若く、将来性がある存在だったのが彼女、フーリッシュだった。


 彼女以外の奴隷は大概40代から50代の男女が多く、超娘は50代から60代位の存在がほとんどだったのだ。


 超娘は60代であっても他の30代や下手すれば20代の女性と同じ程度の見た目を誇り、生殖能力も無くなる事がない、故に奴隷により多くの奴隷を産ませる為にも種付け行為は推奨されていた。


 その中で奇跡的に生まれたのがフーリッシュとなる。


 そして見た目も決して悪い訳では無く、プラチナブロンドより尚白、銀色に近いシルバーブロンドの髪は日の光の下光に当たれば煌めく姿すら魅せる程の美しさを持っていた。


 彼女は生まれた時から決して良い環境では無かったが、その見た目と将来性を見込みしっかりと育成されており、十分にとは言えずとも過不足なく程度に食事を与えられ、働かせ続けられていた為にその身体もそれなりに作られていた。


 父と母は名前が無く、また彼女の存在も真面に認めてはいなかった。


 子供が生まれれば優遇される、普段もらえない食事や金銭が手に入る、その為に産んだだけであり目的の食事や金が手に入れば後は同でも良かったのである。


 そしてその時が訪れる。


 17歳となったフーリッシュは名を付けられ、それを求められ、何も希望も夢も見る事無くただただ何時もの通り言われた事をやるだけ、の筈だった。


 だが、だが、彼女は自身の超娘としての本能の事を何も知らなかった。


 普通の人よりも強いとは言えど馬に勝てる訳が無い、その程度の認識しか超娘について誰も知識等持ち合わせていなかった。


 彼女自身でさえそうだと本気で思っていた。


 嘲笑の中で始まる馬とのレース、距離は正確な物ではなかったが大体1300m程度だったんじゃないかと記されている。


 見た目の良い馬と見た目の良い超娘、大きな馬と小さな娘、それは見る者の目を楽しませるには十分な光景だったのであろう。


 比較的多くの人が集まって見られていたと記されている。


 そして運命の始まりとなるレースが始まった。


 最初の100mで彼女は自身の可笑しさに気付いたと言う。


 諦め、何も考えず、ただ言われた通りにするだけ、その筈だったと言うのにどうしようもない胸の高鳴りと心臓の鼓動、そして燃え上がるような血の沸騰染みた高揚を感じたらしい。


 足が自然と動き、腕が知らない筈なのに大きく振られ、本能が身体を突き動かし態勢を沈め、チカチカしながら途切れそうになる意識を歯を食いしばって耐え、ただただ本能が赴くままの【負けたくない】という気持ちに突き動かされながら死ぬ気で走った。


 真面なトレーニングさえした事無い彼女に1300mと言う、超娘にとっては短めの距離でさえ全力で走るにはスタミナが足りていなかった。


 それでも、と、彼女の本能が根性がやれと、やるのだと、その身体と魂を突き動かしたのだと彼女の日記には書かれていた。


 結果、誰しも予想だにしていなかった彼女の勝利でその場を治める事になる。


 ざわつきと同時に嘲笑以外の盛り上がりが確かにそこにはあったのだと言う。


 金を掛けた賭け事でも無く、純粋な見世物、それだけの場だった故に純粋にその姿に魅せられ自然と歓声が上がったのを彼女は感じ、聞こえたのだと書かれている。


 ハミルトンにしても予想外、そして自身が大事にし自慢する予定だった馬と自身の顔に泥を塗られた、処分されても可笑しくない状態だったが、彼は誰よりも純粋なビジネスマンだった。


 自身の屈辱やプライド等は確かに大事だ、だがそれ以上に金を儲ける事こそがより大事なのだ、そう言う考えの持ち主であり、彼は素直にその盛り上がる光景を見て思ったのだと言う、これは、誰も知らぬ金脈になる、と。


 当時、忌避され排除されるのが当たり前だった超娘だと言うのにレースの光景を結果を見て少ないまでもそれに歓声を上げながら盛り上がる姿があったのだ、本来ならばあり得ない光景だった。


 それを成して見せたのが愚かなる敗北者であった筈の超娘の奴隷。


 彼の眼にぎらつく強い欲望の光が宿っていたとフーリッシュの日記に書かれていた。


 そこから彼は超娘について調べ始め、結果、15歳前後から18歳前後までが1番良く成長する期間であり、この期間にしっかり鍛え上げれば馬以上に強く早く頑丈な存在に至る事が判明した。


 その調べる中で同時にフーリッシュに普段の労働を少なくしトレーニングを付ける様になり、その知識を元に他の超娘を集め、調べ、特訓し、若い超娘を集め続けた。


 年老いた超娘より若い超娘の方が高い、当時であっても20歳前後の超娘と25歳を超えた位の超娘ではその働ける度合いが全然違う事が知られている。


 故に20歳以下の超娘は25歳以上の超娘の倍以上の金額でやり取りされていた時代で、決して安い代物では無かったが、彼は自身の財産の殆どを使ってでも、自身が自慢と思っていた馬を売ってでもその金を用意し集め続けた。


 そして彼は集めた超娘を使い、最初は自身より力のない商人や会社等の人に自身の持っている奴隷、超娘と勝負しないかと持ちかけ始める。


 相手は何でもよい、馬であったり虎であったりチーターであったり、直接争う事が出来ないと言う事は知られていた故に、走りでの勝負、それを前提にそれを持ちかけたのだ。


 勝てば少なからぬ賞金をと、少なからずとはいえどそれは大きなと言う程でも無く、遊ぶにしては少し高いなぁ程度であった為、自身が所持している馬等の自慢も出来るしとそこそこの割合でその勝負は成り立っていく。


 同時にそれ以外に人を集め、観客を集い、集めた観客から観覧費用等を集めたり等と少しずつ利益を出していった。


 集め始めて4年程度でそこそこ超娘のレースは中小規模の経営者等の間では人気となり、ハミルトン以外の経営者等も超娘を集め始めたりし始めた。


 その中で彼女、フーリッシュは彼に話しを持ち掛けた。


 彼女はハミルトンによってそれなりの知識と、自身と同じ経営者等の上の人を相手させる為の礼儀作法等を与えられ、どうすれば良いかと言う考える知恵も持っていたのだ。


 自分を奴隷から解放し、会社設立に力を貸してほしい、彼女は当たり前だが自身を道具としてみて扱うハミルトンに良い感情を持っていなかった、いなかったがそれ以上に彼に頼らねば自分達は1歩であろうと前に進む事が出来ない事も知っていた。


 自分達がいかに弱く、いかに何も出来ない存在なのかと言う事を与えられた知識の中でより深く知ってしまったのだ。


 だがそこで諦めず、それを覆し、少しであってもそれを変え、否と、少しではなく自分を含む超娘を人と同じく、それ以上に立場を作り上げるのだと自分の夢を定めたと言う。


 奴隷からの脱却は0ではない、0ではないが非常に珍しくほぼありえない事、その上それが超娘であれば猶更だ。


 それは良い悪いにつれ必ず大きな話題となり得る。


 悪かろうと話題に上れば興味が持たれ、それが人の目に映る。


 決して良い事ではないが、元々その地位や価値は最底辺、どれだけ悪い意味で注目を集めようが今より悪くなる事等ないのだ、なら悪かろうと集めれば得しかない、彼女はそう考えた。


 だがそれは超娘である彼女にはであって、それなりの立場を持つハミルトンには通じない、彼の立場が悪くなれば自身もまた困る、故に自分が会社を立ち上げ、それを支援する事で奴隷にさえ慈悲を見せる、それも超娘と言う忌避され排除されても可笑しくない存在にさえそれを与える、そう言う事を見せると言う方面に考えてはどうかと話しを持っていった。


 当時の時代では王が相応に信仰心を大事にする存在であり、神の教えによる慈悲等の類が非常に好まれる物でもあった。


 彼女は語る、利用できるなら利用しないのは馬鹿で損でしかないのでは? と。


 信仰心を持たずとも信仰は出来る、想いがなくとも想いは捧げられる、そう思わずとも態度で示せばそうだと認められる、故に教会等も利用しながら己の立場をより強固にして行けば良い、その中で慈悲をみせ、それを示せば立場もまた作りやすくなるだろう、と。


 その上で裏で支援し、会社の会長見たいな立場で自分が運営する場所で立場を作りながら、それを利用して上に近づける可能性も与えて行く。


 彼女が考える会社は超娘の立場向上と同時に、自分達が持つ本能を存分に発揮させる為の場所を作る事、その為に自分達を見世物にしようと語ったと言う。


 彼がやっていた事を規模を大きくして更にやろうと言うのだ。


 個人、個人での賭け事、それを規模を増やし同元になってのギャンブルにし、それをいつか公営に認められる文化にまでになればと語る。


 当時の王がギャンブルや文化、そして信仰について大きな関心を持っていた事からそれを元に僅かであろうとそこに近づける可能性があるなら手を伸ばさないのは商人としてどうなのだ、と語ったらしい。


 まったく実現性のない夢物語、だが言葉通り夢の物語なのだ、そこにチャンスがあるならばと、夢を見る事は果たして悪い事なのか、ハミルトンは最初は否定し断りながらもその考えを捨てきれずにいた。


 そして時を経て、集まる超娘、盛り上がる個人間でのレース競技、手に入る金銭の上昇、稀に訪れる上の立場の会社からの招待、そして集まった超娘達の強さ、それらを纏め立場を作り上げて行くフーリッシュ、それを見て彼は決断した。


 中小規模の会社しか持たず、力しかない自分が上を、更なる金をと求めるならば踏み外したら地獄で終わりであろうと歩み続けられれば誰よりも、何よりも、誰も見た事のない様な立場まで登れる可能性があるなら踏み出さなければいけない、それは分の悪い賭け以外の何物でもなかったが、そうでもしなければ今以上は難しかったのだ。


 そして西暦1530年、初の超娘の奴隷脱却と同時の会社【GuidePost】通称GPが設立され、その話題は世界を賑やかした。


 年に1度の命の危機等当たり前、そんなレベルの危険な日常を過ごしながら彼女と彼は歩み続けた。


 彼女の会社が行ったのは最初に超娘の保護だ、殺される間際、死ぬ間際、捨てられている、そう言った超娘を兎に角かたっぱしから広い集め保護していった。


 数は力だ、例えそれが弱い存在であってもそれは決して馬鹿に出来る物ではない。


 そして集めた超娘達で人を助けた。


 力仕事を、人が嫌がる仕事を、兎に角直接的な暴力が関わらない仕事であれば人にとって興味を持たれ、少しでも良い方向に感情を持たれる仕事であればどんな事でも進んでやり続けた。


 同時に見た目の良い超娘を集めて競い合わせた。


 そしてその姿を出来るだけ多くの人に魅せたのだ。


 超娘は衰えてなお普通の人よりも力は強い、その強い力で動く行動は派手になる、それは見る者にとっては何よりも目を楽しませる事だった。


 曲芸じみた体操を、人にはできない速さと力強さで動く球技を、派手なパフォーマンスを魅せるダンスを、そして何よりもメインとしたのが馬や足の速い動物や同じ超娘達同士でのレースであった。


 西暦1540年頃にはその規模は誰からも侮られない程の規模にまで成長していた。


 その中で、その利益を少しでもと共同経営に乗り出した会社達と手を取り合い、初めての大きな超娘達が走る為の場所、競超場と呼ばれる物を作り上げる。


 そこで沢山の超娘や馬等の動物とのレースを行う様になった。


 この西暦1540年の競超場にお忍びで当時の王も姿を見せ、賭け事に興じていたらしいという話しも噂話程度に広がっている。


 超娘達の立場は上昇していった、西暦1545年には超娘を奴隷にする事を止める様にイギリス内では推奨され、奴隷からの解放に相応の金が支払われる様になった。


 そして西暦1550年には完全にイギリス内限定ではあれど超娘の奴隷への禁止と、フーリッシュが経営する会社への融資、規模拡大、超娘の競い合いへの推奨が進められていった。


 この事からイギリスではこの時代あたりで超娘の競技、競い合いでの見せ場によっての豊穣効果等に気付いていたのではないかと言われている。


 現にこの頃からイギリスでは他国への戦争行為が鳴りを潜め始め、同時にその国の豊かさが周辺国より頭1つ抜けた物になっている記録が残されている。


 彼女の会社は大きくなり続けた、彼の資産も増えその名は大きく強大な物へと変わって行った。


 そして西暦1565年、ハミルトンはその生涯を終える。


 75歳だった、当時としてかなりの長寿だったのは間違いないだろう。


 子供に恵まれなかったが、集めた超娘達を子供として跡を継がせ、現代にも続くルイス一族経営のハミンスグループは超娘の名家として残り続けている。


 ハミンスグループはSRAを作り上げ、盛り上げながらその規模を世界に伸ばし、やがてSCAへと姿を変えて尚、1幹部として所属しながら超娘達の為にその力を振るい続ける事になる。


 彼女は西暦1593年にその生涯を終えるまでに数多くの超娘達を救い続け、その立場を向上させ、世界にその存在を認めさせた。


 88歳でその生涯を終え、彼女が集めた超娘達が彼女の意思と志を継いでその未来を照らし続ける事になる。


 ちなみに彼女の最後の名前は【Foolish・Loser・Lewis】、ルイス一族の母と呼ばれる存在である。


 彼女は後に超娘達の母、偉大なる大母、夢と希望の道標、夢と希望の体現者、唯一無二の奇跡と呼ばれる様になり、彼女が残した言葉がハミンスグループ引いてはSCAの大前提となり社風として語り継がれている。


「私達は夢を見せ、希望を胸に、未来を手に入れられる。だから諦めるな、立ち上がれ、そしてその手に掴むんだ。希望の未来を夢にその手を伸ばし挑み続けろ」


 永遠に消す事無く忘れる事を許さない大事な言葉としてその名と共に語り継がれる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る