1-2:基本設定2
まず初めに【それ】は意思を芽生えさせた。
意思が芽生えた幼き【それ】は揺蕩う無限の時を過ごす。
どれだけの時が流れたのだろうか、幼き【それ】は自身以外の意思を持つ存在達に初めて気が付いた。
それらは幼き【それ】と同じく確かに意思を持っている。
だが同時に幼き【それ】が持っていない何かも持っていた。
意思が芽生えた幼き【それ】は自身と違う意思持つ存在達を見続けた、何億、何十億、何百億。
どれほどの時を眺め続けたのだろうか、幼き【それ】は少しずつ自身の意思を強めていった。
ただ漠然としていただけの幼き【それ】の意思は時を経るごとに確固たる自身という存在を認識出来る様になっていく。
まず真っ先に違いを認識した。
そして次に変化を認識する。
変化から進化を、進化から退化を、退化から滅亡、――を、――を、――を、――を、【それ】は様々な事を認識していった。
その中でもう幼きと言えなくなった【それ】は気づく、自身には周りの意思持つ存在達が持つ形を、身体を持っていないと。
意思持つ【それ】以外の存在達はみんな形を、身体を持っている。
そしてその身体の中に様々なものがあった。
それを認識して理解する。
その身体の中のもの達は生まれ育ち老い朽ちまた生まれた。
それらを見て【それ】は生と死と言う物を知る。
生と死は繰り返す事を知る。
繰り返す為に身体という形が必要な事を知る。
身体という形の中にさらに環境と呼ばれる物が必要な事を知る。
知り、知って、知っていく。
そして【それ】は羞恥と言う物をその身体の中に生きるものから知ってしまう。
身体を形を持たないただ漂い覗き見るだけの意思は恥ずかしい、そんな感情を知る。
恐怖、好機、歓喜、悲しみ、怒り、憎悪。
数多の感情と言う物を知っていく。
初めて【それ】は知ってしまった感情から身体という形を作り出した。
これでもう恥ずかしくない、【それ】は満足し同時に周りの意思を持つ存在達を覗く事を止める。
だと言うのに【それ】の身体の中には生と死が生まれない。
どれだけ待とうと何も生まれる事がなかった。
困惑し、迷い、試す。
かつて見た周りの意思を持つ存在達の身体の中にいた者達が生きていた環境と呼ばれる物を用意した。
駄目なら次を、それでも駄目ならばまた次を、ただひたすら繰り返し続ける。
そしてどれだけの時が流れたのか解らぬ時の果て、ようやく【それ】の身体の中に生と死が生まれ落ちた。
身体の中には海と呼ばれる環境、大地と呼ばれる環境、そして空と空気と呼ばれる環境が作られている。
初めに生まれ落ちたそれは酷くか弱い生しか持っていなかった。
だというのにそのか弱い生を持つ者は数を増やし少しずつ生を増やし続けていく。
増える、増える、増える。
沢山の生と死が身体の中に生まれ落ちた。
これでかつて見た他の意思を持つ存在達と同じになれたと安心する。
増え続ける生と死を眺めながらふと誘惑に駆られた。
自身と他の意思を持つ存在達はどれくらい違うのだろうかと。
止めていた覗くという恥ずかしい行いを再び始めてしまう。
そして知る。
自身の身体の中にいる生と死はとても他の身体の中にいる者達と比べられる段階ですら無いと言う事に。
進化と成長、変化と退化、そして滅亡。
それを繰り返しその身体の中の生と死はとてつもなく個と言う物を持っていた。
文化に文明、そう言われる華やかで綺麗な物を持っている。
何が違うのか、その中で生と死から外れた何かがいる事を知った。
その生と死から外れた何かは身体の中の生と死の進化と成長を促し変化させ退化させ滅亡させている。
身体の中の生と死からその何かは神と呼ばれていた。
これが足りなかったのか、それを知りすぐに神を作り出す。
自身は遅れている、なら一つの神では足りないのではないだろうか。
一つ、二つ、三つ、四つ。
思いつくたびに神を増やしていった。
そして世界に神が増え、同時に生と死は物凄い速さで進化成長していく。
時に変化を起こし、時に必要ない物を退化させ、間違えた時は滅亡させる。
神は生と死を増やし成長させる為に動き続けていた。
そんな中で神が徐々に必要なく生を滅ぼし、死を覆し、生と死というサイクルを崩していく。
神と神が争いはじめ、その神の下で生と死がそれから外れた何かが動き争い【それ】が作り出した海を、大地を、空を空気を壊していった。
環境が壊れていく、壊れてしまうと生きていける生と死がいなくなってしまう。
全ての環境が壊される前に【それ】は神という存在を消し去った。
これでもう大丈夫、生と死は既に凄く進化し成長し終わっている。
後はただ眺めていれば他の意思を持つ存在達の身体の中と比べても恥ずかしくない物が出来るだろう。
環境は大きく壊れてしまったが、今ある生と死の数ならば問題はない。
そしてその生と死は【それ】が考えていたよりも物凄い速さで進化成長し続けてしまった。
小さな生と死では不可能であった筈の環境を壊すという行いが出来てしまう程に育ってしまう。
環境が再び壊されていく、かつての神と神の争いよりはまだマシではあるがそれも時が経つ毎に加速度的に上がりいつかは上回りそうだ。
だからと言って生と死を消すのはせっかくここまで育てたのに勿体ない。
何より再び同じくらい文化や文明が発展してくれるかも解らないのだ。
だからこの生と死は消せない、かといって環境を増やせば今ある文化と文明が滅びてしまう。
これも勿体ないから出来ない。
ならばと、かつて作り出した神とは別の制限をかけた神を再び作りそれに指針を示し方向を変えてもらおう。
そしら【それ】は再び一つだけ神を作り出した。
これで大丈夫、【それ】は再び安心する。
作り出した神は大いに役立ち環境の破壊を食い止め回復させていく。
その速度は遅い、だが【それ】にとっては左程問題として感じるほどでは無い。
回復して壊され、壊された以上に再び回復する。
時に壊される勢いが増す事もある、だがそれもしばらくすれば再び回復が上回り始めた。
これなら大丈夫だろう、【それ】は保たれた文化と文明に生と死を眺め満足する。
これだけ保てれば恥ずかしくない。
だがそれも長く続かなかった。
神が小さな生と死を無駄な物だと判断して排除しようとし始める。
代わりに神が【それ】のデーターベースから引っ張って具現させた生と死やそれから外れた何かへと移り変えようとした。
神が言う、愚かな小さな生と死に出来る事ならばはるかに賢いこれらでも出来ると。
その争いの中で文化と文明が壊れていく。
神は直ぐに元に戻せると考えているらしいが、【それ】は今までの経験からそれが難しいと解っている。
同じものを同じように用意しても同じ物が出来るとは限らない。
むしろ何も出来ない事の方が多いのだ。
神を消そう、そう判断しかけたが小さな生と死が再びすごい勢いで進化成長していく光景が目に入る。
神の用意した生と死によって文化も文明も小さな生と死も滅びる、そう思っていた【それ】と神は驚いた。
抵抗し押されていたそれらが徐々に押し戻し均衡を保ち、そして逆に押し始める。
神はそれを見て考えを改め始める、愚かだがそれが必要だったのだろうか、それがあってこその進化と成長なのだろうか、それを確かめる為に更なる追加の生と死を出すこと無くそれを見守った。
同時に【それ】は喜んだ、自身の身体の中の生と死は凄くなっていけるのだと。
これなら他の意思を持つ存在達にもし覗かれても恥ずかしくはないだろう、むしろ自慢出来るかもしれない。
わくわくしながら成り行きを見守った。
小さな生と死の被害も馬鹿にできない程だが、それでも勝利を収めたのはその小さな生と死達であった。
神は改めてそれを認識し、それを踏まえ再び元のシステムへと戻していく。
小さな生と死もそれを経験し同じことを繰り返さないようにと消して朽ちない様に伝承に伝聞、様々な方法でその出来事を残した。
そして【それ】の身体の中で再びそれらは少しずつ進化し成長していく形へと戻っていく。
そう【それ】は満足だった。
これでもう恥ずかしくないから。
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