タイトルのとおり没にしていた後日談です。

 せっかく書いたのでこっそりと公開してしまいました。

 人を選ぶ内容だと思うので閲覧には注意してください。

 そして不快な思いにさせてしまったら申し訳ございません。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 異世界と俺の世界が交流を開始したのはいいが、残念ながらまだまだ自由に行き来するには至っていない。

 女神様たちは、俺たちの世界の男を異世界に移住させたかったようだけど、それは先の話になるだろう。


 だけど、異世界の人たちは知ってしまった。

 別の世界に男性が女性と同じくらい存在し、特段女性に対して忌避感などは持ち合わせていないということを。

 そんな自分たちの理想が実現したような男が、存在するとだけ教えられて会わせてももらえない。

 まあ、爆発しても仕方ないよね……。


「世界を救ってもらったこと、私たちが知らない間もずっと守ってもらっていたこと、それは感謝します! 毎日祈りも捧げています!」


 すごい光景だ。

 代表して大声で主張しているのは人間だが、集まった人たちの種族はてんでバラバラ。

 エルフにドワーフ……獣人に、古竜まで。それにあれは天使と悪魔か?


「ですが、これでは生殺しです! 異世界の男性がこちらに来れないというのなら、せめて私たちが異世界に!」


「ごめんなさいね。それは無理なのよ」


「ど、どうしてですか!」


「危険だからよ。あなたたち、自分がどれくらい強いかわかってる?」


「私なんて一般的な強さしかありませんが!」


「その一般的が、向こうの世界では超人的なのよね~」


 まあ、それはそのとおりだ。

 俺たち剣や魔法で戦わないし、日々魔獣と戦うような生活は送ってないからな。


 しかし、この騒ぎを治めるのは時間がかかりそうだな。

 女神様に世界間の交流の件で呼ばれはしたけど、どこか別の場所で待つことにするか。


 そう思って引き返したその瞬間。

 目ざとく俺の姿を発見した一人の女性が、男がいると指差して叫んだ。

 悪気はないんだろうな。つい珍しいものを発見したから反射的に叫んでしまったのだろう。


 だけど、それがきっかけとなり、騒ぎを起こしていた女性の集団は、そのまま俺へと殺到することになる。


「お、男神様ですよね!! 私毎日お祈りさせていただいています!!」


「わ、私もです! 自然の象徴である精霊との友好尊敬しています!!」


「私もつがいの一人にしてください!」


「なんでもします! 男神様の子どもをください!」


 ゾンビだ……。ゾンビの集団が押し寄せてくる。

 彼女たちには悪いが、ホラー映画で肉に群がるゾンビの群れを彷彿させる。


「旦那様は、私たち一人一人を見て愛してくれる慈悲深い男神様です。出会ったばかりでつがいになる? 子供がほしい? あなたたちは私の旦那様がそんなにいい加減な方に見えるのですか?」


 ソラが集団を嗜めると、その圧力に屈したのか、あるいは生物的な本能による危機感からか、女性たちは俺たちの手前で止まった。


「ありがとうソラ。ソラはいつも俺を助けてくれる」


「感謝の言葉はありがたいのですが、それもこの者たちの刺激になりかねません。今は神らしく堂々と振る舞いましょう」


 立派になったものだ……。

 自分のことだけじゃなく、異世界の民のこともちゃんと考えてあげているんだな。

 昔だったら、所かまわず俺に甘えるだけのわんこだったのに。

 ……いや、我慢してるなこれ。しっぽがせわしなく動いているもんな。

 そうか、待てを覚えたのか。偉い子だ。


「偉いぞソラ」


「ふわぁぁ……だ、だめですってば!」


 あ、ごめん。ついいつもの癖で頭をなでた。

 だけど、ソラはそれでも神様らしい態度を崩さなかった。


    ◇


「つまり、衆人環視の前で焦らしプレイをされたんですね!」


「アリシアさん。今日も絶好調です」


「はい! 私はいつも元気ですから!」


「諦めよルピナス。こいつの頭では皮肉は理解できん」


「アリシアのアは頭が良いのアなんですけど!」


 アホのアじゃないのか?

 あとプレイとか言うな。俺がソラをかわいがるのはもっとこう、飼い主と犬の至福の時だ。


「だからソラ様、帰ってからずっとアキトに抱きついて離れねえのか」


「でも、我慢してるのに頭をなでるお兄ちゃんも悪いような……」


「獣人の方には特によく効くみたいですからね……」


 うん、落ち着く……。

 さっきの女性たちが嫌なわけじゃない。だけど、たまにその積極的すぎるというか、ガツガツした感じが怖くもある。

 状況が状況なので責める気はないが、その辺を克服しないことにはまだまだ俺の世界の住人と会わせるのが怖い。


 自慢じゃないが、うちの奥さんたちは、そのあたりがちょうどいい塩梅なので助かる。

 肉食すぎないけど、甘えるときは甘えてくれるのでとてもかわいいのだ。


「なんだか前より悪化しちゃった気がするなあ……」


「そらそうじゃろ。理想が実在すると知り、しかも近い将来に自分も会える可能性だけ話し、お預け状態なんじゃからな」


 やっぱり、それが原因だよなあ……。

 なんだか以前にも増して、この世界を出歩くことが危険になったような気がしてきた。


「せっかく、色んな国を訪問できるようになったけど、女の人たちのパワーがすごいんだよなあ……なんか、今になってアリシアが出会ったころに言っていた、この世界を単身で歩いたら危険っていう言葉を実感してるよ」


「では、久しぶりに私が運びましょうか?」


 リュックはもういいから。そもそもそれに入って移動したところで、俺はいつ外に出ればいいんだ。


「変装すればいいんじゃねえか?」


「それが一番現実的かもなあ」


 変装して人々に溶け込む。なんだか、いよいよ自分が神のような行動をすることになりそうだ。


「あ……そういえば、ちょうどミーナがいいものを作っていましたよ」


 ルチアはふと思い出したように、俺たちに魔導具らしきものを見せてくれた。

 ミーナさんの魔導具……あまりいい思い出はない。

 あの村のアミュレットや結界が奇跡的な出来なだけで、ほとんどは困った効果を発揮する印象だ。


「これはどんな魔導具です?」


「性別を変える魔導具の失敗作らしいです」


 ほら出た! 失敗作の魔導具!

 なんで失敗したのに破棄しないの? 俺で人体実験ならぬ神体実験しようとしてる?


「あの……ご迷惑でしたか?」


 その表情には弱い。ルチアに悲しそうな顔されたら……使わないわけにはいかないじゃないか。


「使うよ……」


 まあ、前向きに考えようじゃないか。

 一時的に女性になる。そうすることで、この世界でも騒ぎを起こさずに活動できるんだから。


「よかった! それじゃあ、ここをこうしてしばらく待ってくださいね!」


 腕輪を装着されると、魔力と神力が体に……え? 神力?

 なんで、そんなものまで扱えるようになってんの? 女神様たちなんか変な協力してない!?


「失敗作ということは、上辺だけ変わるとかですか?」


「いえ、そのなんと言いますか……あっ! 後で全員で使ってみませんか?」


「はっきりせんやつじゃな。そもそも、これでメスがオスになってしまったら、今度は妾たちが危険ではないか?」


「大丈夫です……」


 ミーナさんすごいな。俺一応神なのに見事に見た目が女になったぞ。


「アキトちゃん!」


「ちゃん言うな」


 おお、声が高い。それに目線も低くなっている。

 アリシアと変わらない背丈になってるっぽいな。


「かわいいですね! 私今までそっちの趣味はなかったんですけど、お姉さんが手取り足取り教えてあげますね!」


「盛るな馬鹿者」


 同性だからか、アリシアがやけに積極的に襲いかかってきた。

 そうか、いつもみたいに興奮して鼻血を出さなくなってせいか。

 シルビアが止めてくれなかったら、俺アリシアに食われてたんじゃないか?


「すんすん……匂いが薄くなっています。というよりは、男性の匂いが薄まって、女性の匂いに変わっているような……」


 匂いの鑑定者はなんとも難しい顔をしていた。

 だが、最終的には俺の匂いってことで及第点としてくれたようだ。


「アリシアさんが男の人になったら、またアキトさん見て興奮して鼻血出すです?」


「アリシアさんってどういう人なんですか……」


「まあ、面白そうだしルチアが言ってたとおり、私たちも性別変えてみようじゃねえか」


 みんなが魔導具を使っていく。あのソラでさえ、男への変化に興味があったのか使用していた。

 そういえば……女の人の体になったけど、あっちのほうはどうなってるんだ。

 感覚がない気がする……。こっそりと下半身を見ると、俺は大切なものを失った喪失感でいっぱいになった。


「ん~? 全然変わりません……ね?」


 アリシアの言うとおり、みんなの見た目は変わっていない。

 ああそうか。失敗作って言ってたもんな。つまり、男を女に変えることはできたが、その逆はできなかったと。


「たしかに、体に変化はないし、誰も見た目すら変わっておらんのう……む?」


「おい……これもしかして」


 なんだろう。みんな少ししてから何かに気がついたのか、やけにもじもじとしている。

 そして、俺から隠れて視線を下に……なんかどこかで見たような行動だな。

 というか、さっき俺が大切な相棒との別離を確認した行動だな。


「こ、これが……男性の……」


「お、落ち着けアリシア! それは自分の体じゃぞ! こらえろ!」


「うう……恥ずかしいです……」


「…………旦那様のほうが立派でしたね」


 なんだかみんなが恥ずかしがってる。

 アリシアやシルビアだけでなく、珍しいことにルピナスや、あのソラでさえももじもじとしている。


「おい! どういうことだルチア!」


「ご、ごめんなさい! つい気になってしまって!」


「し、尻尾が前にも……」


 フィオの言葉ですべてを察した。

 もしかして……そこだけ性別変わったってこと?


「旦那様……」


「ど、どうしたの……ソラ? なんか息が荒いけど」


「性別が変わったせいか、周期が変わりました」


「周期って……なんの?」


「発情期のです」


 ……いや、待って。本当に待って。

 いつもの体なら、まあ……うん。発散するまで付き合ったよ?

 夫婦だもん! それくらいはするよ!?

 でも、今の俺の体は女性なわけで……ソラの体は、あっちだけ男性なわけで……。

 え、この状態であの激しい発情期の相手をしろと?


「お兄ちゃん! 私ももう我慢できないです!」


 しかも二人も!?

 しかし、その考えは甘かった。


「そんなの目の前で見せつけられて……」


「我慢できると思っておるのか?」


「アキトさん……ごめんなさいです」


「お、男神ですから平気ですよね!? 神でもない種族の劣情を受け止められますよね!?」


「わりい……多分、一回発散すれば大丈夫だから……目を瞑って我慢しててくれ」


 待って……。

 待―――

 ―――

 ―


    ◇


 そっか~。獣人だけじゃないんだ、発情期って。

 お腹が重い。そして恐ろしいことに嫌じゃなかった。

 これは、相手が俺の愛する人たちだったからなのか、俺の体だけでなく心も女性にされているからなのか。

 ぜひとも前者であることを願うばかりだ。


「妊娠とかしないだろうな……」


「だ、大丈夫です!」


 反省させているルチアが正座したまま反応する。

 そっか、さすがにそれは大丈夫なのか。よかった……。


「そのときは、私たちがしっかりと育てますから!」


「ルチアって、昔はもう少しおしとやかだったよね……」


「なに言っとるんじゃ。こいつ昔からむっつりじゃったぞ」


 俺は、また一つ妻の知らない一面を知ることになるのだった……。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 お目汚し大変失礼いたしました。

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