おまけの18 親越えはあなたたちの通過儀礼
「そういえば、秋人って他にも三人奥さんいたわよね」
さっき会った四組の母と娘は、生まれた直後に顔を見に行った。
だけど、残りの三組の子には会ってないのよね。
……というか、奥さん七人? あいつ元は普通の人間だったわよね?
神になったからといって、精力が増加とかしなかったはずなんだけど……
よくよく考えれば、アリシアやソラもだけど全員肉食系っぽいわね。
あいつが疲れてるのって、働きすぎじゃなくてそのせいじゃないの?
「まあ、本人たちが幸せなら気にしないほうがいいかしら」
そんな余計な心配をしながらたどり着いたのは、ドワーフたちの国ドルーレ。
たしか、ここの女王が秋人の嫁だったわよね。
◇
「それで、私のところにきたと……女神って暇なのか?」
「もう女神じゃなくなったからこそ暇なのよ」
呆れつつも律義に私の相手をするドワーフの女王ノーラ。
根っこが真面目なのよね、この子。
そんなノーラの傍らには、やっぱり彼女によく似た小さなドワーフがいた。
まあ、元々彼女自体が種族の特性で小さいから、親子というか姉妹にしか見えないけどね。
目つきの鋭さは母親似だ。
というか、これまで見てきた子たちはみんな母親によく似ている。
同じ性別だからってこともあるのかもしれないけど、秋人の血って薄いのかしら……
「母ちゃん。この人誰だ?」
「こいつは元女神のイーシュ様だ。ヒナタ様より偉いんだぞ」
こいつって……いや、いいんだけどね。
口が悪いのに敬われているというのが、なんだか不思議だ。
「神様なのか。じゃあ鍛冶も得意なのか?」
「えっと、鍛冶はできないけど、武器や装飾品を作ることはできるわよ?」
神力はないけれど、それに見合う魔力はもらった。
だから、無から剣を作ることくらいなら今の私でもできる。
適当な剣を作り出してみせるが、ノーラの娘はあまり興味がなさそうだった。
あれ、こういうことじゃなかったかしら?
「そういうのじゃなくて、ちゃんと一から作れないのか?」
「ごめんなさい。私鍛冶は専門外なの」
「なんだ。父ちゃんも神様だけど鍛冶できるぞ?」
あいつは色々と特殊なのよ……
「おい、リエッタ。イーシュ様に無茶言うな。困ってるだろ」
「リエッタって名前なのね。そういえばあんたの娘とは初めましてだったわ」
「おう、よろしくな女神様」
「リエッタ……ちゃんと敬え」
「なんでだ? 父ちゃんのほうがすごいぞ?」
本当に、秋人のことが好きなのねこの子。
「別にいいわよ。この子が産まれたときには女神ですらなかったんだし」
そんな子供に敬えというほど、ガツガツと信仰を集める気質でもない。
そんな性格だったら、秋人に頼らずとももう少し自分でなんとかできたかもしれない。
「リエッタ。あなたはお父さんのこと大好きなのね」
「私は父ちゃんと母ちゃん大好きだぞ! 今度、指輪の作り方教えてもらうんだ!」
嬉しそうに私に教えてくれるリエッタ。
やっぱりドワーフの半神だけあって、この子も物作りが好きみたい。
「教えるとなったら娘といえど厳しくいくからな。覚悟しておけよ」
「ああ、わかった。でも、母ちゃん厳しく教えられるのか?」
「あ? 当然だろ。親子とはいえ先生と弟子になるんだぞ。甘やかさねえぞ」
本当かしら。秋人に甘すぎる師匠だったと思うんだけど……
この子、身内にはデレデレする印象しかないのよね。
「でも、この前父ちゃんと一緒に作ろうとしているときは、父ちゃんにべったりくっついて甘えてたぞ?」
「見てたのか!? あ、あれは……違う。いや、違くないけど違う。忘れろ。お前にはまだ早い……」
「え~? だって、私の妹を作るんだろ? 私だって関係あるじゃねえか」
「忘れろ!」
こいつ……
いや、人様の家庭の事情に首を突っ込むわけにはいかないわね。
まあ、がんばってごまかすといいわ。
私はうろたえるノーラに別れを告げて立ち去ることにした。
別に巻き込まれると面倒だからじゃないわよ?
◇
「女王様! 女神様がお見えになりました!」
「元女神よ」
獣王国プリズイコス。ここの女王も秋人の嫁だ。
……秋人の嫁、権力者ばかりじゃない? 秋人がその気になれば、この世界を牛耳れるんじゃないかしら?
それも今さらかしらね。信仰を一番集めていて神力が高すぎる男神って時点で、その気になればこの世界を支配できるでしょうし。その気にならない子でよかったわ……
「えっと、お久しぶりで合ってましたよね? プリズイコスの女王フィオです」
「元女神で現無職のイーシュよ。久しぶりねフィオ」
「ええ、アキトさんとのお別れのとき以来ですね」
挨拶をしている隣で、小さな猫の獣人が細い目でこちらを見ていた。
「この子は私とアキトさんの娘のミリアです。一応、半神半獣人です」
ああ、やっぱりこの子が娘なのね。
もう秋人の遺伝子については考えないことにするわ。
「ミリアです。よろしくお願いします~」
眠いのかしら?
いや、多分能天気というか、のんびりとした性格みたいね。
よかったわね秋人。あんたに似てる部分あったわよ。
「ごめんなさい女神様。この子のんびり屋で……」
「別にかまわないわ。せっかく平和な世界になったのだから、それを十分謳歌してちょうだい」
まあ、私の手柄じゃなくてあんたの夫の手柄だけど。
「それに、あんたにも似たからそうなったんじゃない?」
「私にですか?」
「だって、あんた猫の獣人なのに好戦的じゃないし、戦いはあまり好きじゃないみたいだからね。戦いが好きじゃない獣人だからおっとりしているんでしょ」
それにしても、少々おっとりしすぎではあると思うけど。
「でも、最近では獣人たちも、あまり戦いばかりにかまけないようにしているんですよ?」
「あら、そうなの?」
なんとも意外な話ね。
獣人たちのあの性格は、もはや根底に根付いたものだと思っている。
それを変えるなんて並大抵の努力では無理なのに、一体どんな理由があって意識が変わったのかしら?
「アキトさんの世界では、獣人が日常的に行う喧嘩は大事件みたいですからね。みんな向こうの世界からくる男性のために、変わろうとしているんです」
「ああ、そういう……」
それって、結局なんとも肉食的な考えじゃない?
大丈夫かしら。おしとやかに見せかけて、いざ関係をもったらガツガツと食われる未来にならないかしら。
「じゃあ、ミリアもそうなのかしら?」
「私は、パパのことが好きなので、大きくなったらパパと結婚します~」
ほほえましいわね。
ともあれ、娘との仲も良好みたいでなによりだわ……
と思っていたのに、空気が張りつめたものへと変わった……
フィオから威嚇されるような重圧が発せられている。
なに、私なんかした?
いや、違うわね……この重圧私に対してじゃないわ。
こいつ、まさか自分の娘に威嚇してない?
「だめですよミリア。パパはママたちのものですから……」
「でも、パパはミリアのこと大好きだし大切だって言ってくれましたよ~?」
「ママも言われています」
「でも、ミリアのほうが大切にされてますよ~」
「ママのほうが大切にされています」
……どこがおっとりした好戦的じゃない獣人よ。
秋人をめぐって獣みたいに争おうとしてるじゃない。
というか、娘もこの小ささで親からの威圧を受け流してるあたり、絶対戦い苦手じゃないでしょ!
はあ……仕方ないわね。せめて喧嘩を止めてから帰りましょうか。
「ミリアのほうが若いのでパパにふさわしいです~」
「ママのほうが長い付き合いなので、パパにふさわしいんです」
「あんたたちが喧嘩してたら、秋人が悲しむわよ?」
この一言で、二人は元の仲が良い親子へと戻った。
喧嘩っ早いところも、本気で争うところも、喧嘩後になにごともなかったようにするところも、全部獣人そのものね。
フィオ、あんた獣人の女王にふさわしいわよ……
◇
馬鹿親子の喧嘩を止めて戻ってきたのは禁域の森。
今度はソラじゃなくて、ルチアというエルフに会いに行く。
「おや、女神様お久しぶりです。エルフの村にご用ですか?」
「あんたは……たしか、村長のミーナだったわね。ルチアに会いにきたんだけど、いるかしら?」
「ええ、ちょうど里帰りしてますよ。どうぞこちらへ」
ドワーフかと思うほど小さいエルフに案内される。
これでも、悠久の時を生きている古いエルフであり、この村の長を務めている者だ。
「女神様! お久しぶりです。教会から出られるようになったんですね!」
「久しぶり……え? なに、私って教会の外に出られないと思われてたの?」
「違うんですか? もう何年も外に出られていないので、力を取り戻すまでは教会の中でしか活動できないものかと……」
「それ、誰が言ってたの?」
「アリシアさんですが?」
あいつ! 人が引きこもってるからって、好き放題言ってくれるじゃない!
いや、この件は私にも責任があるか……次会ったときに、娘の前でつねってやるだけで許してやるわ。
「それは、行き違いというか……まあいいわ。今日はあんたと娘の顔を見にきたのよ」
「まあ、わざわざありがとうございます。セレーナ、いらっしゃい。この方が女神様ですよ」
もう、面倒だし元とか訂正もしない。
ルチアに呼ばれてきたのは、やはり彼女によく似た美しいエルフの少女だった。
もう、秋人の遺伝子についても……いや、もうちょいがんばりなさいよ。
「はじめまして女神様。ルチアと秋人の娘のセレーナです。いつも、父と母がお世話になっております」
この子もまた随分と年齢らしくない賢い子ね。
神とのハーフってみんなそうなるのかしら……と思ったけど、シルビアの子は年相応だったわね。
「お世話になったのはこっちだけどね。特にあんたのお父さんには借りがいっぱいあるわ」
「まあ、そうなんですね! やっぱりお父様はすごい方です。素敵な方です」
自分の父親を褒められたことが嬉しかったのか、セレーナはとびきりの笑顔を浮かべる。
まだ幼いのにかわいいというよりは、綺麗というほうが似合う顔だ。
きっと、秋人の世界にいったら、さぞ男たちにもてることだろう。
「ところで……お父様へ借りがあるっていいましたよね?」
「え、ええ。何も返せてないけどね」
? なんか雰囲気が変わったかしら?
「それなら、ちょうどよかったです。女神様も協力してくれませんか?」
「な、なにかしら……」
やけにぐいぐいとくるので、ちょっと逃げ腰になってしまう。
「お父様とお母様が、もっとえっちな雰囲気になるように協力してください」
「なんて?」
「セレーナ!!」
私は今子供に何を頼まれたの?
「なんであなたはいつも、お父様とお母様に余計なことをしようとするのです!」
「だって、こうでもしないとお母様はお父様に手を出さないじゃないですか!」
お~い、子供なのに手を出すとか言っちゃだめよ~
「もっと私が産まれる前のことを思い出すべきです! お父様にぐいぐいと迫って襲ったんでしょう!?」
「人聞きが悪いことを言わないでください!」
「他のお義母様たちは、みんなお父様に次の子をねだっています! このままじゃ、私だけ妹ができないので嫌です!」
なんか、ここも大変そうね……
「大丈夫です。全部私と女神様に任せてください! お父様とお母様がえっちな雰囲気になるようにがんばりますから!」
「私を巻き込まないで……」
結局、子に押し切られそうに揺らいでいたが、最後の最後で踏みとどまったのかルチアはセレーナを叱っていた。
まあ、あれね。なんというか……子供って大人が思っている以上にたくましいわね。
こうして私は七組の母と娘と出会い、どの家庭の子供たちも立派に育っていることに感慨深いものを感じた。
……そう思っておきましょう。癖のある子供たちなのは、私じゃなくて両親がなんとかすべきよ。
それにしても……どの家庭もまだまだ妹か弟が増えそうね。
この世界と向こうの世界で増え続けるであろう半神たち、それはきっとどちらの世界にとっても良いことなのだろう。
「まあ、枯れないようにがんばりなさい。秋人」
私はそれだけを心配して、教会へと戻ることにした。
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