おまけの9 造ろう夢の国

「よくきたな友よ。何もないところだがゆっくりしていってくれ」


「えっと……うん、ありがとうアルドル。でも……本当に何もないな」


 ここは竜王国ルダル。シルビアの故郷で、アルドルやビューラさんの住まう国。

 ……なのだが、大量の瓦礫と木材以外なにもなかった。


「これでも、あの戦いの直後より多少はマシになったのだがな。ようやく森を焼き払い、木々を切り倒し終えたところだ」


「あ~……その、すまぬ」


 なんでも、シルビアが男神を倒したときに国を飲み込むほどの樹海を生み出したらしい。

 原因であるシルビアは、バツが悪そうにアルドルに謝っていた。


「貴様の謝罪などいらん。そもそも、俺たちが弱いから貴様の力を頼らざるを得なかったのが悪い。というか、その殊勝な態度気持ち悪いぞ」


「な、なんじゃと!? 人が素直に謝っておるというのに」


「気にしてないから、いつもどおりのシルビアでいてほしいってことじゃない?」


 どっちも素直じゃないせいで、すぐに話がこじれそうになる。

 すでに互いを認め合っているくせに面倒な関係だ。


「そういえば、ルピナスなら壊れた建物直せるんじゃないの?」


 あの時、ルピナスは一瞬で大量の建物を造っていたし、俺が思うよりもはるかにルピナスの魔法ってすごかったからな。

 俺に話を振られたルピナスは、少し考えるも難しい顔をしていた。


「う~ん。残念ながらこれを元に戻すのは難しいです」


「それはそうだろうな。やはり、国の復興は俺たちで進めるしかあるまい」


 だめか。さすがに、ルピナスでも国一つを元に戻すなんてできないよな。無茶なことを頼んでしまったようだ。


「でも、新しいおうちを造ることはできるですよ?」


「なに!? これだけの荒地だぞ!?」


「壊れたおうちを直すのは大変ですけど、新しく造るならすぐですよ?」


 やっぱりルピナスすごいな。

 俺の無茶振りは無茶ではなかったらしい。


    ◇


「ま、まさか本当だったとは……」


「すごいなルピナス。お疲れ様」


「えっへんです」


 試しに目に見える瓦礫を竜たち総出で取り除くと、ルピナスは魔法を使い新たな建物を次々と造り出した。

 ルピナス一人の力で竜王国はあっさりと復興してしまったのだ。


「感謝するぞ妖精。礼として望むだけの宝を渡そう」


「いらないです。ルピナス、アキトさんと一緒にいるほうが大事です」


 嬉しいことを言ってくれるじゃないか。


「……改めて、お前の選んだメスは全員とんでもないな。正直この妖精はもう少しまともかと思っていたぞ」


「うちのルピナスはすごいからね」


 頭をなでるとルピナスは嬉しそうに笑った。


「ふむ……」


 すっかりと街らしくなった景色を見て、アルドルはなにか考え事をしていた。

 もしかして、竜たちのセンスに合わなかったか?


「どうかしたか? ルピナスの魔法の腕は確かじゃ。住み心地は妾が保証するぞ」


「ああ、そこは疑うつもりはない。しかし、これほど簡単に建造物を造れるのであれば、どうせなら国を変えるのもいいかと思ってな」


 模様替えみたいに気楽に言うなあ。でも、それをできるのがルピナスという存在だ。

 ルピナス自身それに反対はないみたいなので、アルドルの望みは叶えられるだろう。


「国を変えると言っても、どのような方向にですか?」


「これからアキトの世界から来訪する者も増えるのだろう? ならば、その者たちにも入りやすく、訪れたくなる国にする必要があるはずだ」


「……驚きました。あなた色々と考えているのですね」


「次期王だからな」


 真面目に国のことを考えるアルドルに、ビューラさんは感動しているようだ。

 そうか、こいつも自分の国のことちゃんと考えているのか。


「そろそろ代理は必要なくなるかもしれませんね。アルドル、あなたの考える国を教えてください。その結果をもってあなたを正式な王に任命することとなるでしょう」


「ほう? そんな簡単なことでいいのか。ならば明日にでも貴様は玉座を譲ることになるぞ」


 随分と自信があるみたいだ。そうなると、アルドルが王に戻るのもすぐのことだろうな。


「よし、手伝えアキト。俺の案とお前の世界の知識さえ合わせれば、ビューラどころか国中のメスが納得する国ができるはずだ」


「ああ、たしかに、俺の世界の人たちがどんなことを望んでるかわかったほうがいいね」


 こうして、俺とアルドルは二人で理想の国目指して話し合うことにした。


    ◇


 できた。これならビューラさんも納得するだろう。

 しかし、話し合いと言いつつ結局互いの意見を否定することが一度もなかったな。

 きっと、それだけ完璧な国ということだろう。


「…………えっと……これはなんですか?」


「それはロボットに変形する建物だね」


「巨大な人型の人形だ」


「はあ……」


 これでまた男神たちとの戦いになったときは、戦うための力にもなるだろう。


「そもそもなんで全体的に煙だらけなんじゃ? こんな町住みづらくてかなわんぞ」


「それは蒸気だよ。それをエネルギーに変換するんだ」


「いらんじゃろ。魔法のほうが便利じゃし」


 そう言われてしまうと何も言い返せない。でもよくない? 町の雰囲気いいと思うんだけど。


「あっ、この大きな噴水はきれいです。みーちゃんが好きそうです」


「そこは有事の際に、中からロボットか戦闘機が出てくるようにしたいんだ」


「??? もっと出し入れしやすい場所のほうがよくないです?」


 いや、でも……目につく場所だと敵にばれちゃうし。


「どうだビューラ。これでは貴様も認めざるをえまい!」


「えっと、男神との戦いの功績もありますし、王にふさわしくなったと思ってたのですが、こんなもの見せられた後だと……」


「却下じゃ! こんな国住めるか、アホども!」


「そもそも、ルピナスこんなの造れないです……」


 おお……

 珍しくシルビアが俺に怒っている。なんだか新鮮だ。

 しかし、それほど俺とアルドルの夢の国が気に入らなかったということなのか……

 なにがいけなかったんだ。


「まだまだ、女王代理は続けないといけませんね……」


 俺とアルドルは正座をしながら、ビューラさんの疲れたような声の理由を考え続けるのだった。

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