第173話 渇きを満たす一滴の雫
「そう、たしかにあれだけの神たちを復活できるんだから、あなたの神としての適性は十分すぎたわね」
「神様になる条件、ゆるすぎじゃないですか?」
たぶん、俺の世界からきた人間、ほとんど神様になれると思うぞ。
「神になるというのなら、客観視できるようにしていかないとね。それで、あなたはこれからどうするの? 神としてこの世界を管理していく?」
「いや、最初に話していたとおり、俺はみんなと自分の世界に帰りたいです。でも、その前に他の女神様たちの復活ってもうできないんですか?」
ここから立ち去るにしても、この世界の危機を乗り越えたのを見てからにしておきたい。その思いは変わりはしない。
「ほんと、神にぴったりなのにもったいないわね。姉様たちの復活なら、あなたの力を借りればできるわ。各国の子たちに改めて信仰してもらってもいいし、あなたの力を借りられるのなら今すぐにだって」
「俺の力ってことは、神力ってやつですよね? それなら、全部使っちゃっていいので、女神様たちを復活させてください」
「ほんとうに……欲がないのね、あなたは」
「ありますよ。ダートルも言ってましたけど、俺はハーレム野郎ですから。誰か一人じゃなくて、こんな美女四人と一緒にいたいと願うとか、欲しかありません」
それもかなり分不相応だ。
それでも、ついてきてくれる四人のことをなによりも大切にしたいので、俺は神様なんて向いていない。
絶対に、世界よりもこの四人を贔屓するだろうからな。
「あ、アキト様……」
「……あんた、なんで鼻血まみれなの?」
「鼻から愛が溢れてきたです」
前もあったなそんなこと。
アリシアは無理そうなので、代わりにルピナスが回答すると、イーシュ様は少しだけ呆れていた。
「感謝します、男神秋人。あなたの力の一部は女神たち復活のために、ありがたく使わせていただきます」
イーシュ様が深々と頭を下げると、俺の体から神力の一部が抜けていくのがわかった。
え……こんなに少しでいいの? 俺、どれだけ効率の悪い使い方で神力を無駄にしていたんだ。
しばらくして、光が人の形になっていく。
まさしく、神話に描かれるようなイメージそのままの女神様たちが、次々と目の前に現れる。
八百万とはいかないが、少なくとも数十人はいるのだが、男神と比べて随分多いな。
「てっきり、男神たちと同じくらいで、十人にも満たない人数かと思ってました」
「本当はね、男神だってこのくらいいたのよ。でも、今回復活したのはあくまでも戦争の引き金となった一部の男神たちだけだったの」
なるほど、あいつらが争いの原因となり、残りの神々は徐々に争いに加担していったってことか。
そんな疑問に答えてもらっている間に、最後の女神様も無事復活できたようで、俺の神力の消耗がなくなった。
「このたびは、我々が原因である問題の後始末をさせてしまい、大変申し訳ございませんでした」
女神様たちが一様に、俺たちへと頭を下げて謝罪をする。
この声は、俺が神様になるのを手助けしてくれた女神様だ。
きっと、この女神様が一番偉い神様っていうことになんだろう。
「いえ、こちらこそさっきは助けてくれてありがとうございました」
「い、いえ……それは、元々私たちのせいで起こった問題でしたので」
「でも、俺がダートルの狙いどおりに行動してしまったので、俺の責任でもありますし」
多分、このままだと平行線だ。
そう思った矢先に、俺と女神様の会話に割って入る者がいた。
「もう終わったことですし、ご主人様はそんなことを気にする方ではありません。さっさと、問題を解決してください。私たちは、早くご主人様にかわいがってもらいたいんです」
うん、いつものソラだね。
あまり他の人に興味がなく、俺との時間を大切にしてくれて、とにかく甘えん坊だ。
だけど、その姿で声に出して言われると、さすがにこちらも照れくさい。
「失礼しました……たしかに、これ以上あなたたちの貴重な時間を奪うわけにはいきませんね」
女神様もそんなソラを見てくすりと笑うと、改めて俺に顔を向けた。
「男神秋人、あなたにはこの世界の最高神になってもらうこともできます。しかし、あなたの望みは、ソラとアリシアとシルビアとルピナスと、元いた世界へ帰ること。そうですね?」
「はい、すみませんが、この世界のことは女神様たちにお任せします」
「ええ、イーシュだけでなく、我々まで復活した以上は、必ずこの世界を修復することを約束します」
よかった。これで、唯一の心残りも解決できた……あれ、元のもろもろの問題があったな。
ソラと一緒に帰るために、ソラを禁域の森から解放する。
シルビアとルピナスが向こうの世界でも騒がれないように、何らかの方法を考える。
それらをどうにかしないと、俺たちが揃って元の世界に行くことはできない。
……というか、俺も一応神様になったらしいけど、向こうの世界に帰って平気なんだろうか。
「えっと……俺たち五人で元の世界に帰りたいけど、まだ色々と問題がありまして」
「その件ですが、いくつかは解決しています」
そうなのか? 俺が知らないうちに、みんなが自分で解決してくれたのかな。
「ソラは女神へと昇華した以上、もはや禁域の森へ縛られていません」
「そうなのか、よかったなソラ!」
「ええ、ありがとうございます……」
抱きしめたソラは、ちょっと恥ずかしそうに顔を赤くしながらもそう答えた。
尻尾の動きからするに、喜んでくれていることは知っている。
でも、さすがに女神様たちの前だし、これ以上は自重しておこう。
「もっと、頭と尻尾もなでてください」
こっちが我慢しているというのに……このわんこは相変わらず、周囲のこととか気にしないんだよなあ。
言っておくが、ダートルがいなくなったいま、俺はこれまで以上のスキンシップをとることだってできるんだからな。
ということで、ソラには時と場合をわきまえてもらいたいという願いを込めて、思いきりソラのぬくもりを堪能することにした。
体は前みたいにふわふわしていないけど、尻尾は健在だからそこを重点的にかわいがる。
「くぅん……」
しばらくソラをかわいがると、ソラは満足したのか俺にもたれかかって鳴き声をあげていた。
「仲がよろしいですね」
女神様たちは、俺たちの好意を咎めることはなく、にこにこと見守るようにしてそう言ってくれる。
本当に良い女神様たちでよかった。さすがに、これ以上は無礼だし、ちゃんと話を聞かないとな。
「話の続きですが、男神秋人が信仰されているのは、あくまでもこちらの世界でだけです。そのため、元の世界に戻った場合は、そちらの女神ソラと共に、神力はほとんど使えない人間に近い存在となるでしょう」
それは、むしろありがたい。
向こうで神様の力なんか使って騒ぎになられると困るし。
「そして、シルビアとルピナスが、向こうの世界に行くと騒ぎになるという話ですが……すみませんが、すでに向こうの世界は大騒ぎになっています」
「え……?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます