第167話 神規模のDIY

「さて……こうなったらもう間引きがどうとか言ってらんねえよな」


 なんでまた急にそんな方針の変更を……


「この世界の人たちへの攻撃を……やめるってことか?」


「なんだ、そんなに怯えながら聞くほど心配なのか?」


 仕方がないだろ。所詮はちっぽけな男子高校生。

 よりによって神と敵対するなんて、お前がくれたサービスとやらで、危機感が麻痺でもしてないと怖いに決まってるだろ。


「でもまあ、そんなお前には悪いがやめねえよ。俺たちのことを知っているやつらは、お前ら含めて全員この世界から消えてもらう」


 やっぱり、そこを変える気はないか……


「なんのために……」


「他の男神が消えて、イーシュも消えかけで、女神も復活には一歩足りてない。なら、わざわざ信仰を集める必要もないだろ。実質、神は俺一人になったんだから」


 そうか、もうこの世界で力のある神はこいつだけになってしまったのか。


「だからな。下手に神を知ってるやつのほうが邪魔になった。お前らも他のやつらが襲った国の連中もだ」


「俺たちはともかく……他の国の人たちは、お前たちが襲わなければよかっただけじゃないか……!」


「仕方ないさ。神なんて気まぐれなもんなんだ」


 最悪だ。勝手に襲っておいて、都合が悪くなったら消すのか。

 イーシュ様と違って、こんなやつが支配する世界なんてろくなことにならない。


「それでもな。俺の復活を手伝ってくれた、お前さんへの感謝の気持ちくらいはあるんだぜ? 最後のチャンスだ。お前一人なら元の世界に帰してやる」


 ダートルが鎖を操ると、俺とソラは逆さ吊りの状態になり、いよいよ身動きが取れなくなった。

 神に歯向かった俺が、無事に元の世界に戻れる最後のチャンス……


 神様に余計な邪魔をされていない、俺本来の気持ち……

 そんなもの決まっている。

 大丈夫、怖くない。この世界で一人だった俺の不安や寂しさを埋めてくれた大切な人が、四人もいるだろ。俺には。


「俺は……ソラも、アリシアも、シルビアも、ルピナスも大好きだ。ずっと一緒にいてほしいと思っている。だから、いまさら一人で帰るなんてありえない」


 やっと言えた…

 まったく……人の気持ちに干渉して、言動や思考を制限してくるなんて、ろくな神様じゃないな。


「そうか。じゃあ、ここでお別れだ」


 ダートルの手にどこか荘厳さを思わせる槍が現れる。

 創造の神とか言ってたからな、俺たちを捕らえている鎖もあの槍も、ダートルにとっては簡単に創り出せる代物なんだろう。

 ダートルは俺の顔を貫くべく、その槍を投擲した……


 目を閉じる。

 それでどうにかなるわけじゃないけど、少なくとも恐怖心は多少なりともやわらげられる。

 それが、俺にできる神へのちっぽけな抵抗だった。


 ……痛みがこない。意識もまだある。

 恐る恐る目を開けると、そこには疲れ果ててその場に崩れながらも、結界を張るアリシアがいた。


「あ、アリシアバリア……」


 ぜえぜえと完全に息が切れている様子だが、そんな状態でも俺を守ってくれたのか……


「ま、間に合いましたよ……!」


「なんで、お前らが……ああ、そうか。イーシュが入ることを許可していたな、お前らだけは」


 アリシアから少し遅れて、ルピナスを背に乗せたシルビアもやってきた。


「よくやったアリシア! 行くぞルピナス!」


「はい! お任せなのです!」


 ルピナスが手をかざすと、ダートルの頭上にビル群のようなものが現れた。

 ……え? ルピナスってもしかして強いの?

 あんなものがふってきたら、ひとたまりもないぞ。


「アナンタを倒した妖精の力か。単純な質量攻撃とか、あいつにはよく効いただろうな」


 大量の建物がダートルめがけて降り注いだと思ったら、ダートルは手のひらを上空へと向ける。

 そして、ダートルと建物を遮るように、造られた天井が落下する建物をすべて防いだ。


「一瞬でそれだけの物を生み出せるっていう点では、俺の力と似ているが……」


「アリシア! 二人を縛る鎖を頼んだぞ!」


 シルビアがダートルを足止めする。

 突然、目の前の空間を埋め尽くすほどの草木が現れた。

 また、ダートルのやつが創造の力で作ったものか?


「おいおい、お前もか。なんだよ、俺の力がちんけなものに見えちまうな。どいつもこいつも、好き放題大量に生み出しやがって」


 しかし、ダートルも驚いている様子から察するに、これはシルビアの力のようだ。

 ルピナスといいシルビアといい、普段はこんな力使わないから知らなかったけど、やっぱりみんな強いんだな。


「アキト様! ソラ様! すぐに、それを破壊します!」


 シルビアのおかげで、アリシアは俺たちの元へとたどり着き、鎖を掴んで引きちぎろうとしてくれた。

 助かる。逆さ吊りにされたままだから、頭に血が昇ってきそうだったんだ。


 しかし、アリシアが俺たちを縛る鎖を手にした瞬間。

 鎖は先ほど以上の力で俺たちの体を締め付け始めた。

 ああ、そうか……魔力で強化されるとか言ってたな……


「ごめん……アリシア。助けてくれるのは、ありがたいんだけど、多分アリシアの魔力で鎖が強化されちゃって、締め付けが強くなってる……」


「わわっ! すみません!」


 慌てて手を離すアリシア。

 どうしたものか、誰かに助けてもらうこともできないなんて、思った以上に厄介な拘束具だ。

 だから、ダートルはシルビアにかかりっきりで、アリシアのことを放置していたのか。


「へえ、ただの森じゃなくて、対象の力を吸い取るのか。創造したものに特別な力を付与するなんて、ますます俺と同じだな。なら、こんなのはどうだ?」


 なんだあれ、水色の石?

 ルピナスの攻撃を防ぐために作った天井に、大量の宝石のようなものが生えてきた。


「水を生み出す魔石の亜種みたいなもんだ。こいつが放水するのは、植物を枯らす水。視界が悪いのはよくないからな」


 ダートルがそれに力を込めると、天井からスプリンクラーのように水が散布される。

 俺にはただの水にしか思えないが、シルビアが産み出した森の木々はその水を浴びて次々と枯れていく。


「なんでもありかよ!」


「ああ、そうさ。なんせ神様だからな」


 カーマルもだが、神様ってやつはできることが多すぎる。

 なにをしても通用しないのではと頭によぎってしまう。


「さて……いい加減面倒だし、ここらでお前らには消えてもらおうか」


 今度はなんだ。もういい加減にしてくれ。

 ダートルは新たに創造した水晶のような道具を掲げると、水晶が怪しく光る。


「くそがぁっ!! 神を殺してただですむと思うなよ!!」


 すると、怒りに染まった目でシルビアを睨む男が現れる。


「ウルラガじゃと!?」


 それだけじゃない。似たような男が二人。

 ウルラガという名前、そしてルピナスとアリシアの驚く顔。

 あれは、みんなが倒したはずの男神たちということか?


「うえっ……もうやめてくれよ。どうせそのうち復活するだろ? 肉体がないほうが安全だし、俺の復活は後回しでいいよ」


「そんな悠長なことを言っていたら、先に復活した女神どもに永久に封印されるぞ。だいたい、自然に復活など何万年あっても時間がたりないが、それでいいのかよ」


「悪人さん……」


「面白いだろ? 神さえも復活させる蘇生の道具さ」


 一度倒した神さえも復活できる。ダートルというのは、そこまで規格外の神ということなのか……

 俺たちを助けようとしていたアリシアは、少し迷いながらも男神の一人と対峙した。


「アキト様。大丈夫です。一度倒した相手、必ずアキト様をお守りしますから」


 きっと嘘だ。

 アリシアももうそんな気力も魔力も残っていない。


「嬉しかったです。私たちのことを本心から大好きと言ってくれて、それだけで私たちはいくらでも戦えます!」


 こうして、アリシアも、シルビアも、ルピナスも、再び男神との戦いを強いられることとなった。

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