第165話 先輩と後輩の神への反逆
「お~い、ふざけんなよ。せっかく溜めてた神力なくなるだろ」
「やっぱり斬撃は効くんですね! つまり、私とアキト様の共同作業? 結婚ですね! これはもう!」
「うわぁ……なんか、関わりたくねえよ。どうすんだよこいつ」
一刀両断です。もう、スパスパ斬れますよ。私の力とアキト様の力が合わさっているのですから、当然です。
さあ、今の私はなんでも斬りますよ。アキト様との縁以外ならなんでも斬ることができます。
「なんだその顔……さすがに調子に乗りすぎだろ」
芸がないですね。男神が指を動かすと、またも大量の化け物が現れました。
最初より強いです。打撃は無効化します。とくれば、次は斬撃を無効化する化け物でしょうか?
群体の神を名乗るだけあって、私に群がるような大量の化け物を次々呼び出すのはさすがです。
でも、殴れるなら倒せますし、斬れるならやっぱり倒せます。
「打撃も斬撃も無効。それくらい予測済みですよ! フウカさんの力お借りします!」
案の定私に対応するべく、双方を無効にする化け物たちが相手でしたが、アリシアソードの本当の力を舐めてもらっては困ります。
フウカさん本人はいませんが、彼女の込めた魔力を引き出して、私はアリシアソードの刀身に風を纏わせました。
「はぁ? 物理型じゃねえのかよ。なんだそのスキル」
剣を横にかまえる。そのまま体ごと横回りに一回転。
ぐるりと全方位へと刃を向けて元の方向へと向き直る。
これで完成。
「これこそが、アリシア回転切りです!」
「ふざけやがって……反則だろ。その場で一周回っただけで、なんで俺の天使たちの首が落ちるんだよ」
「フウカさんの力です!」
刀身から風の魔力で作った刃を放ちましたからね。
打撃でも斬撃でもなく、魔法攻撃ならいけると思いましたが、うまくいってよかったです。
「めんどくさっ……お前後回しでいいや」
新たな怪物が産み落とされます。この姿と色は、先ほどの打撃無効の怪物?
ですが、産み出された場所がよくありません。
これまでと違って、私ではなく、リティアたちのすぐ近くにそれは現れました。
「まずは、弱いやつらから終わらせる。定石だよな」
「リティア!」
アリシアソードを手に、リティアたちを救出しようと駆けます。
いえ、駆けようとしました。
ですが、それは私の前に現れた化け物たちに妨害されてしまいました。
「んで、お前にはレア個体使ってやるよ。光栄に思え、こんな消耗するやつら滅多に使わないんだからな」
「ガナ様~! 久しぶりです。お会いしたかったです!」
顔があり、言葉を発し、巨大な体と強大な力を持つ。
それを呼ぶのは、やはり化け物という言葉が適切だと思います。
まずいですね……今度の化け物たちは、かなり手こずりそうです。
「本気ってわけですか……」
「あぁ!? 私たちとガナ様のスキンシップ邪魔すんじゃないわよ! このブス!!」
「お前らうるさい。さっさとあの人間倒してこい」
「は~い」
感情どころか顔もない機械的な化け物とは正反対ですね。
顔も感情も随分と激しく変化する。そんな化け物が今度の相手でした。
◇
「聖女様! これ以上守るだけでは押しつぶされます!」
「わかってる! 見てたでしょ!? こいつらには、打撃は通用していなかった! 武器がすべて壊された以上、こいつらに有効な攻撃ができないの!」
いよいよ進退窮まったわね。ぼろが出たとも言えるかしら……
みんなの役に立つ聖女様。みんなに頼られる聖女様。みんなを救う聖女様。
そうなりたかったけど、苦言に対して怒鳴るように叫ぶしかできないなんて、これが私の限界ってことみたい……
「お忙しいところ、失礼します!」
諦めに心を塗りつぶされた私に、聞いたことのある声が届いた。
あんたそんなやつじゃなかったでしょ。誰よりも早く逃げるタイプだったじゃない。
「なんの用よ……マルレイン」
「どうも、いつもご贔屓にしていただいております! 武器が不足していると聞き、届けに来ました!」
それは、かつてアキトを騙って汚い金を稼いでいた女。
フィルに負けて、財産を失った女。
誰よりも卑怯で金に汚くて、自己保身だけが得意だった……そんな女だった。
「こんなときにまでお金稼ぎ? 死んだら元も子もないんじゃない?」
「国がなくなったら、それこそ商売どころじゃありませんからね! 王女にも頼まれたことですし、せいぜい生き延びるために、皆さんに強力な武器を提供いたします!」
自分たちも大変だというのに、フィルのやつこっちの心配なんてしている場合じゃないでしょ……
「代金は全部フィルにつけておきなさい! 戦える者たちは、マルレインから武器をもらってすぐに準備を!」
よかった。誰も折れていない。
折れそうだったのが私だけというのは、やっぱり小市民な私の限界ってところみたいね。
だけど、教会の者たちは違う。覚悟しなさい天使ども、私以外は簡単に折れないほど強いわよ。
「あぁ、もう! めんどくせえ! 補給も武器も食料も全部潰したはずだろ! 商人一匹ごときが、神の邪魔してんじゃねえよ!」
「神を名乗るなら、なにか買ってからにしてくれます? 私にとっての神様はお客様です」
相変わらずのにくたらしい発言は、神よりも天使の怒りに触れたらしい。
「ガナ様に向かって、調子に乗ってんじゃないわよ!!」
「おい、貴様らにはあの人間を倒せと言ったはずだぞ」
どう見てもこれまでと違う知性ある天使は、私たちに今にも襲いかかってきそうだった。
それでも、ガナの一声を聞いた瞬間に、私たちよりも命令のほうを優先したらしい。
まるでよく躾けされている犬みたいね。
その心の声が届いたのか、私たちへの怒りは収まらなかったのか、天使たちは最後まで私たちを睨みつけていた。
「はぁ……所詮は量産品の天使か。俺が指示しないと、頭悪くて使い物にならないんだよなあ……」
あの天使たちが心配になったのか、ガナは私たちのことは一瞥もせずにアリシアへと集中する。
……ここは、もう大丈夫。
マルレインが用意していた武器は、最初に教会の者たちが持っていたものよりも、はるかに上質な武器。
これで勝てないようなら、アリシアに面目が立たない。
「引退した相手にばかり任せていられないわね! 行くわよみんな!」
本当に、頼もしい仲間に囲まれているわね。私は。
◇
「アリシアソード!」
「いったいわね!!」
あまり効いていませんね。
「アリシア回転切り!」
「盾役! なんとかしなさい!」
「命令すんじゃないわよ!」
これもだめですか。
「アリシアボンバー!」
「ちぃっ! あんた本当に人間なの!?」
「聖女です!」
炎と風の力で大爆発を起こしても効いていません。
むう……正直まずいですね……
今回の怪物たちは、一人一人が今の私と同じくらい強いんじゃないでしょうか。
「本気でいきます」
「なにを強がってんのよ!!」
斬れましたね。
そして、私の宝物は……私の力に耐えきれずに壊れました。
ごめんなさい、アキト様。あなたにせっかく作ってもらった剣を壊してしまって。
「お前本当にどうなってるんだよ」
天使の声はもう聞こえません。
ガナも狙ったのですが、直前に天使たちがガナを守るために集まっていたためか、無傷のようです。
「アキト様の作った剣は本当にすばらしいものでした。私の全力にも一度だけ耐えてくれましたから」
一閃に本気の魔力を込めました。
アリシアソード。さすが私とアキト様の子です。崩壊しながらも一閃で天使たちをすべて斬り裂いてくれるがんばりやでした。
「くそっ、またダートルとウルラガに嫌味を言われそうだな。これでせっかく溜めた神力も一から溜めなおしかよ」
「よくもやってくれたわね! このブス!!」
「ガナ様の力を奪うなんて、絶対に許せない!」
「今度はあんたの体が真っ二つになるように引き裂いてやる!」
私の力に耐えるだけの武器はありません。
まいりましたね……まだ、ガナが控えているのに、本気で戦うしかないのでしょうか。
あの森で暮らして、私の魔力はさらに増え続けました。そんな私が自身を強化したら、きっと体のほうが耐えきれない。
自らの肉体が崩壊するのが先か、天使たちを蹴散らして、ガナを倒すのが先か……
「アキト様はかわいいって言ってくれました!」
平気です。男神は必ずここで倒しますから。
そうすれば、ソラ様やイーシュ様が必ず、アキト様を守ってくれるはずです。
さあ、最初で最後の本気を出しましょうか!
「なに言ってんの? どう見てもあんたたちのほうがブスじゃない。揃いも揃って顔色悪くて、男の趣味まで悪いなんて最悪ね」
あれ、リティア?
そんな挑発するような真似したら、天使たちが……
だめですよ。この天使たちあなたより強いんですよ?
憤怒の形相を浮かべ、声にならないほどの叫びをあげる巨体の天使たち。
それらがすべて……リティアへと殺到しました。
「リティア!!」
リティアが天使たちにやられてしまう。
その覚悟ができているのか、リティアは天使たちを見据えて大きく息を吸っています。
そして、天使たちがいよいよ目と鼻の先に近づいたとき、彼女は大声で叫びました。
【男神ガナを殺せ!!】
天使たちはその叫び声を聞くと、急停止してから反転します。
怒りから困惑へ、感情を書き換えながらも、彼女たちは主であるはずのガナへ反旗を翻しました。
「なんだその力! くそっ、無駄遣いさせやがって!」
ガナが指でなにかを操作すると、天使たちは次々と膨れ上がって破裂していき……
「アリシア! あいつは任せたわ!」
そう、考えている暇なんてありません。
邪魔な天使はガナが処分した。もうガナを守る者はいない。
今まで抑えていた魔力を限界まで行使する。自身を強化するも、体は耐えきれずに傷だらけになる。
もって数秒。でも、それで充分。
「今の私なら! アキト様をも押し倒せます!」
「はあっ!? おい、待て!」
きっと、ガナには一瞬の出来事だったはずです。
強化する。体が崩れる。近づく。拳で貫く。
ただ、それだけでした。神を倒すのに、特別なことなんてなにも必要ないんです。
「とはいえ……思ったよりもぼろぼろになっちゃいましたね……」
「本当に、無茶しすぎよ。あんた、私がこなかったら死ぬ気だったでしょ」
そう言いながらも、リティアは私の体を治療してくれました。
ああ、随分と回復魔法が上手になったんですね。
「大丈夫です。死んでも生まれ変わってアキト様に会いに行きますから」
「それは大丈夫って言わないの」
治療は終わったとばかりに、鼻を指で押されました。
なんとか……一人も失わずに、男神を倒せたみたいですね……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます