第164話 群がりの中の聖女降臨
「フィル様! 巨大な怪物たちが退いていきます!」
「やはり、必要以上にこちらを攻めてこないようですね。確実にこちらを削るように、一貫した行動をとっています」
襲われた場所は大きく分けて三つ。
一つは私たちが抗戦している商業区。化け物たちは、主にこちらの武器と防具の破壊に執心している。
一つはリティアたちが守っている教会区。ここが一番激しい攻撃を受けている。なんせ、リティアや教会の関係者たちが直接狙われているのだから。
きっと、治療ができる者たちを排除するよう行動しているのでしょう。
そして、最後が居住区。ここにも勇者のみんなに守ってもらっているけど、それを率いることができる者がいない。
「このままでは……レミィたちが」
だから、仲間を心配するその言葉もしかたがないというもの。
「大丈夫です。ルメイに勇者を率いて抗戦してもらうよう頼みましたから」
「それが心配なんです! あの、ルメイ……王女は、信用できません!」
「あの子も国を滅ぼしたいわけじゃありません。そして、かつてあなたたちを率いていた者でもあります。今はとにかく人材が足りていません。許せとは言いませんが、あの子を利用してでも国を守らなければならないのです」
まだ不満はありそうだけど、一応はこれ以上の問答はやめることにしたらしい。
もうみんなも限界に近い。
最初に倒した個体とは明らかに異なる化け物の群れ。それらがいつ襲撃するかもわからない状況で、倒す手段も見つかっていない。
援軍も期待できない。町が包囲されているため、町の外からの救援は不可能で、町の中でさえも化け物の群れにより分断されている。
「それでも……必ず勝機はあるはずです……」
きっと親友も、妹もまだ抗っているはず。
そうでなければ、ここにはより多くの化け物が集まっているはずだから。
だから、私たちは、簡単に倒れちゃいけない。
「リティアやルメイたちに、迷惑をかけるわけにはいきませんからね……」
◇
「ああ、もう! そうだと思ってたわよ!」
見るからに頭悪そうだもんね。あんたたち。
顔がないのがいけないのよ。感情なんてなくて、ただ命令をこなすだけの虫みたいな集団。
まあ、そんな相手には私の力だって通用しないわよね。
「切り替えていくわよ! とにかく、結界で守り続けなさい!」
「守るって、いつまでですか!」
「知らない! でも、ここで誰かが諦めたら全滅するわよ! がんばりなさい!」
最初に武器を失った。
教会にも戦闘に長けている者はいるけど、こいつらを斬りつけるごとに武器は損壊し、一本また一本と壊れて使い物にならなくなった。
そうまでして倒したはずの化け物たちは、どこからやってきているのか知らないけど、次々と増えていき倒した分よりも多くなった。
次に逃げ場を失った。
はっきり言ってしまうと、この化け物たちは私たちよりも強い。
そんなやつらが、徒党を成してこちらを包囲しながら襲ってくるのだから、教会にこもって抵抗する以外の選択はとれなかった。
最後に希望を失った。
傷を負った者たちを治療したときにわかったけど、治療ができる者が優先して狙われている。
たしかに、町一つを攻めているのだから、倒れた者を回復できる私たちは邪魔でしょうがないのかもしれない。
だから、敵は私たちを一人も生かして逃すつもりはない。
孤立し、救援も望めない状況で、こちらの降伏は許されない。
周囲の者たちの顔にも諦めの表情が浮かぶので、檄を飛ばすもそれもいつまでもつか……
「私がもっと強かったら……」
情けない。聖女のくせにこの状況を打破できないなんて。周囲の希望にもなれないなんて。
だから……
「悪いけど頼んだわよ。アリシア」
「こういうのは適材適所って言うんですよ。というわけで、ちょっと暴れてきますね」
まったく、頼りになる先輩ね。
町全体が化け物に包囲されていたはずなのに、どうやって入ってきたのか。
珍しく息を荒げている様子から、きっと全速力でこの町を目指して、邪魔な化け物たちを倒して進んできてくれたのがわかる。
「聖女様……」
私を心配したエセルは、どんな言葉をかけるべきか迷っているらしい。
あんたにも心配させてしまってるのね。でも、今は全部後回し。
「気を抜いてる暇はないわよ。まだ、化け物はそこら中にいる。アリシアが殲滅してくれるまで、しっかり守り抜くのよ!」
これでいい。
私は、アリシアみたいにはなれない。だから、自分の出来る限りのことをするんだ。
◇
顔のない人間のような形の白い生き物。
ツェルール全体ではなく、まずは教会が狙われていたようです。
つまり、私が長い間住んでいた町であり、リティアもいて、たまたま町を訪問したフィル王女までいるようです。
ここが落とされたら、一気にツェルールは男神に崩壊されるでしょう。
「ですから、ちょっと暴れますね!」
幸いなことに、リティアを筆頭に教会の方たちはみな優秀です。
周囲を守れるだけの結界を張ることができ、これならば、私がいくら暴れたって町は無事でしょう。
被害を気にせずに暴れまわれる。つまり、本気で戦えるということですね!
「えいっ!」
顔が潰れるというか消し飛びました。いえ、もともと顔はないですけどね。
とにかく首から上が吹き飛んだら、そのまま体は崩壊していきます。
見たことがない生き物ですけど、弱点は人間と同じみたいですね。
「これで! 全部ですね!」
さすがに疲れました。
ですが、なんとか教会に群がる怪物たちは倒し切りましたし、次は別の場所の化け物を倒しに……
「うわぁ、なんだよその強個体。ヒーラーは早めに潰そうと、こっちも強いの生産してぶつけたはずなのに」
偽アキト様ではありませんね。
ですが、男性ですし、なによりも今ならはっきりとわかります。神の力が。
「男神ですね?」
「まあね、群体の男神のガナってんだ。よろしくしなくていいから、こいつらとだけ戦ってろよ」
さっき倒した化け物たち……とは少しだけ違いますね。
手や足が大きかったり、武器を持っていたり、角や羽が生えていたり、さっきの化け物の強化版といったところでしょうか?
「まあ、これくらいなら問題ないんですけどね」
たしかにさっきより強いです。
でも、まだまだ私一人でも戦えるくらいの相手なので、ささっと叩き潰してしまいましょう。
「うっそ~、ノーマル個体じゃ無理か? レア個体はコスト高すぎるし、あんまり使いたくないんだけどなあ……」
ただ、まだまだ余裕があるのは向こうも同じようですね。
「とりあえず、これでいけるっしょ」
今度は色違いですか……
強さはあまり変わっていないようですが? 仮にも神がいけると判断した以上、なにかあると見た方がいいですね。
「まずは殴ってから判断します!」
「脳筋じゃん。見た目かわいいのに、なんだこいつ」
利きませんでした。
というか、殴った箇所に自動的に障壁のようなものが張られて、私の拳を通さないようになっていますね……
「それ、打撃無効特性のタンクね。アナンタとか、これに手も足もでないし、お前もこれで完封できるっしょ」
打撃ですか……
ふふっ、私を以前のアリシアと思ったら大間違いですよ。初対面ですけど。
「今こそ! アリシアソードを使うときということですね!」
「なんだよこいつ……」
さあ、私とアキト様の愛の結晶よ、今こそ新たな伝説を刻むときです!
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