第115話 根元が同じスキルツリー
「申し訳ございません」
やめてほしい。一国の王女でしょ、あなた。
軽々しく土下座をされると、こっちの方が困る。
「ご命令いただければ、いつでも腕を斬り落とします」
だからやめてほしい。
さすがに自分たちの作った物を壊されていい気分はしないけど、さりとてたかだか剣一本だ。
それが壊れたからって、そんな簡単に自分の腕を斬り落とさないでくれ。
「頭をあげてほしいのと、腕斬り落とすとか怖いからやめてね。まじで」
フィルさんが久々にこの森を訪ねてきたと思ったら、初手土下座をされる。
そして、初めて会うはずの女性も土下座をすると、自らの腕を斬り落とそうとした。
理解が追いつく前に、とんでもない凄惨な光景を見せられかけるも、なんとかアリシアが止めてくれた。
よかった……トラウマになるところだった。
「アキト様に変な物を見せてはいけませんよ?」
珍しくアリシアが真面目に怒ってる。
さすがに付き合いも長くなってきたので、俺が本気で嫌がってるとわかってくれているのだろう。
「というか、剣を壊したのその人じゃないんでしょ?」
「ですが、私が店を無人にしたことが原因です」
「それは、まあ問題だったかもしれないけど、腕一本と引き換えにするほどじゃないってば」
そもそも、剣は何で壊れたんだろう。
聞けば粉々に砕け散っていて、精霊たちの魔力も消えてしまっていたらしいけど、もしかして俺の作りの問題じゃないか?
自分が原因で腕を斬られるなんて、たまったもんじゃないぞ。
「あれかなあ。精霊たちの魔力を込めすぎて中から暴発したとか」
「みんな、他の剣と同じだけの魔力を込めたって、言ってたですよ?」
ルピナスが言うなら、きっとそうなんだろう。
それに、先生に確認してもらってるわけだし、魔力の暴発なんてことにはならないか。
じゃあ、誰かが壊してしまってってことになるけど、誰がなんのために?
「もしかして、主様に嫉妬した他の職人たちに恨まれたか?」
「う~ん……考えにくいことですが、盗むならまだしも壊す理由が思いつきませんね」
「案外間違って壊しちゃったのかもよ? アリシアみたいな力が有り余ってる子が手に持って」
「私の力は満ち溢れていますけど、ちゃんと制御できてますよ!?」
心外とばかりに、ぷんぷんと怒るアリシアを見て気持ちを落ち着かせる。
「あまり気負いすぎないでね。剣ならまた作るから」
そりゃあ俺だってみんなで作った物を壊されて、いい気はしない。
だけど、必要以上に自分を追い込むくらいなら、気にしないでほしいというのも本音だ。
「どうしたのアリシア?」
なにかを恵んでもらうかのように、両手のひらを俺に向けるアリシア。
まだお菓子ってあったかな?
「それなら、アリシアソードを作ってください」
「え~……」
あの日から一日一回はねだってくる。
なんだか、おもちゃを欲しがる男の子を彷彿させるな。
でも、それだけ欲しがってくれるなら作るか。
「じゃあ、フィルさんたちに渡すときにもう一本作るよ」
「やった~! アキト様大好きです!」
「はいはい、俺も大好きだよ」
初めは、こんな美少女に好きなんて言われてドキドキしたけど、もう慣れた。
今ではこんな軽口を言い返せるまでに、俺も成長しているのだ。
「あっ……その……」
だからって、そこで真っ赤になるのは違うんじゃないかなあ……
アリシアのくせに、あの手この手で俺を翻弄しやがって……
「なんかごめん……」
「いえっ……」
気まずい……
と思っていたら、頼りになる我が家のわんこが俺に抱きしめられにきた。
うん、やきもち焼いたんだね。でも、今はナイスタイミングだ。
「はいはい。ソラも大好きだぞ~」
お前まで固まるなよ……
◇
「しかし、調査は進めないといけませんね」
「はい、二度とこのような失態はいたしません」
「いえ、あなたを責めるのも酷というものでしょう。あの日、店にいた者すべてがいなくなるなんて、明らかにおかしいですから」
どうしてもアキトさんに謝罪したいと頼みこまれたので、あの場では彼女の気がすむまで任せていましたが、まさか自らの腕を失うほどの覚悟だったとは……
いまだに責任を感じているようなので、彼女にも調査を任せましょうか。
「あなたは、店にいた者たちの話を集めてもらえますか?」
「はい、お任せください」
さて、まずは友人に相談してみましょうか。
「で、私のところにきたと」
「ええ、なにか知恵をお借りできたらと思いまして」
なぜでしょう。友人である私が訪ねても、彼女はいつもため息をつきます。
疲れているのでしょうか? 聖女というのも大変そうですからね。
「まあ、私もそのおかしな話は聞いたわ。アキトの剣を壊すなんて腹が立つけど、それとは別にあれだけの人間を同時に移動させた方法が気になるわね」
「店の番を任せていた者は、急にこの場所は立ち入ってはいけない場所だと思ったらしいです」
「ええ、うちの信者の子たちも並んでたらしいけど、同じようなことを言ってたわ。急にここにいてはいけないと思ったって。つまり、認識を誤らせたってことね」
意識に働きかける魔法が行使されたということでしょうか?
「洗脳みたいなものですか?」
「いいえ、洗脳よりもずっと自然に、さりげなく意識を変えているみたいよ。最低限の効果を最小限の魔力で行使して最大限の効果を得ているみたい」
「つまり、それだけ魔力の扱いに長けた者の仕業だということですか?」
「でしょうね。規格外の先輩やあの竜みたいに馬鹿げた魔力ではなく、単純に上手なのよ。もしかしたら厄介な相手かもしれないわよ?」
魔法の研究者でしょうか?
それとも、魔力の操作が得意な人間以外の種族?
いけませんね。現時点では推測の域を出ません。
「ありがとうございます。魔力操作が得意な者という観点から探ってみます」
「あら、珍しいわね。こんなにすぐ帰るなんて」
有益な情報を得たため、一度城へ帰ろうとしたら、そんな言葉をかけられました。
もしかして……私が帰ることをさみしがってますか?
「しかたありませんね。そんなにさみしいのなら、もう少しここに残ることに」
「帰れ」
……おかしいですね? ようやく心を開いてくれたと思ったのですが。
「気をつけなさいよ。それだけの知識と技術を持った相手ってことは、確実に厄介な相手よ」
「はい。ありがとうございます」
やっぱり、心を開いてくれていますね。
ですが、それを口にしたら怒られるので、城に戻ってから勇者のみんなに自慢しましょう。
機嫌良く帰る私を、教会の方たちは不思議そうに見送ってくれました。
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