第111話 光るツートーンカラー
「げっ……」
「どうしたの? シルビア」
「口に合いませんでしたか?」
朝食中、急に苦虫を噛み潰したような顔をするシルビア。
アリシアも不思議そうにしながら訪ねる。
「いや、美味い……そうではなく、アルドルが近づいておる」
「ラピスとギアさんも?」
「アルドルだけのようじゃな。なにしにきたんじゃあいつ」
理由はわからないけど、別に危害はないとみんな判断しているらしい。
ソラとルピナスは俺の膝の上だし、アリシアは食器を片付けている。
それよりも、国の次期代表なのに一人でここにきて大丈夫なのかが心配だ。
「お、きたきた。久しぶりアルドル」
「よおアキト。お前ならなんとかできると聞いたぞ。この魔剣見てくれないか?」
俺を見つけたアルドルは、地上に降りたと同時に人の姿へと変わる。
そして手に持っていた剣を俺に渡してきた。
「これ魔剣なの?」
「ああ、そうだ。宝物庫にあったが、誰も使えんからもってきた」
「絶対かっこいいやつじゃん」
「わかるか? うちのメスどもは、誰もこの魔剣の良さを理解できていないのだ」
全体が錆びついたようなボロボロの剣。
これが魔剣だというのなら、絶対にすごい能力があるか、あるいは能力を発揮するときに本当の姿になるパターンだ。
「わからん……」
「はんっ! メスめ!」
「なんじゃと! この糞餓鬼が!」
アルドル。それ悪口になってないぞ……っと、シルビアが怒ってるな。
「まあまあ、喧嘩しないで」
俺、なんで竜同士の喧嘩を仲裁しているんだろうな。
二人を引き離しながら、明後日の方向を見て黄昏てしまう。
「とりあえず試してみようか」
魔剣を握ると魔力が流れてくるけど……
ん~? これちゃんと過剰分の魔力を放出できてるのか?
先生のときと違って、見た目が錆びたままだから自信がないぞ。
「おお……本当にそんなことができるのか」
「そういえば、このことってあまり言いふらしちゃいけなかったはずなんだけど、なんでアルドルが知ってるの?」
「ああ、その……なんだ。俺たちがここを襲撃しただろ?」
少し気まずそうに口を開くアルドル。
特段被害もなく終わったことだし、そんなに気にすることないんだけどな。
「その前にギアが森の周囲を探っていたんだが、ドワーフが一人森に出入りしていてな」
先生だな。ここに出入りするドワーフなんて他にいないし。
「森に入る前からは魔剣の魔力を感じたが、森から出ると魔剣が宝剣へ変化していることに気づいたんだ」
すごいなギアさん。
あのとき先生は魔剣を容器に入れていたから見えないはずなのに。
「そしてあの時ギアの魔力の放出なんて離れ業をやってのけたことで、おそらくアキトの仕業だろうと当たりをつけたのだ」
「それもギアさんが?」
「ああ、あいつは魔力に関しては優秀だからな」
なるほど、それなら秘密が漏れたとかではないので安心だ。
先生は隠しておきたいみたいだったしな。
「でも今回はだめだったみたいだね」
「む、何を言う。見事に宝剣に戻しているじゃないか」
「え、でも見た目が変わってないよ?」
「たしかに外見は変わらんが、剣に込められた魔力はずいぶんと変わっているぞ」
みんな当然の技能としてそれ言うけど、俺にはさっぱりわからないからなあ。
目測で魔力の放出量の調整ができないので、けっこう不便に思えてきた。
「じゃあこれで完成ってことか。ちょっと使ってみてよ」
「うむ。いくぞ」
もうこの時点で二人してわくわくしている。
シルビアの怪訝な目線は今は気にしないでおこう。
「ふははははは! やはりな!」
「だよなあ。やっぱり力使ってるときだけ錆びが消えるタイプか」
アルドルが剣に力を込めると、魔剣だった剣はみるみるうちに錆が落ちる。
数秒もしないうちに、先ほどまでと同じ剣と思えない宝剣へと姿を変えた。
特に刀身がいい。
橙色と水色の二色に分かれているのは、アルドルの得意とするのが炎と氷だからだろうか?
「さっきまで錆びていた剣がこんな姿になるなんて、なんでわかるんじゃ……」
そういうものなんだよ。
しかし、いいなあ。多分俺には魔力がないから使えないんだろうなあ。
剣を振るアルドルがうらやましい。
「なるほど、俺の全力のブレスより火力がある。それも消費する魔力はわずかですむ」
「なんかすごそうだな。まあうまく使ってくれ」
「いいのか? 俺が持ち帰ってしまって」
ためしに剣を借りてみる。
やっぱりな。
アルドルの手から離れた剣は錆びた状態に戻り、俺が握ってもその姿のままだった。
「というわけで俺には使えないみたいだし、そもそもアルドルのだからね」
「う~む……代わりの物を見繕うか。なにか希望はあるか?」
「それなら、鍛冶に使えそうな物なら実用的かもしれない。金属の塊とかでもいいね」
「変わった物が欲しいのだな。だがわかった。必ず持ってこよう」
剣作りが難航したため、金属を一気に消費してしまった。
しかも気分転換で、たまに装飾品にまで手を出したもんだから、消費量は以前よりもはるかに多い。
それでも、精霊たちの協力のおかげかだんだんと細かな細工も可能になってきたし、何よりも俺にも剣を作ることができたのだ。
作れる物はどんどん増えてきたし、素材はいくらあってもいいはずだ。
「では、世話になった。また来るぞ」
アルドルは高笑いしながら空を飛んで帰ってしまった。
テンション上がってたなあ。きっと、あの剣がうれしかったんだろう。
しかし、竜って人の姿のまま戦うんだろうか?
前にシルビアがテルラ相手に人の姿で戦っていたけど、あれは力の差がかなりある状態だったしなあ。
本気で戦うときって、どっちの姿になるのだろうか。
「あいつ……阿呆になっておらんか?」
「ごめんシルビア。男はいくつになってもアホなんだ」
◇
「ということがあったんです」
「なるほど……なんかやけに高揚した竜に絡まれたのはそういう理由かよ。死ぬかと思ったぞ」
アルドルと入れ替わりでやってきた先生に事情を説明する。
なんでも、ドワーフである先生にアルドルは宝剣の自慢をしたらしい。
ごめん先生。多分あいつに悪気はなかったはずだ。
「まあそっちよりも、お前の非常識さに頭を抱えたいけどな」
「あんまり軽々しく直さない方がよかったですか?」
「あの竜も一応事情を知ってる私だったから自慢しただけみたいだし、周囲に知られることはないだろうけど……なんかお前の場合、軽々しくなんでも直しそうなのが怖い」
否定できないかも。
知らない人にはさすがにしないけど、フィルさんとかに同じよな剣を直してくれと頼まれたら、きっと直してしまう。
魔剣については、よく考えてから対応するようにしないとな……
「ほんと気をつけろよ。それはそうと今日は別件だ」
「もしかして、前に言ってたやつですか?」
「ああ、お前が製作した剣を私たちの国で売ってみるか」
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