第101話 ドラゴンによるドラゴンのお勉強

 そういえば、アルドルさんたちの属性も聞いていないな。

 知っておいたら、なにか役に立てないだろうか?


「ちなみに、アルドルさんたちはどんな竜なの?」


「アルドルは熱竜ですね。主に炎か氷を発生させます」


 なにそれ、かっこいい。

 相反する二属性を使えるとか、絶対強いじゃん。


「わがままだし、姉さまより弱い嫌なやつだよ」


「ラピスは石竜です。頑強さは私たちの中でも随一ですね」


 竜ってただでさえ鱗とかが固そうな印象だけど、その中でもさらに固いのか。

 アリシアが聞いたら、拳骨で粉砕できないか試しに行きそうだな。


「石なんかより、私のほうがすごいよ? あいつ、堅物だしつまんないやつだよ?」


「ギアは魔竜です。魔力の操作に長けていて、他人の魔力でさえ多少であれば操れます」


 この人の評価だけはいまいちわからないな。

 魔力が身近ではない俺には、魔力の操作と言われてもすごいのかわからないし、なにができるかもわからない。


「陰険なメスだよ? それにいじわるばかり言ってくるし」


 なるほど、やっぱりみんな得意な属性みたいなのがあるんだな。

 ビューラさんの簡潔な説明と、テルラの主観が入りまくった説明で、なんとなく相手のことはわかった。


「テルラって他の竜と仲悪かったの?」


「はい、この子はこんなですから、どの竜とも話が合わず、最後は引きこもるようになってしまいまして……」


「わ、私の価値を理解できない国がいけないんだもん」


 テルラが国を離れた理由がわかった気がする。

 でも、その先で紆余曲折の末に他種族に必要とされているのだから、結果論だけど国を出て正解だったんだろうな。


「地竜様~。ここにいらしたんですね。そろそろ今日も開墾のほうお願いします」


「ほ、ほら! 私ここでは必要とされてる。私これからお仕事だから、もう行くね」


 お仕事の部分をやけに強調して、テルラはアルラウネと共に去っていった。

 ビューラさんは、そんなテルラの後ろ姿を見つめながら、感慨深そうにつぶやいた。


「そうですか。あの子もまともに働くようになってんですね。やはり、この問題は私たちだけで解決しないといけませんね……」


「家族を頼るのは、悪いことじゃないと思うんだけどね」


「シルビア様もテルラも、この地で新たな場所を見つけています。それを邪魔するわけにはいきません」


 俺の言葉にビューラさんがうなずくことはなかった。

 きっと、一人で色々なことを抱え込んでしまうタイプだな。

 リティアやルチアさんと似ている。

 どうにもこの手の人は、見ていて心配になってしまう。


    ◇


 ビューラさんに家に送り届けてもらうと、彼女は仲間たちと迎撃の準備にいってしまった。


「というか、勝手に竜たちが侵入したらソラが怒って一人で全滅させそうだけど、そのへんは大丈夫なのかな」


「それはそれで、この森に手出しはしなくなるじゃろうが、他の国へ攻め入る姿勢をやめはせんと思うぞ。あいつ馬鹿じゃから」


「ビューラさんたちがここで決着をつけるために、我慢してくれてるのか」


 どうだろう。

 膝の上で丸くなってる姿からは、単純に興味がないだけにも見える。

 正体がわかってる相手だし、よほど森を荒らさない限りは、ソラも無関心なのかもしれないな。


「いまさらだけど、森を戦場にしちゃって大丈夫だった?」


「大丈夫です。森は強いので、少しくらい騒いでも明日になったら元通りですよ?」


 たしかにフウカが大暴れしたときとかも、結構木々がめちゃくちゃになってたな。

 でも、ルピナスの言うとおり気がついたら、あの辺一帯はまた木々が生え茂っていた。

 そう思うと、テルラが土を駄目にしたり、カリカさんたちが毒で汚染してたのって、けっこうすごいことなのかもしれない。

 それとも、常に魔力を吸収し続けたり、毒を排出し続けていたから、森が修復する暇がなかったのか?


「まあ、ほうっておけばよいじゃろう。女王を辞めて国を去った妾は下手に口出しできんし、主様たちにはそもそも無関係じゃからな」


「う~ん。でも、シルビアの家族のことなんだから、できることはしてあげたいんだけどね」


「……わ、妾のためか?」


「だってシルビアの家族ってことは、俺の家族みたいなもんでしょ?」


「そ、そうか。主様はそこまで想っていてくれたのじゃな……」


 もうわりと長い間この家で暮らしているわけだし、ソラもアリシアもシルビアもルピナスも家族同然だ。

 そして、そんな仲だからこそわかっていることがある。

 今のアリシアはまた変なことを言おうとしているな。

 俺は、シルビアにこそこそと近づいて、耳打ちするアリシアを見てそう思った。


「今ですよシルビアさん。ここは、それなら本当の家族になろうと言って押し倒すときです」


「できるか!!」


 至近距離で大声をあげられたせいか、アリシアは耳をおさえていた。

 だけどわかるぞ。何を言ったか知らないが、多分アリシアお前が悪い。


「アルドルさんたちが来るとしたら、いつになるんだろう」


「あいつ短絡的じゃから、きっと今日か明日にでもくるぞ。主様もあまり出歩かん方がいい」


 思ったより早いな。

 それだけ統率できてるってことなら、わりとまとまった組織なのかもしれない。


    ◇


「アレ、ドウシタンダアキト。イツモナラ、フーチャント、チーチャンモ、一緒ニ呼ブノニ」


「今日は鍛冶を手伝ってもらうために呼んだんじゃないんだ」


 なんかできないかなと思って考えてみたけど、やっぱり俺一人じゃどうにもできない。

 かといって、ソラたちに直接頼んでも意味がないようだし、あとはこっそり手伝ってもらうしかないだろう。


「ヒナタって、竜が吐いた火とかって消せる?」


「デキルゾ。ナンダ、シルビアニ、イジメラレタノカ?」


「いやいや、そっちじゃなくて、別の竜が火を吐くみたいだから、そのときはこっそりと火を消してあげてくれないか?」


「任セトケ。ソノ代ワリ一緒ニ温泉入ルゾ」


 温泉……いかん、アリシアのこと思い出してしまった。

 大丈夫。ヒナタは小っちゃいから、一緒に入ろうが問題ない。

 一度アリシアのあれを体験した後だと、そのくらいなんでもない。


「わかった。それじゃあ竜たちがいなくなったら一緒に入ろう」


「ホントカ!? ジャア、フーチャンモ一緒デイイヨナ?」


「え? ああ、まあいっか」


 ヒナタも入るならフウカも似たようなものだし、別に問題ない。


「アト、チーチャンモナ」


「わかったわかった」


 チサトは、むしろ土人形がお湯に溶けないか心配だな。

 さすがに、温泉のときは他の二人みたいに精霊本来の姿に戻るか。


「アト、ミーチャンモ」


「わかった……え?」


「ヨシ、ソレジャア、ミンナニ言ッテクルナ! アキトガ一緒ニ温泉入ッテクレルッテ」


「ええ、ちょっと待ってくれ……」


 みーちゃん、俺まだ会ってないぞ。

 大丈夫か? 大丈夫だよな?

 他の三人みたいに、ちんちくりんだよな?

 これで、アリシアなみの身体だったら、一緒に温泉とか無理だぞ。


 すでに精霊たちに言いふらしてるであろうヒナタを想像し、俺は軽率な約束に一抹の不安を覚えるのだった。

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