第100話 きっと彼女は末っ子だと思う
「あの、主様……アルラウネたちに会いに行くのであれば、私も連れていってもらえないでしょうか?」
「え、ああそうか。テルラに会いたいんだね。俺はかまわないよ」
そうだ。せっかくだし、お願いしてみよう。
「あの……ビューラさんの背中に乗せてもらって飛んでもらうって……頼めたりする?」
「……え、わ、私の!? あの、シルビア様ではなく、私の背にですか?」
「できればビューラさんに乗ってみたいなあ……なんて。嫌なら全然断ってね。シルビアに乗るから」
「……私でよければ、どうぞお乗りください」
ビューラさんは竜の姿に戻ると、俺を背に乗せてくれた。
うわあ、白い。「雪の上みたいで、すごく綺麗だ」
「あ、あの……ありがとうございます」
俺の独り言は、途中から口に出ていたらしい。
心なしかスピード上がってない? あの、ビューラさん?
「速っ!!」
フウカの暴風を思い出すくらい肌に風を感じながら、俺たちはテルラのもとへと飛んでいく。
次からは言葉に気をつけよう、そうひそかに心に誓うのだった……
「申し訳ありません主様……」
「いや、フウカのときよりはましだったから平気……」
「わりと危険な目にあっているのですね」
危険。危険か? ソラたちが守ってくれるから、楽観視してたかもしれない。
そう言われてみると、なんだか危機感が薄いかもしれないな。
「あ、主様~」
俺を見つけた、テルラが走って近づいてきた。
なにがとは言わないけど、相変わらずでかくて揺れまくってるな。
そういえば、ビューラさんのほうは……やめておこう。
「私に会いにきたの?」
「まあ、そんなところ」
「えっ、本当に? やった。姉さまに勝った」
「相変わらず能天気ですね。この子は」
ほんわかした様子のテルラを見ていたビューラさんだったが、ついに呆れた様子でそう口にした。
なんだか、今の一言だけで二人の関係をかいまみたような気がする。
「えっ、びゅ、ビューラ……」
「おや、私も姉なのですが、姉さまとは言わないのですね」
「姉って言ったって、十歳しか変わらないじゃん。なにしにきたの……」
竜にとっての十歳差って、たいしたことない年月なのか。
しかし、テルラってシルビアにもビューラにもびくびくしてるけど、姉妹仲あまりよくなかったのかな。
「あなたが、だらけて皆さまにご迷惑をおかけしたことは聞きました。なので、この期に及んで不真面目なままならば、また私が教育しようかと思いましたが……」
ビューラさんの言葉に、びくっと震えるテルラ。
やっぱりビューラさんには頭が上がらないようだ。
「まあ、いいでしょう。アルラウネの皆さまの役に立っているようですし」
「そ、そうでしょ? 私だってやればできるんだから。昔の私とは違うんだから」
実際、テルラのおかげでこのあたりの土は、非常に魔力も栄養も豊富らしいからな。
チサトが認めるほどだし、アルラウネへの貢献もできているんだろう。
「それで、なんでビューラがここにいるの?」
「アルドルのことで」
「私、あいつ嫌い!」
ビューラさんの言葉をさえぎるように、テルラが叫んだ。
そんなに嫌いなのか。やけに実感のこもった声だったぞ。
「そのアルドルと私たちが対立しているため、シルビア様に助力を願いにきたのです」
「え~……そんなの、自分たちでなんとかしてよ~」
「それは、そのとおりですね……」
ビューラさんの表情が曇る。
アルドルさんを自分たちだけで倒すのが難しいからか。それとも、シルビアやテルラを巻き込んだことを不甲斐なく思っているからか。
真面目そうなビューラさんのことだから、後者だろうな。
「竜族同士の内輪もめなど、他国に知らてはならないことです。初めは、迅速に解決すべくシルビア様を頼ってしまいましたが、幸いなことに、主様と森の王にこの森で戦う許可をいただきました。ならば、アルドルたちは私でなんとかしてみせます」
内乱中に漁夫の利目当ての他の国からの侵略されないか、それがビューラさんの懸念事項みたいだ。
ここで戦う分には、他の国にはその騒ぎも知られることはないだろう。
「でも、国を空けてしまったら、結局他の国に襲われるんじゃない?」
「我々が内輪で争っていると知られなければ問題ないはずです。空の国を落としたとしても、我々の報復に太刀打ちできないと知っているでしょうから」
竜って、周囲から恨まれたり、恐れられたりしてるんだなあ……
「私と姉さまは戦わないからね……?」
「ええ、去った者を頼ろうとした私が間違っていました」
とは言っても、シルビアの妹なんだし、なにか助けられないだろうか。
ソラたちに頼るのは違うよな……
丸投げしてあとはお願いなんて、そんな無責任なことはできないし。
かといって、俺が戦力になるなんて考えてはいない、
竜だし。一秒で戦闘不能、というか死ぬ。
そこまで考えて、そもそも相手とこちらの戦力さえ知らないことに気がついた。
「アルドルさんたちって、ビューラさんたちで倒せる相手なの?」
「正直なところ、私たちのほうが若干劣っています」
若干か……
その若干を埋められるだけの手伝いくらいはできないだろうか。
「シルビア様が統治していたころからの強者である、ラピスとギアまでアルドルについていますから」
「え~、ラピスとギア嫌い」
テルラが嫌いじゃない竜っているんだろうか……
「アルドルとラピスとギアさえ抑えれば、群れ同士は互角なのですが……」
それって、若干劣るどころじゃないのでは?
向こうは強い竜が三人いて、こっちにはビューラさんだけなんだよな。
三対一でなんとかしないと負けるって、旗色が悪すぎると思うのだけど。
「やっぱりソラに、いや、せめてシルビアに加勢してもらった方が……」
「私もここに来るまではそう考えていました。ですが、シルビア様にお会いして、以前までのような強さに執着する方ではなくなったとわかったのです」
昔ソラにこてんぱんにされたらしいし、今ではアリシアという友人がいるしな。
うん、やっぱりアリシアが一番おかしいな。
「そんなシルビア様を、無理に戦わせたくはないのです」
「いや、わりと今でも戦い好きっぽいよ。勇者とかオーガとか相手に戦ってたし」
余計なこと言ったか?
ビューラさんが若干揺らいだ気がする。
「そ、それでも、シルビア様に頼り切りでは、アルドルたちも敗北を認めないでしょう。やはり、私たちだけで勝たねばならないのです!」
「そ、そうですね。なんかすみません」
恥ずかしかったからか、興奮したからか、ビューラさんの周囲に白いモヤが発生した。
これも魔力でなにかが発生したんだろうか?
「ビューラさん。落ちついて、なんかモヤが出てる」
「気をつけてよ~。ビューラの霧、じわじわと陰険なことするから嫌いなんだからね」
「す、すみません。つい、……」
霧? テルラもこれのことを知っているらしい。
心底嫌そうな顔をすると、ビューラさんが恥ずかしそうに謝った。
「ビューラさんって、もしかして霧の竜とかなの?」
「ええ、私は霧竜です」
やっぱりそうなのか。テルラは地竜で、ビューラさんは霧竜。
もしかして、竜って個体ごとに属性みたいなのがあるのか?
そうしたら、シルビアはどんな竜なんだろう?
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