第84話 二度と外せない呪いの装備
「おう、ずいぶんと作ったみたいだな。それに、ちゃんと上達していってる」
「そうなんですか? ありがとうございます」
自分じゃよくわからないけど、先生がそう言ってくれるなら、きっと上達しているんだろう。
最近はとくに何かが起きるでもなく、のんびりと過ごせているので、指輪作りに集中できたおかげかもしれない。
まあ、作りすぎたっていう自覚があるんだけど。
「しかし、本当にこれ全部回収していいのか? いくつか手元に残せばいいだろ」
「どうせまた増えるので、全部処分しちゃってください」
アリシアが両手のすべての指に、どれだけ着けることができるか試していたが、指が銀色になってもまだ余っていたくらいだ。
私このままでいますとか言い出したので、回収するのに手間取った。
「……もう少ししたら、精霊様の魔力を込めても問題なくなるかもな。魔力を蓄積しやすい指輪がどういうもんか、ちゃんと覚えてるか?」
「はい。できるだけ不純物が入っていない状態を保つでしたよね?」
「ああ、不純物があればあるほど、干渉されて暴発の原因になるから、銀の純度は高いほどいい」
まあ、よくわからないんだが、先生が見て問題ないと判断してくれたら、次のステップに行けるってことだろう。
「それじゃあ、がんばれよ。指輪が作れるようになったら、前に約束していた剣の作り方を教えてやる」
剣を作るか。楽しみだな。
しかし、ひとつ気になっていることがある。
俺が指輪を作るにあたって、精霊の力を借りているということだ。
魔力を込める以外も、彼女たちは過保護といえるほど、俺の作業を手伝ってくれる。
粘土の成形も焼くのも乾燥も、全部みんなのおかげで、簡単に行えている。
これって、ずるをしているってことにならないかな。
「どうした? なにか言いたいなら話せ」
「いえ、その指輪を作るときに、精霊たちの協力してもらっているので、俺が作ったと言っていいのかなって思いまして」
「なんだそんなことか。前も言ったが、私たちだってヒナタ様に協力してもらっていることもあるし、ヒナタ様の加護のおかげで鍛冶の技術が向上している。お前が気にしていることは、取るに足らないくだらない悩みなんだから、もっと数をこなせ。この半人前」
加護……加護か。もしかして、俺も知らないうちに、みんなの加護とかもらえているんだろうか。
とにかく先生の言うとおり、俺はまだまだ半人前だし、そんな悩みの前に大量に指輪を作るか。
「ありがとうございます。これからも、たくさん作るので回収お願いします」
「まあ……いいけどよ。別にたまたま用事があって、近くまで来てただけだからな」
先生は忙しいのか、そそくさと帰っていった。
魔力を込めていない指輪を、大量に持ち帰らせてしまったけど、重くないだろうか。
そういえば、危険じゃない指輪を作れるようになったわけだし、そろそろ誰かにあげてもいいかもしれない。
先生に毎度回収してもらうのも迷惑だろうしな。
「よし、いくつか誰かへのプレゼント用を作ろう。フウカ、ヒナタ、チサト。今大丈夫?」
精霊三人を呼んでみると、みんなすぐに現れてくれた。
さあ、楽しい指輪作りの時間だ。
◇
「最近、変な噂を聞いたわ」
「噂……ですか?」
アカネさんが神妙な顔で、そう切り出しました。
もしかして、この森の危機になるような出来事が……
私は、アカネさんへの恐怖心も忘れて、話を聞くことにしました。
「なんでも、アキトさんが作った指輪なんてものが、存在するそうじゃない」
「あ、それ私も聞いたことあります」
私は真剣に聞くことをやめました。
そして、アカネさんだけでなく、エルマさんもその話を知っているそうです。
「地竜様が泣いていました。お姉さまに指輪を自慢されたと」
シルビアさんからの話となると、信憑性は非常に高いと判断したのでしょう。
どうしましょう。黙っていても、アキトさんの指輪のことがばれるのは時間の問題です。
作るのを控えてくださいと言ったので、きっと大丈夫ですよね?
大量生産したりしてませんよね?
「あれ、どうしたの? みんなで集まって」
そんな心配をしていると、タイミング悪くアキトさんが訪ねてきてしまいました。
……なんでしょうか、その袋は。なんだか、手に持っている袋から、ものすごく不吉な予感がします。
「まあいいや。ちょうどよかった。みんなこれいらない? まだ、不格好だけど、日ごろのお礼に」
袋を逆さにすると、中から出てきた銀の指輪が机の上にばらまかれました……
「……対価として、私自身をアキトさんに捧げればいいのかしら?」
「なにそれ、こわっ。日ごろのお礼って言ったじゃん。対価はいらないというか、もうもらってるってことで」
アカネさんですら、慎重にさせるものを渡していると早く気づいてください。
ああ、もう。こんなものを、十個も作ってしまって。
「ここにいる六人に一つずつと、これはヴィエラの分で、こっちはテルラ、これがミーナさんとソフィアちゃんの分ね」
「あ、あの……これって、私たちと婚姻していただけるってことですか?」
「いや、そこまで重く考えなくていいよ。ただのお礼だってば」
無理ですよ、きっと。
男性からの指輪のプレゼントなんて、重く考えますって。
わかっていないんでしょうね……
「じゃあ、ソラを待たせてるから帰るね」
そうして、アキトさんは早々に帰ってしまいました。
残されたのは、指輪を見つめて女の顔をする、各種族の代表たちだけ……
私は……きっと、大丈夫です。そんな顔してません。
がんばって、頬がゆるむのをこらえていますから。
「アミュレットとはわけが違いますね」
「これは、さすがに全員に配るわけにはいかないわね……大丈夫よね? まさか、全員分作ったりは」
やりそう。
アキトさん、すっごいやりそう。
大丈夫でしょうか。あの人、この森の全員と関係を持つ気なんでしょうか?
……いえ、何も考えてないだけですね。
勘違いしちゃいけませんルチア。
あの人は、私たちが自分の物という証として、この指輪を渡したわけではないのですから……
指に光る銀色を見て、私は心をなんとか落ち着けることに成功しました。
ああ……きれい。こんな素敵なものをいただけるなんて……
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