第80話 神器創造
ミーナさんよりちっちぇえ。
最初に思ったのは、そんな失礼なことだった。
ミーナさんは小学生くらいだけど、ノーラさんはそれより年下にしか見えない。
だけど、油断しちゃいけない。
ヒナタから聞いた話でわかっているが、彼女はこれでれっきとした成人女性なのだから。
「なんだよ?」
しまった。じろじろと見すぎた。
だからといって、ちっちゃいですねなんて言おうものなら、どうなるかなんて俺にだってわかる。
「ええと、そう。ヒゲ生えてないんだね」
「はあ? 当たり前だろ、獣人に見えたか?」
ですよね~。
しかし、ヒゲで連想するのが獣人か、つくづく男って日常にいないんだな。
あと、ドワーフだからといって、ヒゲまみれじゃなくてよかった。
「いやあ、なんかそんなイメージがね」
「? よく、わかんねえな。まさか、ヒナタ様から変なこと言われてねえだろうな……」
ああ、いけない。ヒナタが悪者になってしまう。
それならば、ヒナタから聞いた話でもしようじゃないか。
「ヒナタはノーラさんのことを、器用でやさしい良い人だと言ってたよ」
「なんだそりゃ……人違いじゃねえか?」
そっぽを向きながらも、顔は赤い。
頑固者っぽい性格だし、素直なヒナタとは相性がよさそうだな。
ヒゲこそないものの、見た目や性格は俺の想像するドワーフ像に一致している。
「……しかし、ヒナタ様の言葉とはいえ、私を褒めるような言葉がよく言えるな。男なのに」
「まあ、ヒナタが言うならそうなんじゃない? 話を聞く限り、やさしそうな人だとは俺も思ったし」
「……なるほどな。ヒナタ様が言うとおり変な人だ、あんた」
心外な。むしろ、こっちこそヒナタになんて言われてるのか気になるぞ。
なんとなく、悪くない心象を与えたようで、幾分か表情もやわらいでくれた。
ちょうど家につくことだし、この調子で小物作成の先生になってくれるといいな。
◇
「いや、そんなの私じゃなくて、エルフのほうが得意分野だろ」
「そのエルフたちに、頼むから作らないでくれって言われちゃって」
「なにしたんだよ。あんた……」
なにもしてない。いや、さすがに調子に乗って作りすぎたのが原因か?
社交辞令で出来損ないを引き取ってたのに、調子に乗って大量に作るから、これ以上は作らないでくれって言われたってことじゃ……
やばい、悲しい。
というか、すみませんでした。ルチアさん、ミーナさん。
あなたたちの厚意に甘えていました。
「お、おい。大丈夫かよ? しょうがねえな。私でよければ教えるよ。だけど、エルフほどの出来を期待するなよ?」
「ありがとう。俺がんばるから!」
「お、おう……」
握りしめたその小さな手が、今はなによりも頼もしかった。
「まずは、そのお守りとやらを彫ってみてくれ」
「はい、先生」
「せ、先生って……」
さすがに何度も作ってきたから、迷いなく手も動く。
最初にくらべても、かなり短時間で作れるようになってきたし、形もそれなりのものではあるんだけど。
実際に身に着けてもらっているのを見てしまうと、どうにももう少し格好の良いものを作りたい。
そんな欲求がわいてくるのもまた事実だった。
「なんだ。ちゃんと作れてるじゃねえか」
「でも、売ってるような物と比べたら全然でしょ?」
「う~ん……そこまでとなると、地道に数をこなすのが一番なんだけどなあ……」
やっぱり、そう簡単にはいかないか。
だけど、森のみんなが身に着けてるので、一刻も早く良い物を作りたいという思いがある。
「せめて、もう少し見栄えをよくしたいんだよね」
別に木をけなすわけじゃないけど、なんかこう、宝石とか金属とかで豪華な感じにしたい。
そんなことを考えていると、先生からこちらの要望にぴったりの案をもらえた。
「いっそ銀細工でも試してみるか? たまには違う物作ってもいいだろ」
「やってみたいです!」
さすが先生。俺の望んでいるものを言い当ててくれる。
なんだか本当に先生としか思えなくなってきて、思わず敬語で話してしまう。
「お、おう……それじゃあ、私と同じように作ってみな」
そう言って先生は、自分の体ほど大きなリュックから、粘土のようなものを取り出した。
「成形して装飾して焼く。まずはそれだけやってみろ」
先生の作業を見ながら、こちらも同じようにやってみる。
粘土細工は嫌いではないし、装飾の作業も小物作りのようで楽しい。
途中で先生に相談したり、アドバイスをもらいつつも完成まで一気に作業を進めてしまった。
やばい。これ、かなり楽しいかもしれない。
「しかし、ずいぶんと楽しそうにするな、お前」
「いや、これほんと楽しいですよ。うちにもこの粘土があればなあ」
ないなら、先生にお願いして、ぜひとも粘土をゆずってもらいたい。
俺の新たな趣味ができそうだ。
「ヒナタ様に聞いたけど、土の精霊様とも親しいんだろ? 頼めばいくらでも出してくれんじゃねえか?」
「あ~、そっかその手が。今度頼んでみます」
話をしているうちに銀色の指輪が焼き上がった。
「あとは、磨いて加工して完成だ」
「はい、先生」
再び作業を再開するも、やはり楽しくてつい集中してしまう。
気がつけば、俺は五つの指輪を作り上げていた。
「まあ、最初にしては上出来だな。筋がいいと思うぞ」
「ありがとうございます」
ひとつひとつ手に取って、観察した先生に、なんとか及第点をもらえた。
まあ、それでも初心者にしてはってところだろうから、これから精進していかないとな。
「お前、金属いじってるほうが性に合ってるんじゃないか? 今度私と一緒に剣でも作ってみるか? なんてな……」
「ぜひお願いします!」
「……いいのか? 慣れてないときついと思うぞ?」
そうだろうとは思う。
だけど、剣作り。じつに興味をそそられる提案じゃないか。
ここは、ぜひとも約束を取り告げておきたい。
「きつくてもやってみたいです」
「……変な奴だなあ、本当に。わかった、準備しておく」
先生は少しとまどいつつも約束してくれた。次回が待ち遠しいな。
俺たちの作業が終わったと判断したのか、ソラが俺の足元に近づくので抱きあげる。
「ほら、ソラの分だぞ」
できたての指輪だが、さすがにソラにはつけられないので、革紐を通して首からかけてあげた。
そういや、いつかソラに首輪するとか言ってたな。
とりあえず、これが代わりってことにしてもらおう。
「これがアリシアで、これがシルビア、これはルピナスの分だな」
残りはちゃんと指につけられるので、そのまま渡していく。
ルピナスの分は、他よりかなり小さいので苦労したが、問題なく指に入ったようだ。
みんなうっとりしたように、指輪を見つめる。
こういうところを見ると、やっぱり女の子ってアクセサリー好きなんだな。
「それで、これが先生へのお礼です」
「うえっ!? 私までいいのか? いや、でも私みたいなのには似合わないし、他のやつに渡したほうが……」
先生の声が尻すぼみになっていく。
「いや、先生もかわいいから似合うと思うんですけど」
「か、かわいいって……こんな、身だしなみもできてない、髪もぼさぼさで手も荒れ放題の女捕まえて、何言ってんだお前」
今度は、さっきと打って変わって大きな声で、まくし立てられた。
忙しい人だな。
「いや、職人らしくてかっこいいと思いますよ?」
「……な、なにを……な、生意気言ってんじゃねえ馬鹿弟子が!」
先生は鼻息を荒くしながら、俺の手から指輪を奪っていった。
「これは戒めとして持っておく。すぐにこれより良い物作れるよう鍛えてやるから覚悟しておけ」
「はい、これからもよろしくお願いします」
先生は元気を取り戻すと、ヒナタといっしょに帰っていった。
シルビアに頼んで送ってもらおうと思ったけど、いいのかな?
「今は主様は追わんでやった方がいいぞ」
まあ、シルビアがそう言うのなら、それでいいんだろう。
俺は先生を見送り、次のアクセサリーは何を作ろうかと思案を巡らせるのだった。
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