第78話 どちらかというと流行り病
「ひぃっ! な、なんでしょうか! こんなにたくさんの方まで!」
「あら、友達が多いのはいいことでしょ?」
「仲間はずれはかわいそうですからね。彼女たちも連れてきました」
さも当然というように、アカネさんとウルシュラさんが連れてきたのは、アラクネとアルラウネと巨大なラミア……
ついに、エルフの村を滅ぼしにきましたか。
みんなを逃さないと……
混乱する頭でそれだけを考えていると、アラクネに同情するような声をかけられました。
「……だいたいわかったわ。安心なさい。多分私はあなた側だから」
「イオがそっちなら、私も同じね。弱者同士支え合いましょう」
あっ、わかります。
平然としているアルラウネはともかく、このアラクネだけは私の仲間です。
強者にいじめられる弱者仲間だと、すぐにわかりました。
わかったところで、この恐ろしい各種族の長になにかできるわけじゃないのですが、それでも一人ではないということは心強いです。
きっと、このアラクネさんとは、すぐに友達になれる気がします。
「ふふっ、さっそく仲間はずれの相談かしら? 悲しくて泣きそうだわ」
「ええ、前も言いましたけど、私たちは対等なんですから、そんなに怯えないでください」
「あんたたち、いい加減にしないとアキトさんに怒られるわよ」
ああ、やっぱり。
今日初めて会う巨大なラミアは、案の定あっち側ですね。
まあ、そうでしょう。ただでさえ強力なラミア種が、あれほどのサイズだなんて、恐ろしいとしか言いようがありませんし、彼女は強者側でしょう。
「……それもいいわね。あの人ならきっと私が相手でも本気で怒ってくれるわ。怖がらずに、私のことを想って叱ってくれるはず……いいわね。ちょっと試してみましょうか」
「落ち着いてくださいアカネ。さすがに、こちらの都合でアキトさんに迷惑をかけるのは反対です。あなただってあの方に救われたのでしょう? 恩を仇で返すのはどうかと思いますよ?」
「……そうね、悪かったわ。忘れてちょうだい」
さすがにアキトさんへ迷惑がかかるのであれば、私も止めようかと思いましたが、その前にウルシュラさんが止めてくれて助かりました。
それで……
「本日は、なんのご用でしょうか?」
「新しいお友達を連れてきたわ」
「アキトさんに助けていただいた種族がまた増えたので、族長たちをお呼びしたんです」
アキトさん、いつのまにこんな厄介ごとを増やしたんですか。
そしてなぜ、私のところに来るのですか。
いえ、まあ友好的な関係を築けるのは助かるんですけどね。
特にアラクネさんとは、本当に友達になれそうですし。
アルラウネさんは、弱者同士と言っていましたが、強者に怯えてる様子がありません。
きっと、すごい胆力の方なのだと思います。
まるで、絶対的な強者と話すことに慣れているかのような……
ラミアさんは、どう見てもあっちです。
強すぎます。勝てません。捕食者側です。
ですが、アカネさんやウルシュラさんよりも、常識的な方といった印象を受けます。
どうか、あのお二人を止めていただけると助かります。
やはり、アカネさんとウルシュラさんの方が怖いので、本日顔合わせをした方たちは、まだなんとか怖がらずにすむかもしれません。
「あれ、ルチアなにをして……すみません。用事を思い出したのですよ」
ミーナが私に声をかけてきましたが、すぐに周りの面子を見て引き返しました。
本当なら巻き込みたいのですが、私が守るべきエルフには彼女も含まれているので、ここは私に任せて逃げてくださいと目で合図を……
ミーナ、その両手に抱えたものはなんですか……
あなた、まさかまたアキトさんに魔導具を作らせて、人間たちに売ろうとしているんじゃ……
「面白いもの持ってるわね」
「ひぃっ!」
ああ、アカネさんに気づかれました。
いえ、全員ミーナの腕に抱えられたアミュレットを見ています。
ごめんなさいミーナ。私はもうあなたを助けられません。
「アキトさんの匂いがする?」
「ええ、そのお守りからですね」
「ねえ、そこのエルフのあなた。これどうしたの?」
「い、いえ……それは……その……」
み、ミーナを助けないといけませんね。
「あの……みなさま。それは、アキトさんがお作りになられた魔導具の材料です」
「魔導具……へえ、エルフって器用ね」
「まだ未完成なのね。それで、いつ完成するの? 完成したらどうするの? どうしたら、手に入るの?」
ああ……ラミアさん。あなたは比較的まともな方かと思っていたのに、圧が強すぎます……
ミーナが震えて声も出せなくなっているので、なんとか私が彼女の代わりに答えました。
「魔獣避けの加護をかければ完成なので、数日もあればすべて完成する予定です。完成したら、その……」
ちらりとミーナを見ると、青ざめていました。
多分、また売りに行こうとしてましたね。
アキトさんが許可しているので、あまり強く言えませんが、混乱の元になりそうなので、世の中に流通させすぎてはいけないと思うのですが……
「えっと、多分人間に売ることになるのかと」
「人間に? 私たちは手に入らないの?」
アルラウネさんもぐいぐいきますね。
この場に一番馴染んでいるのは、彼女な気がします。
「そう……それじゃあ、私の角を渡すから、代わりにそれを譲ってもらえないかしら?」
「ま、待ってください! 角を折ろうとしないでください!」
気持ちはわからなくはありませんが、思い切りが良すぎます。
「あら平気よ。どうせまた生えてくるわ」
「なら私は羽を抜きましょうか」
待って。待って。
「み、ミーナ。これはここにいる方たちへの友好の証とするのはいかがでしょうか!?」
「は、はい! いいと思いますです!」
もはやティムールの毛がちっぽけに見えるほどの、とんでもない素材を簡単にこちらに渡そうとしてきましたので、お断りしました。
神狼様の体毛で作られた結界の中に住んでいて言うのもなんですが、あんなもの渡されても、私たちの手に余ります。
「さすがはルチアね。一つ借りってことにしておくわ」
「ええ、なにかあったら言ってくださいね。私たちで助けられることがあるなら、すぐに助けますから」
心なしか、うれしそうな雰囲気を漂わせながら感謝されました。
そして、すぐにでも仲間たちにも渡したいのか、この場はこれでお開きとばかりに、解散しました。
……さすがに、全員に行き渡らせるのは無理そうですが、彼女たちであれば、うまく分配するのでしょう。
「大変ね。相談があれば、いつでも話くらいは聞くわ……」
こうして、私はイオさんとお友達になるのでした。
◇
「あら、アキトさん。なんだかひさしぶりね」
「ああ……ひさしぶり」
なんか見覚えのあるお守りを身に着けている。
「アキトさん。お会いできてうれしいです。ヴィエラもずっと待っていたんですよ?」
「え、えっと、私はその……おひさしぶりです。アキトさん。ずっと、会いたかったです……」
やっぱり、どこかで見たお守りをつけている。
豪華な装飾品の中でそれがやけに浮いている。
「アキトさん。こんにちは。地竜様なら今日は土の中で眠っていますよ。起こしましょうか?」
「いや、寝てるなら無理に起こさなくてもいいよ」
ここでも
「訪問歓迎いたします。どうぞおくつろぎください」
「もうちょっと、普通の話し方でいいんだよ?」
「いえ、アキトさんとアリシアさんは、私たちの恩人ですので」
巨体が身に着けるにしては小さすぎるお守りが……
「ぱぱー」
「こらっ、アキトさんと呼びなさい!」
小さなアラクネの女の子も、その母親であるイオさんもやはりそれを身に着けていた。
「なんでだろう……ミーナさんに渡したはずのお守りを、みんなが身に着けている。あれか? もっと上手なの作れってプレッシャーかけてるのか?」
だとしたら、今の独学のままじゃ無理だぞ。
もっと、工芸が得意な人とかいないのかなあと思いながら、俺は不格好な作品から一刻も早く脱却せねばと心に誓うのだった。
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