第52話 没頭クラフトワーク
オーガたちの治療後に、もしかしたらとエルフの村に訪れる。
幸いなことに、エルフたちはみな魔力を完璧に制御しており、暴走状態の者は一人もいなかった。
前科があるので、ミーナさんあたりは怪しいと思ったのだが、彼女もまたあれが地の状態なのだ。
「なるほど、オーガたちがそんなことになっていたんですね。そういえば、数百年前はあんなに戦いしか考えない種族じゃなかったかもしれません」
ことの顛末をルチアさんとミーナさんに話すと、ミーナさんの口から当たり前のように数百年前という単語が飛び出して、いまさらながら彼女たちが途方もない時間を歩んできたと再認識する。
片や俺より幼い少女のようであり、片やせいぜい成人して間もない程度の女性であるが、かなり目上の人なんだよなあ。
「ところでミーナさんはなにしてるの?」
会話しながらも、木片を削って加工しているのが気になったので尋ねてみる。
「これは、前に話した魔獣避けの結界を張る道具ですよ。こうやって形を作ってから、媒体となる魔獣の一部を魔力を込めながら取り付けるのです」
「へえ、木でできたお守りみたいな見た目なんだね」
民芸品みたいだが、しっかりと実用的であることは、森の中を散策するエルフたちが証明している。
まだ日本にいたころ、学校の授業で彫刻刀を使っていたときのことを思い出し、どことなく懐かしさを感じる。
「やってみます?」
興味がわきついじろじろと見てしまっていたため、ミーナさんは俺に木片と小刀を渡してくれた。
「せっかくだし。やってみようかな。みんなはどうする?」
俺一人で始めてしまうと、他のみんなを待たせることになってしまうので聞いてみる。
「妾こういう作業苦手なのじゃが」
「私は教会にいたときに似たようなものを作ってたから得意ですよ」
「ルピナスもやってみたいです」
すると、意外にも皆がお守り作りに参加してくれた。苦手だと言っているシルビアも試しに作ってくれるようだ。
ソラは……さすがに、無理そうだな。俺のそばによってきたので、わきに抱えておこう。
無心で木片を削っていくが、意外と難しい。変に引っかかるので力を込めすぎたら、危うく木片を割りそうになった。
他の人たちはどうしているだろうかと横目で見ると、アリシアは過去に似たようなことをしていただけあって、ミーナさんに劣らずの綺麗なお守りが作られていく。
シルビアは……俺の仲間だな。むずかしいよねこれ。
ルピナスはそもそも木を削る道具を持てないんじゃないか? そう思っていたのだが、魔法で器用に道具を浮遊させて、丁寧にに木を削っていた。意外だな。こんな才能があったのか。
「みなさん上手ですね。それじゃあ、あとは核となる魔獣の毛を取りつけましょうか」
ある程度形が整ったところで、ミーナさんから白い毛のような物を渡される。
どうやら、これを組み込んで魔力を注げば完成するようだが……魔力か。俺にできるのは木を削るまでだな。
「ん、どうしたソラ?」
すると、先ほどまで俺の横で大人しくしていたソラが、俺が作ったお守りの型を口に咥えて持っていった。
まあ、使い道がないのでいいんだけど、穴を掘って埋めたりするんだろうか。
ソラの行動を見守っていると、ソラは何本か自分の毛を抜くと、俺の作ったお守りに組み込んでくれた。
俺の代わりに完成させてくれたのか、いい子だな。
「ありがとうな、ソラ。大事にするよ」
完成したお守りを再び咥えると、尻尾を振りながら俺の前まで持ってくる。
投げたボールを拾ってきた犬を彷彿させてかわいい。
「す、すごい物ができあがりましたね……神狼様の力が込められた魔導具なんて、神器級の希少なものですよ」
「そんなすごい物、俺がもらっていいのかな?」
元々はミーナさんが作っていた物だし、勝手にもらうのが申し訳なくなってきた。
「むしろ、お兄さん以外の人がもらうことなんてできないですよ……」
ミーナさんとソラがそれでいいのなら、俺がもらっておくか。
忘れがちだが、ソラは神様らしいから、きっとご利益があるだろう。
「私もアキト様のために作りました!」
「妾が作った物は見た目はよくないが、魔力だけはそれなりじゃぞ」
「ルピナスも人間さんにあげるです」
その様子を見ていた三人とも、自分が作ったお守りを俺にくれるみたいだ。
……もしかして、俺のふだんの行動が危なっかしくて心配されてる?
「これはまたすごいですね……聖女に古竜に妖精の魔導具なんて、お兄さんものすごい加護がありそうですよ?」
「そうだね。みんなありがとう」
お礼を言って受け取りながらも、もう少し日々の行動をあらためるべきなのだろうかと、思わず考えてしまった。
「しかし、案外楽しかったな。もう少し作ってみてもいい?」
「はい。お兄さんがいいのでしたら、私はかまいませんよ?」
ミーナさんの許可ももらえたし、もう一度作ってみよう。
今度はさっきよりもうまくできる気がする。
◇
「お兄さんって、けっこう凝り性だったりしますか?」
「いやあ……面目ない」
「あっ! 責めてるわけじゃありませんよ?」
作りすぎた。つい熱中してお守りづくりを続けた結果。俺たちの前には、たくさんのお守りもどきが並んでいる。
ミーナさんはミーナさんで並行して、当初予定していた魔導具を作り終えているので、俺のお守りもどきには肝心の核となる素材がない。本当になんの効果もないお守りですらない代物だ。
「えっと、またそのうち魔獣からお守りの元となる媒体が手に入ったときにでも使ってね」
「あはは、そうさせてもらいます」
まあ、無駄にはならないようだし、場所はとるが許してほしい。
「ミーナ。そろそろ魔導具はできましたか?」
すると、そこに一人のエルフが訪ねてきた。
この人はたしか、ルチアさんとミーナさんの幼馴染だったエルフだな。
「あっ、アキト様。いらっしゃっていたのですね。お久しぶりです」
「どうもお久しぶりです」
深々と頭を下げるのはできればやめてほしいものだけど、どうもこの村の大多数の人はいまだに俺を信仰してしまっているらしい。オーガたちがそうならなくて本当によかった。
「魔導具なら全部出来上がりましたよ。そこに積んであるのがそうです」
「そうですか。助かります」
ミーナさんの言葉を聞いて、机の上に積まれたお守りを回収しようとしたところで、エルフの女性は俺が作ったお守りもどきに気がついた。
「こちらは?」
「あ、それは俺が作った物だから、まだ完成してないよ」
「アキト様の手作り……? あの、こちらはどうするおつもりでしょうか?」
やばい、怒られる。木を削るのが楽しくなって資源を無駄にしたのだから、怒りもするか……
「えっと……次にお守りが必要になったときに使ってもらえたらと思って、決して無駄にしたわけでは……」
「そうですか。では、ミーナこちらもいただいていきますね」
納得してくれたのか、なんとか怒られずにすんだけど、それまだなんの効果もないよ?
「それ、肝心の魔獣の媒体と魔力がないから、ただのアクセサリーにしかなってないんだけど」
「けっこうです。それでは、私はこれで、アキト様ありがとうございました」
止めようとしたけど、エルフの女性は足早に家から出ていってしまった。
いいのかな。一応説明はしたし、大丈夫だよな?
「なんだったんだろう」
そう呟きみんなのほうを見ると、さっきのエルフを追って家を出たらしく、いつのまにか俺しかいなくなっていた。
窓から外を見ると、エルフの女性からお守りもどきを受け取るソラたちと、その後ろに並んでいるエルフの村人たちの長蛇の列が見えた。
みんな、本当にあれがなんの効力もないということを理解しているんだろうか……
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