第45話 小さな子のほうが頼りになるときがある

「まずは少数で精霊を探すのが得策かと」


「だけどあんたも勇者たちもいつまでもこの町にいるわけじゃないんでしょ? あんたたちがいるうちにさっさと精霊を退治したいんだけど」


「えっ、退治しちゃうんですか?」


 ひとまず王女たちと協力することになったので、まずは方針を決めないといけない。

 だけど、相変わらず意見が合わない。きっと私と王女様は元来から反りが合わないんだと思う。


「ですが、全員出払ったら町を守る者がいなくなるのではないですか?」


「そんなの、町に残ってようと関係ないわよ。あれから町を守るなんて無理。あんたたちは見てないからそんなことが言えるだけよ」


「それなら私が守りましょうか?」


 さすがにあの魔力の塊による災害なんて私たちの手に余る。

 あれをどうにかできるのなんてそれこそ禁域の森で会った強者たちくらいでしょうね。


「……で? なんでここにいるのよアリシア」


 話し合いが終わるまでは無視しようと思ってたけどもう無理。

 いちいち口をはさませるくらいなら、一旦話を中断してでもこいつの用件を聞いた方が早いわ。


「教会の方に話したら通してくれましたよ?」


「次からは不審者は通すなと徹底しておくわ。それで用件は?」


「聖女さ~ん!」


 また邪魔が入った。そして邪魔をしたのは、またもあの森の住人だった。

 会議の場に騒がしく乱入してきたのは、あの森で最初に出会った妖精。要はこいつの仲間ってことね。

 ……アキト。私に恨みでもあるのかしら? まあ、拉致しようとしたからあるといえばあるんでしょうけど、そのことは許すと言ってたし、つまり全部アリシアのせいね。


「今度はなによ! 説明しなさいアリシア!」


「あれ? ルピナスさんはフィル王女様のところに行ってたはずなんですけど……ああ、フィル王女様がこちらにいるから、ルピナスさんもこの町にきたんですね」


「そうなんです。ルピナスが王女さんに会いに行ってもいなかったです」


 いや、勝手に納得して終わろうとしてんじゃないわよ。このマイペースども。


「つまり、アリシアさんはリティアさんに、ルピナスさんは私に用事があったということでしょうか?」


 甘やかすんじゃないわよ王女! でも、ここでそれを指摘したら余計に脱線しそうだし、私が我慢するしかないわね……


「そうです。ルピナスのお友達の精霊さんのことで話にきたです」


「は? 精霊って……まさか、最近この町を襲ってるやつのことを言ってるの?」


 ようやくこいつらがここに来た理由と私たちが問題にしていることがつながった。


    ◇


「なるほどね……いや、最悪ね。暴走した精霊なんて、どうしろっていうのよ」


 事態は思っていた以上に悪い状況だった。

 妖精、ルピナスの話を聞くかぎりでは、その精霊は無害というか善良な友人だったらしい。

 もしも私たちの町を襲っている精霊とルピナスの友人が同一の存在だとしたら、これまでと人が変わったかのように暴れ回っているということになる。

 そんなブレーキの壊れた莫大な魔力を持った相手と戦うことができるのか、しかもここにいる妖精の友人ということであれば、単純に退治するというわけにもいかなそうね。


「魔獣のときみたいにあんたがぶん殴ればいいんじゃない? そうすりゃ正気に戻るかもしれないわよ」


「そうですね。私こう見えても力技は得意なんです!」


「冗談だから絶対にやめなさいよ!」


 なにがこう見えてよ。どう見ても力でしか解決できない脳筋じゃないあんたは。

 私の冗談鵜呑みにしてあんたの友人の友人撲殺するところだったと気づいているのかしら。


「アリシアさんがゆかいなのはひとまず置いておいて、私たちだけじゃ対処し切れないかもしれませんね」


「褒められました」


 褒めてないからね。王女があんたに気を遣って言葉を選んでるだけで、あんたのこと多分アホだと思われてるわよ。

 まあ、今はアリシアより精霊の話ね。


「私たちだけで無理ならどうするの? 他国に応援でも頼む?」


「いえ、近隣の国も戦力としては私たちの国とそう大差はありません。それに、退治ではないと言ったら協力してもらうことも難しいはずです」


 どうしたものかしら。そこで私は一人の男の顔を思い浮かべた。

 はっきり言って戦力には数えられないけど、あの人を慕ってるあの化け物たちは別だ。

 それに、やさしいあの人のことだから、きっと精霊のこともなんとかしてくれるんじゃないかと思ってしまう。

 私の長年の卑屈な性根を改善してくれたように。


「その精霊、もともとは禁域の森にいたんでしょ? 森に追い返して森に住んでる人たちに任せたら?」


「それは……問題を押しつけてませんか?」


 まあ、そうでしょうね。

 だけど、私はあの人に頼るのが最善だと思う。だから、なんと言われようと意見を変える気はないわよ。


「仕方ありませんね……これ以上アキト様のご迷惑になるのは避けたかったんですけど」


 一歩も引く気がない私を見て諦めたのか、王女も私が思い浮かべていたのと同じ人のことを考えていた。


「そういうわけだから、まずはなんとかして精霊を禁域の森まで連れて行かないとね……ねえ、アリシアはどこに行ったの?」


「聖女さんなら、人間さんにルピナスのお友達を助けてもらうよう伝えに行きましたよ?」


 あの自由人め。私たちが悩んでることなんて関係なく、どっちにしろアキトに頼ることになってたらしい。

 ほんと、王女とのやりとりも時間の無駄だったみたいね。


「それで、あんたはなんで残ってるの? 一緒に森に帰らなくていいのかしら」


 もう面倒だからいっそ二人で帰ってくれてもよかったのに、なぜか残っているルピナスに聞いてみると、思ってたよりもまともな答えが返ってきた。


「? 町を襲ってるのが、本当にルピナスのお友達か確かめないといけないです。別の精霊だったら、今話してたこと無駄になりませんか?」


 まとも。すっごいまともな意見。

 なにこの子。アリシアより頭いいじゃない。


「そ、そうね。それじゃあ、精霊を探してルピナスの知り合いか確かめましょう。知り合いだったら、森まで誘導して、人違いだったら……どちらにしろ森からの応援はほしいわね」


 一応の方針は決まった。人任せすぎる気もするけど、残念ながら私たちの手に余ることなので仕方がないわね。


    ◇


「アリシアたちの町がそんな大変なことになってたのか」


「はい。できればルピナスさんのお友達じゃなかったらいいのですが……」


 アリシアが悲しそうに顔を伏せる。

 すでにその精霊は暴走状態ということで間違いないらしく、そこまで暴走している者を正気に戻す手段は誰も知らないらしい。


「ソラ。シルビア。いつも悪いけど、その精霊がここにきたら止めてくれる?」


「うむ、それはかまわぬ。じゃが……」


 途中から口ごもるシルビア。それはきっと、止めることはできても元の精霊に戻すことはできないと言いたかったのだろう。

 アリシアに回復魔法を使ってもらっても意味がない。魔力が暴走しているため、別の者の魔力まで追加することは逆効果のようだ。


「時間はまだあるだろうし、ルチアさんたちにも何か知らないか聞いてくる」


 考えていてもなにも思い浮かばないため、俺はエルフのみんなの知恵を借りるために、ソラに乗って村へと向かうことにした。

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