第43話 同じレベルの者同士(ただし高レベルである)

「あら」


「げっ」


 とある町で発生した災害の対処をするために、勇者のみなさんと一緒に赴いたのですが……

 そこで向こうとしては想像外の出会いが、こちらとしては想定してはいたけど、あまり実現してほしくなかった出会いがありました。


「どうもお久しぶりです。リティアさん」


「……お久しぶりです。フィル王女様」


 すごく嫌そうな顔でかろうじて挨拶を返したといった様子ですね。

 それも仕方がないことではあります。私たちがより強固な組織となった直後に、教会もまた信者を増やして強大な組織へと移り変わりました。

 いがみ合っていたのは、先代の話。ルメイとアリシアさんの時代の話だったので、表立って対立しているというわけではないのですが、互いに関わり合いにならないという暗黙の了解がそこにはありました。


 それに、リティアさんはルメイが好き放題していたころの勇者であり、妹を止めることもしない無能な姉である私のせいで、勇者を辞めてしまったという過去があるので、私へ良い感情を持っていなくても仕方がありません。


「そう無理にかしこまる必要はありませんよ? そちらはもう独立した組織のようなものですから」


「……あ、そう。じゃあ、できるかぎり関わらないほうが互いのためね」


 やはり積極的に交流はしたくないようです。

 たしかに彼女の言うとおり、下手に刺激するくらいなら穏便に用件をすませて、この町から去るのが得策のようですね。


「ここにくるまでに報告は聞いています。たしか竜巻による被害が多発していて、その原因が魔獣だとか」


「ええ、本当に嫌になるわ。最初は一過性の竜巻かと思ったら、何度も何度も町を復興するたびに、バカみたいに竜巻を発生させるんですもの」


 それはなんともたちが悪いですね。

 明らかに異常な頻度で何度も災害が発生すれば、さすがにおかしいと思うでしょうけど、この災害の元となる者はその辺に疑問を抱かないように、自然発生してるかのような頻度で竜巻を発生させていたようです。


「狡猾ですね」


「ええ、そんなのあんたの妹だけで十分だっていうのに」


 予想外の身内への罵倒が口にされ、私は思わず謝りそうになりましたが、王女という立場もあり、心の中で謝罪するだけに留めました。


「それで、原因はもうわかっていると聞きましたが、詳しい内容は報告にあがっていませんでした。聞かせていただけますか?」


「まあ、いいけど。改めて聞かせるほどの情報はないわよ。嫌がらせの達人の風の精霊が、私たちの町に目をつけて嫌がらせ三昧している。それだけ」


「風の精霊ですか……」


 それはまた、厄介な相手に目をつけられたものですね。


「とにかく、このまま原因を放置してたらキリがないわ。いくら町を立て直しても、どうせまた竜巻で破壊されるんだから」


「そうですね。ですから、こちらも力になるために、勇者のみなさんを連れてきました」


 何者かが意図して竜巻で町を破壊していると聞き、私はその何者かの調査ないし討伐のために、頼りにしている勇者の方々と共にここにきました。

 元々自分が所属していたということもあってか、リティアさんは難しい顔をしていますが、今は精霊退治を優先するとしたのか、結局何か文句を言ってくることはありませんでした。


「そう。頼りにしてるわ……」


「しかし、精霊とは珍しいですね。ここ最近では目撃情報もありませんでしたけど」


 精霊は妖精と同じく伝聞にのみ存在するとされるほど、見かけることが稀な種族です。

 もっともルーツが同じため、精霊と妖精がどちらも珍しいのは当然ともいえますが。

 そんな精霊が人間たちの町を襲うなんて、なにがあったのでしょうか。


「そうね……たしかに、これだけ執拗に人間に嫌がらせする精霊なんて聞いたこともないわ」


「なにか心当たりはありませんか?」


 リティアさんは考えるそぶりを見せましたが、結局なにも心当たりはなかったらしく、お手上げだと言わんばかりに両手を上げました。


「さあね。住んでた場所から逃げてきたんじゃないの? 例えば禁域の森とかね」


「それは……あの森で何かが起こったということでしょうか? いえ、アキト様たちがいるのであれば、おいそれと大きな問題が起こることもないはず……」


 冗談まじりでリティアさんが言った禁域の森という単語に、思わずアキト様の安否を心配してしまい、私はリティアさんを目の前にぶつぶつと独り言をつぶやいてしまいました。


「は? ちょっと待ちなさい。なによアキト様って……ああ、そうだったわね。元々アキトの噂が真実だと言われるようになったのも、あんたたちが出会ったからだったわ」


 え? アキト……?

 その呼び方は、なんだかまるでアキト様と出会ったことがあるような。


「まあ、アキトならあんたたちを安全に帰還させるくらいはするでしょうね。あの人やさしいから」


 間違いありません。リティアさんはアキト様に出会っているようです。

 ……なんだか、胸の中がぐるぐるします。あまりよくない魔力が循環しているような、そんな嫌な感覚? あるいは気持ちが芽生えてきているような気がします。


「そうですね。アキト様は私たちを何日もお世話してくれるほどやさしいお方ですから」


 そして、私はなぜかリティアさんに自慢するかのように、こう言ってしましました。

 リティアさんは、私の言葉を聞くと先ほどまでの笑みを崩し、こちらを睨んでいるようです。


「アキトは! 私の抱えていた問題を解決してくれたわ! 私のことを心配もしてくれたから!」


「私だって! アキト様に変えていただきました! ルメイの影でおどおどするだけだった私を、王女としてくれたのはアキト様なんです!」


 あ、もう無理みたいです。

 穏便にすませると思っていましたけど、よくわかりました。

 私もリティアさんもアキト様と出会っていて、恩義を感じている者同士のようです。

 そして、それを相手に自慢して優劣をつけたがっている、なんとも仕方のない者同士のようです。


「アキトのおかげで、信頼できる部下がたくさんできたわ!」


「私だってアキト様のおかげで、頼りになる勇者のみなさんがたくさん従ってくれるようになりました!」


 ああ、どうしてこうなってしまったのか。

 似た者同士なんだから仲良くするべきなのに、似た者同士だからこそ反発しあってしまっているみたいです。


「聖女様。それ以上は本格的に対立することになるので止めてください」


「フィル様も、教会と対立することは本意ではないはずです」


 リティアさんのそばで控えていた修道女の方とルビーが、それぞれ私たちを止めるべく口出しして……というか羽交い絞めされています。

 一応私王女なんですけど……というか、向こうも聖女なんですけど……


「ちょっと! 離しなさいよエセル! 洗脳するわよ!」


 なんかとんでもないことを言い出しました。本当に聖女なんでしょうか……

 ふと先代の聖女であるアリシアさんを思い出しました。

 うん、本当に聖女ですね。聖女なら別にこれくらいの異常さは普通ですね。


「無理です。私たちはリティア様のことが大好きなので洗脳できません」


 エセルさんが真顔でしれっと言ったセリフに、リティアさんもさすがに恥ずかしくなったのか、先ほどの勢いはなりをひそめて大人しくなりました。

 というか、あれは恥ずかしさが勝っているだけですね。顔真っ赤ですし。


「ふ、ふん! エセルに免じて許してあげるわ! さっさと精霊退治の対策を話し合うわよ。ついてきなさい」

 照れ隠しからか、リティアさんは足早に教会の中を歩き、私たちを会議の場へと案内してくれました。

 ……なんだか、リティアさんとうまくやっていけそう。

 そう思っていたら、ふと目が合ったエセルさんに意味ありげに微笑まれました。

 なるほど、あの場を収めてくれただけでなく、リティアさんが悪い人ではないと教えてくれたのですね。

 なんだか、リティアさんよりも食えない人だなと思いつつ、私は精霊対策を進めるのでした。

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