39 ポストリュード

 世田谷でも杉並でもあるいは多摩地区でもない都心のホテル・ラウンジ喫茶店で二人の女性が会話している。

W「あの子が、あなたの娘さんだとは知らなかったわ」

U「それは、わたしの方だって同じ……。でも笑っちゃうわよねぇ」

W「そう。ディーとエフだって……」

U「わたしたちのときはユーとダブリューだったわ。宇宙と世界」

W「それに別の意味もね……」

U「でも、はじめて彼を見たときは運命を感じたわよ。……翼を折ったのはあなたなんでしょう?」

W「ご想像にお任せするわ。でも、すぐにそうしなければ天に召されていたはずよ。それに、時間が経ってからでは出来ないと思って……」

U「あなたらしいわね」

W「ええ、きっとそうなんでしょうよ。それに男の人の力は借りたけれど、あの子はあなたの子供でもあったはずから、手放すことは出来なかった」

U「わたしの娘もあなたの子供?」

W「さあ、どうでしょうね?」

U「あなたのパートナーは懐が深いのね。わたしの方は、受け入れることが出来なかったみたい」

W「いわなけりゃ、良かったのに……」

U「もちろん、ひとことも話してはいないわ。でも、わかったんでしょう」

W「ああ、でも、もうみんな昔のこと……。こんなふうに、あなたとまた話せるような日が来るとは思ってもみなかったわ。平穏な気持ちで……」

U「それは、わたしも同じよ。……そういえば、わたしがあなたにプレゼントして、結果的にわたしの方に戻ってきた『うさこちゃん』のぬいぐるみ、あれが娘の部屋にまだあるのよ」

W「ふうん。懐かしいわね」

U「でも困ったわね。そうすると、あの子たちは姉弟ってことになるのかしら?」

W「まさか! 生物学的に血が繋がっているわけでもあるまいし……」

U「それはそうね。……でもいずれ、わたしたちが辿ったのとは違うにしても、やはり試練を受けるのかしら?」

W「将来のことはわからないわよ。仮にわかっていたとしてもね。それに命を賭したのはあの子の意志。たとえ親でも、それにとやかくいうことはできないでしょう。それはあの子たちの領域のことだから……」

U「確かにね。……あら、あの子たちがこちらにやってくるわ。お互い、普通の母親に戻りましょうか、和音(わお)さん?」

W「ええ、そうしましょう、羽衣子さん」

   *   *   *

F「すっかり、キミのお母さまと仲良くなっちゃったみたいだね、マママ」

D「そだね! ……でも、前にちょっとだけいったことあるけど、やっぱり母さんとマママさんって似ていると思うな」

F「そうかなぁ? でも、だとしたら、わたしたちもそうかもしれないわよ」

D「……」


 見えない翼


 天使の翼 降りて……

 誰にも見えず 折れて……

 感触だけが 遺(のこ)り……

 やがて、無に消えゆく……


 悪魔の羽根が 降りて……

 誰にも見えず 折れて……

 感触さえも 知らず……

 埋もれ、朽ち果てゆく……


 ひとりぼっちで 笑おう

 仲間なんか いらない

 群れがいくつも 周(まわり)り

 囲み、いつまでも孤立して……


 背中の翼 感じ……

 キミには見えて ひかり……

 修復されて ひらき……

 白く、煌(きらめ)きゆく……


 キミの心を 救う

 過去の罪を 赦し

 世界に ひとりだけの

 キミを いつまでも抱きしめて……


 目の前に キミが堕ち……


 天使の翼 降りて……

 キミには見えて ひらき……

 掌(てのひら)の先 やっと……

 届き、抱きしめつつ……


 世界に ひとりだけの

 キミを いつまでも抱きしめて……


 Auf Flügeln des Gesanges (Heinrich Heine)


 Auf Flügeln des Gesanges,

 Herzliebchen, trag' ich dich fort,

 fort nach den Fluren des Ganges,

 dort weiß ich den schönsten Ort.

 Da liegt ein rot blühen der Garten

 im stillen Mondenschein;

 die Lotosblumen erwarten

 ihr trautes Schwesterlein,

 die Lotosblumen erwarten

 ihr trautes Schwesterlein,


 Die Veilchen kichern und kosen,

 und schau'n nach den Sternen empor,

 heimlich erzählen die Rosen

 sich duftende Märchen ins Ohr.

 Es hüpfen herbei und lauschen

 die frommen klugen Gazell'n;

 und in der Ferne rauschen

 des heil'gen Stromes Well'n,

 und in der Ferne rauschen

 des heil'gen Stromes Well'n,


 Dort wollen wir niederseinken

 unter dem Palmenbaum,

 und Lieb' und Ruhe trinken

 und träumen seligen Traum,

 und träumen seligen Traum,

 sel'gen Traum.

(了)

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歌の翼に…… ―― Requiem ―― り(PN) @ritsune_hayasuki

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