ハムレット

 打ち合わせは、例によって東京だ。


 たとえ、撮影地が東京以外であっても、

「芸能界の中心は東京です。

 東京に来ない限り、あなたの復帰は歓迎しません。


 あなたの醜聞、ウワサでどれだけのお金が飛び、投資に失敗して、

 事務所がどれだけ損害をこうむったか。

 えーと、1、2、飛んで35億」


 管理者の話を黙って聞く。


 この手の輩は、単純に長く話を聞いて欲しいだけで、母親から十分に愛情をかけられず、母親に対して十分に話を聞いてもらえなかった、という心的外傷にとらわれている。


 管理者が、芸能人の心、身体をいたわる、というのはいつわりで、実情は、一方的に、一方通行の会話が多い。


「聞いてます?沙歩ー」


 呼び捨ても、いつものこと。


 彼らにとって、一般人は、画面の向こうで、お茶の間で「こいつ演技下手になったよな」「この女優、この前、監督と寝たんだって」と言った、意味もなくつながるための道具として、有名人を利用する。


 一方的に画面で見て、親しみを感じ、長い友人だと思い込むから、呼び捨てもなめてかかるのも、彼らにとっては、常識であり、礼儀である。


 それが許されるのは、一部の芸能人であり、呼び捨てをするような芸能人が、実は礼儀正しくて折り目正しいがゆえに、その暴力性を


「そんなわけで、打ち合わせは13時、午後1時からです。

 あなたのことですから、遅れることはないと思いますが。


 迎えの車、よこしましょうか」


「ドライブ・マイ・カーじゃないんだから、

 自分で電車乗り継いで行きますよ」


「あなた、自分の知名度、わかってます?」


「慣れているよ、一般人のふりして、世の中に紛れ込むのは」


 

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