第3話 魔王さまモヒカンどもをボコす(前編)

 「やっべえ!人轢いちまったぜ!」


ニックは慌てふためき、バイクに急ブレーキをかけようとした。


しかし車体が瓦礫に乗り上げてしまい横転、バイクはそのまま横滑りし、ニックは車外へと投げ出されてしまう。




 「うわぁ!」


ニックの身体は地面をゴロゴロと転がり、瓦礫にぶつかって動きを止めた。


「いてて……。」


ニックは尻をさすりながら起きあがろうとした。


しかしそんな彼女の額にガチャリと銃口が突きつけられた。




 「ぐへへ!見〜つけた!」


ニックが顔を上げると、そこには下卑た笑みを浮かべるモヒカン頭のオークがいた。


「げ!な、なんでこんなとこにいるんだよ⁈ 」


ニックが当然の疑問を口にする。


「まいたはずだと思ったか?あれを見な!」


オークが親指でくいっと指し示した先には、地下駐車場へとつながるスロープがあった。




 「この辺りの地下にはな、まだ崩落してない地下施設が山のようにあるのよ!それを使えばテメェみてえな調子こいたガキなんざ、いくらでも出し抜けるってワケよ!」


「クソッ!先回りされてたってのかよ!」


「ハハッ!そういうこと!」


悔しがるニックを見下ろし、四人の屈強なモヒカンギャングたちはゲラゲラと汚い声で笑った。




 「へへへ!さあ観念してとっとと来やがれ!」「おい、誰かコイツを縛り上げろ!久しぶりの上モノだ!傷つけんじゃねぇぞ!」「ガッテン!」


「やめろ!離せ!」


ニックはモヒカンたちに荒縄で縛られ、猿ぐつわを噛まされた。そしてオークの肩に担がれ、路肩に停めたバギーへと運ばれていく。


ジタバタともがいて拘束から抜け出そうとするが、全身をがんじがらめに縛られまともに動く事すら出来ない。




 (クソッ、調子こいてコイツらの縄張りで仕事なんかするんじゃなかったぜ!)


ニックは自分のうかつさを呪った。


最近の自分は確かについていた。


何度もでかいヤマを掘り当てたし、いい取引先ともコネができた。


自分には運が向いていると、才能があると何の根拠もなく思っていた。……要するに自惚れていたってワケだ。


(それで調子こいてこのザマだ。)


きっと必要のない危険を冒し続けたツケが、今になって回ってきたのだろう。(今さら後悔しても、もう遅いんだろうけど。)




 自分はこのまま野党どものアジトに連れ去られ、奴らの慰みものになるのだろう。


それか薬漬けにされて、闇オークションで奴隷として競売にでもかけられるのかもしれない。




 (なぁ、頼む。誰か助けてくれよ。お願いだ!神さまでも悪魔でもなんでもいい!助けてくれたら何でも言うこと聞く!だから、誰かアタイを、助けて……。)


ニックはバギーの荷台に押し込められながら、声にならない声で助けをこうた。




 ……果たしてその声が天に届いたのだろうか、モヒカンどもの手がぴたりと止まった。


「おい、ありゃなんだ?」「知らねーよ、おまえ見てこいよ!」


モヒカンどもの間から困惑の声が上がった。


どうやら何かトラブルがあったらしい。


(……?)


ニックは首を強引に捻り、モヒカンどもの視線の先に目をやった。




 そこには先ほど彼女がバイクで跳ね殺したあの少女の姿があった。


道路のアスファルトの中に頭から突っ込んで、ピクピクと痙攣している。




 ぱっと見、どう見ても死んでいるようにしか見えない。


しかしよく見ると、彼女の頭がめり込んだアスファルトの周囲がピシピシとひび割れていき、放射状の亀裂をつくっていくではないか!


これは……いったい何が起こっているというのだ⁈


おお神よ!彼女は死んだはずではないのか⁉︎




 「ぷはぁ!」


マオはアスファルトから勢いよく頭を引き抜くと、濡れた子犬のようにぶるぶると頭を振った。


髪の毛や顔にまとわりついたアスファルト片が、バラバラと辺りに散乱する。




 「おはようございます、マオさま。ようやくお目覚めですか。」


リルが呆れたような表情でマオを抱え起こし、衣服についた砂埃を払った。


「ん……ありがと、リル。なんだかしばらく意識が飛んじゃってたみたいね。ところで……。」


マオは目を瞬かせ、モヒカン頭のチンピラと、縄でがんじがらめにされたニックとを交互に見やった。


「これ、いったいどういう状況なの?」










_____つづく

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