第4話 魔王さまモヒカンどもをボコす(後編)

 「ねぇリル、わたしが気絶している間にいったい何が起こったのか、詳しく説明してちょうだい。」


「実はかくかくしかじかでして。」


「なるほど、だいたい状況はわかったわ。つまり人さらいというわけね!」


マオは合点がいったと様子でうんうんと頷いた。




 「そこのあんたたち!悪いことは言わないから、その子を置いてとっとと立ち去りなさい!さもないと痛い目見るわよ!」


マオはモヒカンたちを指差し、高らかにそう宣言した。


呆気にとられたモヒカンたちは一瞬ポカンという表情になった。そしてお互い顔を見合わせ、ゲラゲラと大声で笑いだした。




 「ゲハハハハハハ!そりゃあずいぶんおもしろい冗談だなぁ、お嬢ちゃん!」「おじさんたちをどうするって?おお怖い怖い!」「ブハハハハハハハ!腹が痛えよ!」


マオを指差し、モヒカンたちは腹を抱えて爆笑する。




 「おい兄弟、オレはいいこと思いついたぜ!ついでにあのガキどももとっ捕まえるんだ。見たところあの二人、かなりの上玉だぜ?奴隷にして売り飛ばせばかなりの額になる。」


ギャングたちの中で一番知恵が回りそうなモヒカン頭のゴブリンが、仲間のオークにそっと耳打ちした。




 「へへっ、そりゃあいいアイディアだなぁ相棒!獲物が増えりゃボスもお喜びになるし、オレら下っ端にもボーナスが入るってわけだ。いいぜ、やっちまおう!」


「オレはあのツノの生えたチビをやる。おまえはあのオオカミ獣人を頼む。」「OK!だがくれぐれも顔には傷つけんなよ?高く売れなくなるからな?」「へっ!わかってるよ!」


二人のモヒカンギャングはスタン警棒を抜き放ち、マオとリル目掛けて襲いかかった!




 モヒカンゴブリンはパルクール走者めいた俊敏な動きでマオの懐まで一気に駆け寄ると、横薙ぎにスタン警棒を振り払った!


彼らが常備するスタン警棒は戦前に軍が暴徒鎮圧用に開発したものであり、最大出力では巨大ゾウを一撃で昏倒させるほどの威力を誇る凶悪武器だ。


ほんのわずかにかすりさえすれば獲物の全身に電流が走り、体の自由を失うことになるのだ。




 「ヒャッハー!!!!もらったぜぇ!!!!!!!」


青白い電光の尾を引く鋼鉄鈍器が、マオの胴体目掛け襲いくる!


しかし……おお、なんたることか、マオはあえてそれを避けることなく、スタン警棒の放電部分を掴んで受け止めたのだ!




 「なっ⁈ 何考えてやがる、テメェ!」


マオの予期せぬ行動に意表を突かれ、ゴブリンは狼狽する。


その一瞬の怯んだ隙を見逃さず、マオはゴブリンの顎もと目掛け鋭い掌底を繰り出した!


「セイヤァ!!! 」「グワァーーー?!! 」


口から鮮血を撒き散らし、盛大に吹っ飛ぶゴブリン!


地面に豪快に叩きつけられ、白目を剥いて動かなくなった!


モヒカンゴブリン気絶!戦闘不能!




 「あ、相棒ーー!テメェ!よくのオレのダチ公をやりやがったなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!! 」


仲間をやられたオークは激昂し、マオ目掛けて突進しようとした!


「させません!」


しかしそれを阻むようにリルが立ち塞がり、モヒカンオークの横っ面目掛けて回し蹴りを放つ!


「とぅっ!」「グワァーーー!!!!!!! 」


リルの強烈な回し蹴りを喰らったオークは、クルクルと回転しながら吹っ飛び、そのまま地面に叩きつけられる!


モヒカンオーク気絶!戦闘不能!


 


 「あらあら、人間界にはずいぶんと物騒なおもちゃがあるのね?こんなまがい物の雷で、わたしたちをいったいどうしようというのかしら?」


マオは地面に倒れ伏すモヒカンギャングを冷たい瞳で一瞥する。


そして人間離れした凄まじい膂力で、手にしたスタン警棒をメキメキと握りつぶした。




 「テメェーーー!モヒカニスト舐めんじゃねぇぞお!」


「気をつけろ!奴らは拳法使いだ!距離をとって戦え!ティザーガンを使って…… 」


「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!! オレに指図するんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!! 」


激昂したモヒカンオーガは仲間の忠告も聞かず、電磁サスマタをブンブン振り回しながらマオ目掛けて突進する!




 「死にさらせやぁメスガキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


暴走重機関車めいた巨体がマオ目掛けて迫る!


しかしマオは一切動じることなく、天高く手刀を掲げた。


そして静かに瞳を閉じ、掌に魔力を集中する。


マオの手刀の周りに青白い電光が渦巻き、やがてそれは紫電をまとう雷の剣となった。




 「魔皇神拳奥義……轟雷光!イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」


マオはカッと目を見開くと、天高く回転跳躍!


そのまま回転と落下の勢いを利用し、オーガの脳天目掛けて手刀を振り下ろした!


ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!


天から降り注ぐ雷神の拳の如き一撃が、オーガを地面へと叩き伏せる!


「グオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ?!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! 」


オーガの全身に凄まじい電流が走りビクビクと痙攣!


全身からブスブスと黒い煙を噴き上げそのまま気絶した!


モヒカンオーガ戦闘不能!




 「あっ、ああ……。」


あっという間に仲間を三人もやられたモヒカン男は口をあんぐりと開けたまま硬直した。


残るモヒカンギャングは彼一人のみだ。


「さぁ、残ってるのはもうあんた一人だけよ?無駄な抵抗はやめて、その子を置いてとっとと立ち去りなさいな?」


マオは悠然とした足取りで、モヒカン男へと歩み寄った。




 「ひっ!く、来るな!おれに近寄るんじゃねぇ!」


恐慌状態に陥ったモヒカンは、恐怖で声を震わせながらバギーの荷台へと駆け寄った。


「どけ!」「ぎゃっ!」


そして荷台に積まれたままのニックを乱暴に引きずりおろすと、中から布に包まれた大きな道具を取り出した。


ボロ布の下からあらわれたそれはロケットランチャーだ。


 


 「化け物のガキめ……!これでも喰らって吹っ飛べってんだ!」


モヒカン男はロケットランチャーを肩にかつぎ、その照準をマオに向けて引き金を引いた。


KABOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOM!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


大筒の後方から炎が噴き上がり、羽の生えた円錐状の物体が高速射出される。




 命中すれば戦車ですら一撃で破壊するロケット弾が、マオ目掛けて迫る!


だが科学文明とは縁遠い魔界の大地で育ったマオには、それがなんなのかさっぱりわからなかった。


しかし一目見てそれが危険なものであると瞬時に判断し、マオはロケット弾を天高く蹴り飛ばす!




 「セイヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」


ヒュルルルルル……ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


軌道を大きく逸れたロケット弾は、空中でネズミ花火のような乱雑な軌跡を描き、やがて建物を飛び越え、マオの遥か後方で大爆発した。




 「な……⁉︎ あ、あぁ……!」


モヒカン男は目の前で起こった出来事が信じられず、パニックを起こした。


雷をまとったチョップで仲間を黒焦げにし、挙げ句の果てにはロケット弾を蹴り飛ばすなど、とてもじゃないが人間業ではない!


「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!! お、お助けをぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!! 」


モヒカン男は小便をまき散らしながらバギーへと乗り込み、仲間を見捨ててどこかへと走り去ってしまった。




 「ふぅ……。まったく、人間界は物騒なところね!絵本に書いてあったのとは全然大違いだわ!」


マオは愚痴をこぼしながら、地面に転がりうめき声をあげるニックへと歩み寄った。 


そして彼女を縛る荒縄を引きちぎり、拘束を解いてやった。




 「安心して、もう大丈夫よ。悪い奴らは全部やっつけたから。」


「ハァ……ハァ……すまねえ、助かったぜ!危うくアイツらに捕まって、ポールダンス仕込まれちまうところだった。」


ニックは疲れ切った笑みを浮かべると、マオが差し出した手をとった。そしてふらつきながらもなんとか立ち上がった。




 「しかし、あのモヒカン野郎をあんな簡単にボコしちまうなんて、アンタらいったい何もんなんだ?」


ニックが当然の疑問を口にした。


「わたしはマオ。七星マオ。魔界を統べる至高の最高君主よ!」


「リルと申します。マオさまのお世話係を務めさせていただいております。どうぞよろしく。」


「あー、アタイはニック。ニック・ナックだ。よろしく頼む。」


変なやつらと関わっちまったなーと思いながら、ニックはボリボリと後ろ頭を掻いた。










_____つづく

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