第3話  同居っていいの?悪いの?


「今日まで育ててくれてありがとうございました。

これからは自分の身体を大切に幸せに暮らしてください。」

結婚式当日の朝、母親に感謝のあいさつをした。

結婚式場まで同居人が送ってくれた。

車から降りる時に一言だけ送る言葉を聞いて欲しいと言われる。

「これから同居生活が始まるなかで義両親を大切にすること。

そのことを心がけていたらそれ以上におまえを可愛がってくれる。

やがて産まれてくる子供も大切にしてくれる。

たとえ孫でもお前が可愛いくなかったらかわいいと思わない。」

「ありがとうございます」

にっこりとして車を降りた。

父親面して言ってんじゃねーよ

その時は、心の中でそう思った。


急な結婚式にもかかわらず主人側は30人ほど出席、私側は兄妹と母親なぜか同居人が父親代わりとして親族席に座っていた。

友人は5人、会社の同期が3人出席してくれた。

とてもいい結婚式だった。

式が終わり、親族の集合写真を撮った。

同居人も一緒に写っている。

主人が声をかけたらしい。

着替えがすんで待っていたのは主人だった。

今日から主人の家が私の家になる。


妊婦なのでハネムーンに行く予定はない。

車庫の上に増築をしてくれて私を迎えてくれた。

「和恵です。

今日からよろしくお願いします。」


結婚式に参列してくれた親戚の方々も帰宅していた。

早速 長男の嫁だ。

だがしかし、20歳そこそこの妊婦を早速いじめる大人はいなかった。

ただ1つ、親戚の皆さんが同居人の事を父親って思っていた事には驚いた。

それであの人を結婚式に出席させていたんだ。

いわゆる世間体ってやつなんだろうな。

でも、私も親が離婚していてただの同居人が父親面して結婚式まで出席していただけです。

と、上手に否定をしながら説明できる勇気はなかった。もっとも今日は離婚のワードはNGだろう。

一瞬で悟った。

こちらも若さと愛嬌でやり過ごす。

そんな結婚初夜だった。

結婚を機に仕事を辞めていたので暇な毎日。

家事全般は妊婦だからと何もしなくてもいいと言われ、お言葉に甘えてのんびり過ごしてた。

無事に娘が産まれて義母が1ヶ月仕事を休んでお世話を手伝ってくれた。

ホントにありがたかった。

義父もかわいがってくれた。

主人はパパになったのに義父母が楽しくやってるのを見てるだけでいいや。って思ってるのか育児には積極的ではなかった。

ママの私ですら抱っこの順番が回ってこないほどよく孫をみてくれた。

ありがたい。だって孫がかわいいって事は私もかわいいんでしょ。

同居人の言葉を思いだす。

だから私は義母と上手に過ごしてこれた。

次に弟の誕生。

男の子だったからか、2人目だからか義父母が積極的に育児に手も口も出してくるようになった。

そして義両親の退職。

昼間もずっと一緒だ。

パパになった自覚があるのかないのか相変わらず義父母に任せっきり。

パパは子供達のオムツを替えた事がない。

そんな些細な不満が私の中に毎日少しずつたまっていたのだろうイライラがつのり、はついに義父と衝突してしまった。

原因は洗濯物をしまう場所だ。

私の置き方が悪かったらしい。

そんな事で?

今でもそう思うほどしょうもない事で

「こんな家いやだ、もう離婚する」

つい言ってしまった。

子供達連れて実家に帰る、、、

事もできず、どうしょうかと、主人が仕事から帰ってくるまで待っていた。

まず、義母から状況を聞いて部屋に入ってきた主人から

「俺は一人っ子だから親から離れる事はできない。」

言葉は違うけど内容は同じことを言われた。

ショックだった。

この子達の父親じゃなくて、この人達の子供のままだったんだ。

勝ち誇ったみたいな義母の顔。

今でも忘れなれない。

離婚はしたくない。

結局、謝るしかなかった。

ごめんなさい。

悔しかった。情けなかった。

でも、泣いてない。ここには泣く場所がなかった。

その時はじめて気づいた、ここには私の部屋などないのだ。

その日から一気に立場が入れ替わった。

私だけ他人なんだなと思い知った。

ちょうどその頃、兄の会社の事務仕事を手伝ってくれないかと言われ、子供達連れて行ってもいいならと条件で行く事にした。

最初は週に2日ほど昼まえから3時頃まで

新しく覚える事が多くて、あっという間に時間が過ぎていった。主人も義母もあまり賛成ではなかったけど兄の手伝いなので仕方なく目をつぶっていたんだろうな。

ここで私の短所が出る。

一つのことをすると周りが見えなくなってしまう猪突猛進のところ。

仕事で帰りがだんだん遅くなり、4月からは子供達を保育園に入れて本格的に働きたくなっていました。

主人に相談すると、反対されました。

またイライラする毎日。

私の給料の中から義父母に毎月5万円渡していた。

嫁がいなくて遠慮なく孫と過ごせてお金がもらえる環境を作った。

1年かけて少しずつ義父母を味方につけた。

主人からも働く事に理解をもらって保育園に預け、お迎えは義父母に任せて買い物して帰る毎日を過ごしていた。

私が仕事から帰ると喜ぶ子供達に義母は

「仕事ばっかりのママのどこがいいの?」

と、聞いていた。

「ママだから」

意地悪な質問にも娘は笑顔でそう答えていた。

子供達は素直に育ってる。

娘が小学生になる時、勉強机をどこに置く問題が発生して結婚時に増築してもらった部屋を義両親と入れ替わり私たちが本宅に住むようになった。


娘が小学生になり義父母が家にいてくれるのがありがたかった。

おかげで帰宅後も寂しくなく過ごしていた。

やがて弟も小学生になり、子供達のことは義父母に任せっきりの生活になっていった。

帰宅後はご飯を作りながら宿題を一緒にやったりしっかりと子供達との時間をとっていた。

相変わらずパパの帰りは遅かった。

現金支給の会社だったので給料は封筒を開けずにそのまま全額渡してくれていた。

不満なのは残業手当がついてない会社に対してだった。

子供達が習い事を始めたので送り迎え等忙しい毎日になった。

パパと会う時間が少ないからか子供達は会える時間は仲良し親子していた。

パパと子供達達が仲良くしているのを見てる時間が1番幸せだった。

みんなが笑顔だった。

ある日、家の周りを迷子犬がウロウロしていた。おとなしいコリー犬だった。

呼んだら近づいて来た。首輪はついている。

紐でつないで子供達と近所を歩いてみた。

「この犬どこの犬か知りませんか」

みんな知らない。

「この犬は賢い犬よ〜」

犬種の事は有名なマンガのおかげで知っているようだ。

だが、

「自分の家がわからないのに?」

息子のするどいツッコミでその場が和む。

夜になって主人が帰宅しても飼い主が現れなかったので飼い主がみつかるまでウチ預かる事にした。

幸い次の日は休日だったのでパパも子供達も一緒に迷子犬の飼い主探しの散歩をした。

意外とみつからないし、

探してたよとの情報も得られない。

もう1日預かろう。

月曜日、仕事から帰ると迷子犬がいない。

どうやら噂を聞いて昼間に飼い主が迎えに来たらしい。

良かった、良かった。

ただ1人だけ納得のいってないのはパパだ。

義母が

どこのどなたかも聞いてなかったのでもう会えない。

そう言ってすねていた。

怒るわけではない。

すねているのだ。

子供だねー。

犬を飼いたい。

パパが子供達をけしかける。

子供達も欲しいと言う。

当然の流れだ。

私はペットを飼った事がない。

幸いな事に義母が反対している。

この話しは終わりだ。

日曜日、買い物に出かけた。

わざわざペットショップが隣接しているスーパーへ連れて行ってくれた。

完全に確信犯だろう。

当然、ペットショップへ入る。

そこにいた。

あの迷子犬と同じ犬種の犬だった。

シェットランドシープドッグ(シェルティ)

お店に図鑑が置いてあったので調べたら

そして毛並みがふわっとして賢そうな写真

小型犬で8kgほどに成長するようだ。

飼いたい。パパも子供達も必死に訴えてくる。

毎日散歩に行かないとダメだし、餌やりもしつけもしないとダメだしできるの?

ママはしないよ。

「できるぅ」

現金は持ち合わせていないし、クレジットカードも持っていなかったので一回家に帰る事に

なり、義母にも相談しないとね。

この家の中は義母が決定権を握っている。

絶対に反対するだろう。


しかし、息子のお願いの仕方が上手なのか、すんなりOKだった。

ただし、自分は犬の世話はしない。

孫達に

「世話ができる人〜」

「は〜い、できるぅ」

交渉成立。

だが、12万円もの大金を家には置いてない。

来週またお店に行ってまだ売れてなかったら飼う事にしよう。

最後の条件を出した。

とにかく私は反対だった。

子供達だけでは絶対に世話できないだろうし、パパの帰りも遅い。

犬の世話をする時間なんてないわ。

頼むから売れていてくれ〜

次の日曜日、ペットショップへ行くと

ゲージの、中にいない。

売れて、、、いなかった。

他のお客さんが抱っこしていた。

良かった、あの人が買うんだ。

私の気持ちとは反対に

パパと子供達が祈っている。

「戻して」

しばらくしてケージへ戻ってきた。

すかさず店員さんにパパが言う

「この犬ください」

喜ぶ子供達。

最後の条件をクリアした今、

反対ができる状況ではない。

早速、犬を迎えるための用品と《犬の飼い方、しつけ方》という本も一緒に買って帰った。

帰りの車の中では当然

犬の名前で盛り上がりながら家路についた。

到着後、パパがケージを作る前に早速おしっこをした。

なんと、パパが掃除をしている。

子供達のオムツ交換をした事ないのに

唖然、呆然、少しイラッとしたのを覚えている。

私が買い物の片付けをしている時だった。

「ねーねー、この子の名前 

ポッキーってどぉ?」

グリコのポッキーの箱を見せながら言った。

「いいねー、かわいい」

ようこそ我が家へ

シェットランドのポッキーちゃん(オス)


その日からちゃんと散歩に連れて行って餌やりもトイレシート交換もちゃんと子供達でやっていた。

子供でも忙しい方が時間に通りに行動するものだ

朝の散歩は出勤前にパパが行った。

しつけは私が担当していた。

すごくおりこうさんだった。

ほんとに人間の言葉や感情を理解しているようだった。

もちろん私もポッキーがかわいい。


だんだんと義母の干渉がはじまってくる。

「朝の散歩はもう少し暖かい時間になってから私が行くわ」

確かに朝6時からの散歩は寒だろう。

朝の散歩は義母が行くようになった。

夜、子供達の習い事のお迎えにポッキーを連れて行った。

歩いていて寒くても平気だった。

子供達との会話が弾む。


学校から帰ってくると義母が散歩に行っている。

「あんた達、夜は寒いから暖かい時間に行ってあげたよ」

そう言われた。

私は犬の世話しないって言ってたじゃないか。

そう思ったけど義母ともめたくない。

食事の支度をしながら考えた。

たとえ祖母が散歩に行ったと言っても、時間を作って散歩に行く事。

飼う前にした約束は守る事。

そんな話しをしながらごはんを食べた。

子供達も散歩へは行きたいらしい。

義母にお願いしてみた。

「散歩に行くのはペットを飼う約束だから子供達にさせてくださいね。

散歩に行くなら子供達と一緒に行ってやってください」

義母からの返事はなかった気がする。

空気が悪かったが、平気だった。

むしろ、教育に関して自信に満ちていた。

だが、この義母は一枚上手だった。

次の日も子供達が帰る前に散歩に行っていた。

しかも、子供達には口止めをしていた。

日曜日、パパも一緒に散歩している時だった。

息子がパパに言った。

「内緒だけど夕方の散歩はおばぁちゃんが行ってる。」

娘が言った。

「散歩に行ってないと言うとはおばぁちゃんとの約束が守れない。

散歩に行かないのはママとの約束が守れない。

でも言ったらおばぁちゃんとママがケンカになる」

衝撃を受けていた。

子供達にこんな事を感じさせていたのか。

パパが言った

「じゃぁ夕方の散歩も、おばぁちゃんに行ってもらおう。」

はぁぁぁぁ?

また、義母を頼るのか、、、

(ここで私がパパと、ケンカになれば子供達が傷つくかも)

口にも顔にも出さないがイライラする。

こいつマザコンかっ?

いやいや1人っ子だからか?

違う、これが誰も傷つかないベストな解決方法だ。

おばぁちゃんもポッキーがかわいいのね。

そう理解した。


人は1つ楽な道を覚えるとそれに慣れてしまって、時間があってもポッキーの散歩は義母に任せるようになっていた。


子供達の成長につれて習い事が増えてきて毎日送り迎えが大変になっていた。

あの時意地を張ってポッキーの散歩権を勝ち取っていたら私には1日26時間必要だったな。


もともと水道光熱費が無駄だからと洗濯物は義父母のと一緒にしていた。

干すのも、たたむのも義母がしてくれていた。

ポッキーの毛が気になるからと

掃除機もかけてくれていた。

本当にありがたかった。

感謝していた。

同居して良かった。

この義両親で良かった。

結婚してから家での唯一の家事は食事を作る事だ。

これだけは義母に譲らなかった。

仕事を始めててからは帰宅後15分で晩ごはんを仕上げた。

毎週一週間分のメニューを決めて買い物をして休日に下準備をしていた。

時短だけでなく無駄な食材もなくなり一石二鳥だった。

これって毎日記録していたらいつか、本が出版できるんじゃないか(にやっ)

でもその記録ができないのが作家になれる人となれない人の差なんだな。

やがて食事の時間が合わないのでと、義両親は自分達で食事の支度をして先に食べるようになった。

献立を考えるのが楽になった。

ありがとう。

子供達が習い事の中でも武道が上達してきて休日も練習に行くようになった。

私は足りない時間は義母を頼って

私の全ての時間を仕事と子供達に使っていた。

忙しい中でもちゃんとこなす毎日のタイムテーブルに酔っていたのだろうか。


同居でも義両親と仲良くやってる嫁の自分。


仕事も順調にこなして兄から頼りにされているOLの自分。


朝ごはんを食べさせて、

行ってきます。

ただいま。すぐにご飯作るね。

宿題も次の日の準備も子供達と一緒にやっていた。

忙しくても子供達との会話は欠かさず笑顔の絶えない家庭を守っているママの自分。


主人とは寝る前に今日の出来事を話して寝る。

ケンカはしない仲良し夫婦できてる妻の自分。


1人で何役もこなしていて理想の家庭だと何一つ困る事なく幸せに過ごしていた。


周りが全然見えていなかった。

ゆっくりとあの日が近づいてくる。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あの時からずっと疑ってます @pocky412

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る