第11話 降伏

「山県様、戻ったぞ」山県の耳元でルイの声が囁く 例の風魔法で声を飛ばしているのだろう


陣から飛び出て 浜松城の方角に目を凝らすと 二人の男がこちらに向かい歩いてくるのを見つける


ルイが片手を上げ 「徳川の大将を連れてきた」と風魔法で囁く


2人の姿が視認出来る距離 ルイは全身がまだ乾き切らない血でずぶ濡れであり


その横を歩く男は、紛れもなく徳川家康その人である




「ルイよ、誠に。。。」絶句する 山県昌景


騒ぎにならぬように、家来共を遠ざけ 陣の中に招き入れる


「久しいな、山県殿 馬場殿」急拵えの陣の中 対面する3者 


ルイは、早々にこの場を離れ 川へ身体を洗いに行った


「お久しぶりですな 徳川殿 これはいったい 何があったのでしょう?」


「城内500余名、すべての兵があのルイなる者に殺され申した。。。武田は、鬼の子を飼っておいでか?」


「そ それは、誠ですか? ものの30分で。。。」うまく言葉が出て来ない


「山県よ、陰陽師ってのは、化け物なのか??」驚きに目を丸くする馬場信春


「徳川殿、ルイが戦っている様を見たのですか?」未だ信じきれない山県 


城内で騒ぎを起こし 時間稼ぎを期待していたのに まさか本当に殲滅するとは。。。


「見た。。。見たが話しとうない 話しても誰も信じぬだろう。。。


 山県殿 わしは信玄公に降伏する わしの命は要らぬが、三方ヶ原から戻るであろう者たちは


 投降させるので、助けては貰えぬだろうか?」


「お館様は、まもなくこちらに到着されるとの事 その前に大久保康隆殿の軍800が


 まもなくあちらの方角より見えて来ると思います」三方ヶ原の方向を見つめる




待つこと数十分 陽も落ちかけた頃、大久保軍が200メートルほど離れた平地で歩みを止める


「大久保様 武田の伝令がこれを」一通の手紙を渡される


「ふむ」文面に目を落とすと、大久保康隆の顔がみるみる表情を変える 悲哀と憤怒 憐憫と非情


様々な感情に葛藤され肩を大きく震わせる 膝にも力が入らないのか その場に座り込む


「この花押は、間違いなく我が殿のもの 紙と筆を持て それと伝令の用意を」従者に命ずる


『嘆かわしや。。。殿 必ずやお助けいたします』


その文面とは‹武田に降伏する 武装を解除し投降せよ› という簡素なものであった


それに対し、大久保は、殿の無事を確認し 今後も無事が約束されるのであれば条件に従う旨の返信を伝令に託す




武田陣営に篝火が灯り始める こちらに向かい3頭の馬に50名ほどの兵が続く


先頭の2頭に騎乗するのは、幾度か見かけた事のある 武田の重臣 山県昌景と馬場信春である 


その後ろには、拘束される事も無く 半裸の男に手綱を引かせた我が主の姿を確認する


「殿!! ご無事で!!」安堵と屈辱に顔をくしゃくしゃにして頭を垂れる


「大久保よ、よくぞ無事に戻られたな 皆もよく聞け!!」ひときわ声高に


「此度の合戦 徳川の完敗である 武田に降伏する! 信玄公には、皆の命を保証して貰うつもりじゃ


 刀を捨てよ」最後の矜持なのか、凛として声を張り上げる家康


「この山県昌景が、我が殿にその方らの命を保証するよう説得する所存じゃ その場に武器を捨て


 しばし休まれよ」誰もが人格者である事を知る 山県昌景の言葉は、ある種の安心感を徳川の兵にも与える


率いてきた兵に武器を回収させ 武田信玄が到着するまで、その場で待つように伝え 少数の見張りだけを残し


陣へと引き返す 




「我ら武田の勝利じゃ!!!」陣に戻るなり 高々と槍を振り上げ 馬場信春が叫ぶ


うおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!! 地響きにも似た歓声が、平地にも関わらず木霊する




そのしばらく後 保科正俊率いる援軍1000名が合流し共に喜びを分かち合い


飯の支度に取り掛かる




「ところでルイよ 城内は、どのような状況だ?」山県が声をひそめて聞いてくる


「う〜ん 地の海だな。。。」当然といった顔で返事をするルイ


「片付けに行かせるのは、飯の前がいいか。。。後がいいか。。。?」


前だと食欲が無くなりそうだし、後だと吐くな




結局 食後に自分の隊200名に城内の片付けを命じる 




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