第10話 落城
天守曲輪の障子に手を掛けようとした瞬間
障子を破り、巨大な槍の穂先がルイの顔面に迫る
縮地術で中庭まで飛び下がる と同時に破けた障子に“指弾”で小石を飛ばす
わずかな沈黙の後、障子が静かに開いていく
「お主、物の怪か?」身の丈の3倍はあろうかという槍を持つ 黒い甲冑に身を包んだ男が問いかける
「また物の怪か。。。俺は、その物の怪を退治するのが仕事なんだがな 陰陽師と言うらしい」
風林火山の軍旗を襷掛けにし、人に親しみを感じさせる笑顔を浮かべる男の立つ中庭には
100人を超える徳川の精鋭が血の海の中に沈んでいる
比喩では無く、まさしく血の海 五体が満足な遺体など1つもない 手が足が頭が、あちらこちらに転がっている
『これが血の池地獄というものか、そして此奴が地獄の番人?
鬼神か? おそらくは、勝てぬであろうな』
「我が名は本多忠勝 お主の名は?」
「ルイだ」
「陰陽師のルイか。。。お主は、強いな 出来るなら違う場所で会いたかった。。。では参る!」
縁側から一足飛びにルイへと向かい、名槍“蜻蛉切り”を扱く 正確に喉元に穂先が迫る
『驚いた 早く鋭い! この長く重い槍をこれほど軽々と』
迫る“蜻蛉切り”を十文字槍の胴金で弾いて軌道を変える
「お前も強いな! 驚いた 俺も違う場所で会いたかったよ。。。ごめんな時間が無いんだ」
山県の軍に敵軍が迫っている 出来るなら術を使わずに、この男と戦ってみたかった
突く! 突く! 突く! 突く!
忠勝の必死の攻めを後ろに下がりながらいなす
十分に距離が開いた事を確認すると
土魔法と縮地術を使い、本多忠勝の足元まで地中を潜り進む
一瞬にして目の前からルイが消える その刹那 足元から十文字槍の穂先が下腹を目掛け襲いかかる
半歩身体を引きながら “蜻蛉切り“をルイが居るだろう地面に突き刺す へその下から熱い血が流れ落ちる
「陰陽師なものか、やはり物の怪だ」十文字槍のケラ首を両手で握り 倒れることを拒む
「お前は本当に凄いな 見ろよ」ルイの頬に一筋の血が流れていた
しかし男の見開いた目からは、すでに光が消えていた
「お前の首級は取れないな なぁ本多忠勝」
「わしが徳川家康じゃ」縁側に目をやると 4人の従者を従えた白い着物を着た男が立っている
「俺はルイという 刀を捨てるなら殺さずに山県様の所まで連れて行く」
「刀など有っても無くても変わらんな お前たちも刀を捨てよ」4人の従者も刀を捨てる
「ルイとやら 忠勝に別れを言いたいのじゃが良いか?」
地の海と化した中庭を裸足のまま歩いてくる
「忠勝よ 見ておったぞ見事な最後であった あの世で鬼を相手に鍛錬するがよい」
忠勝のまぶたをそっと閉じてやる
「ルイ殿 忠勝の遺髪を頼めるか?」家康が忠勝の髪を握り ルイに視線で促す
風の刃を飛ばし、適当な所で髪を切る
家康が驚いたようにルイを見るが、何も言わずに門に向かい歩きだす
「なにか履いたほうが良いぞ? 裸足では危ない」従者に履き物を持ってこさせる
「この者らは、助けてくれるのか?」
「女子供、武器を持たないものは殺さないぞ」家康の口から、安堵のため息が漏れる
「夢でも見ているようじゃ お主が1人居れば城を落とせるという事かハッハッハ」泣き笑う家康
「山県様との約束の時間だ 急ぐぞ」そう言うと家康を担ぎ 大手門までの最短距離を疾走る
「どうやら間に合ったようだな」城下まで出て家康を降ろす
「あっちの方角から、お前の兵が来る 止めたほうがいいぞ」
「わしを山県殿の陣まで連れて行ってくれ これ以上の犬死にを見たくないのでな」
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