第8話 安倍家
私は安倍家に来ていた。
そこは都内にある和風の豪邸。
屋敷内には大きな池があり、色鮮やかな鯉が泳ぐ。隣接した広場は駐車場で、20台以上は駐車できるだろうか。
もうこれだけでその規模のデカさが想像できるだろう。
孤児院から引き取られた私は、この屋敷で2年間住んだ。
帰ってくるのは1年ぶり。ここから世代々木アニメーター学院に通ってたんだよね。
車での送迎だったからな。中々にセレブだよね。
陰陽師の家系は自分で恵方が読めるのでどうしてもお金持ちになってしまうのだ。
まぁ、私は勉強をしていないので解呪しかできないけどね。
玄関に入ると使用人たちがワラワラと集まる。
「ああ、お嬢様。お帰りなさいませ! お久しぶりでございます!!」
「おお、お嬢様。お元気でしたか?」
「お嬢様! お久しぶりです!」
「お嬢様!」
「あは! お嬢様だ!! みんなお嬢様が帰られたわよ!!」
あはは……。そんな呼ばなくてもいいって。料理長まで来てるじゃん。
「お嬢様がいなくなって随分と寂しくなってしまいましたよ」
このデカい屋敷に住むのは当主である義兄。
あとは連日訪れる関係者。政治家やモデル、芸能人と多岐に渡る。
使用人は客を持て成すのに必要なのだ。
慕われてはいるが明るくはない。
そんな中に私が養女になったので、屋敷内はまぁまぁ明るくなったというわけだ。
私はオタクだが、飾らない性格なので、周囲には明るく見えるらしい。
年の近い使用人なんかは今季の新作アニメの話題で盛り上がってしまうほどである。もう友達に近い。
「みんな元気だった? 私はこのとおり元気だかんね」
使用人たちは大層喜んでくれた。
「よく来てくれた」
……一応、この前のお礼を言っておこうか。
「この前はちょっと飲み過ぎてしまいました。部屋まで送ってくれてありがとうございます」
「ああ。別に構わない」
と私を見つめて、
「部屋はもう少し片付けた方がいいと思うぞ」
「……は、はぁい」
うう、飛びてぇ。
「さっそくだが、これを見てもらいたい」
そう言って取り出したのが大きな写真だった。
「藤原家の男だ」
見合いの話か。
目の鋭い人だな。イケメンといえばそうなのかもしれないが、なんだか暗い感じだ。
「安倍家は俺が跡を継ぐからな。おまえには安倍家から藤原家に嫁いで欲しいんだ」
藤原家は代々続く陰陽師の家系である。
安倍家は藤原家と繋がって陰陽師の家系を強くしようとしているのだ。
これって……。
「婚約でしょうか?」
「……まぁ、そうなってしまうな」
うわぁ……。自分が婚約するとは思わなかったよ。2次元が恋人なのにさ。
「……べ、別にお前が嫌なら別に流してもいいんだ」
「え? それでは
「う、うむ。まぁな……。しかし、おまえの人生でもあるしな」
婚約の推奨は
安倍家の周囲にいる親族の薦めだ。
「お前だっていい年だ。結婚くらいしたいだろう?」
「はぁ? 2次元が恋人って言ってるじゃないですか」
「それは詭弁だろう」
なんで嘘をつく必要があるんだよ。
待てよ?
「これって、もしかして私のことを思って持ってきてくれた話なのですか?」
彼は頬を染めた。
「……俺だって、少しは義兄らしいことをしたいと思っているんだ」
つまり、義妹の幸せを考えて……。
「藤原家は家柄が良いからな。決して悪い縁談じゃないさ」
意外だったな。
まぁ、私は養女だしな。断れる筋はない。
「とりあえず、顔合わせくらいはしましょうか」
「ありがとう」
「いえいえ」
「それとな」
彼は1冊の本を出した。
「なんです?」
本の表紙には可愛い萌え絵。
『誰でもわかる陰陽道』
ははは。
「この前、お前が言っていただろ? わかりやすい本にしたらいいってさ」
ああ!
「早速作ったんですか?」
「うん」
仕事が早い!
ペラペラとめくって読んでみる。
可愛い漫画絵の陰陽師が語る。
「陰陽道とは影の部分を生業とした仕事のこと。なので、陰陽師とは別に本業を持っているんだ」
あは。
「わかりやすいですね」
「早速、陰陽師会で配布したんだがな。思いの他、大盛況だった」
「それは良かったです」
「アイデア料として、お前の口座には30万円振り込ませてもらったからな」
「え? 貰いすぎでは?」
「それくらいは当然さ」
……思わぬ大金が入ったな。
丁度、コミケが近いしな。グフフ。
「……少しは良い服とか買ったらどうだ? ブランド物とか?」
「服は大丈夫です! 庶民の味方、ヨニクロとシマムーラがありますので!」
「やれやれ」
ふふふ。それより同人誌とゲームじゃあ!
「今日は泊まっていくんだろ?」
「ええ。
「俺にそんな気は使うなよ。この家にはお前の部屋だってまだあるんだからな。それに使用人たちがお前の帰りに大騒ぎしてるんだ。相手をしてやってくれ」
「ははは。たかが2年くらいの付き合いなんですけどね。みんな私のことをよく覚えてくれてるよね」
「お前には人を惹きつける不思議な魅力があるんだ」
「ないない」
オタなんだからあるわけないじゃん。
「お前は、本当に不思議なやつだよ」
「
「褒めているんだ」
「ははは。ならいいですけど」
後日。
私は見合いをすることになった。
そうして訪れたのが藤原家である。
そこは安倍家にも引いて劣らぬ豪邸だった。
腐女子は天才陰陽師〜私は呪いを解くよりもBL乙女ゲーをプレイしたいんだ。ハイスペックイケメンに溺愛されても2次元が好きだから遠慮します〜 神伊 咲児 @hukudahappy
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