紫の菫と緑の風
たぬきち
紫の菫と緑の風
ワタシの名前は
「ねえ」
ワタシの呼びかけに振り返りワタシに気がつくと柔らかい笑顔を向け手を振ってくる。
この笑顔が似合う青年は
「あ、村咲さんこんにちはどうしたの?」
水鳥くんは可愛らしい笑顔でワタシに聞いてくる。
「ええ、ちょっとアナタに言いたいことがあって」
「なにかな?」
ワタシの言葉を聞くと首を傾げながらいう。
「この前相談に乗ってくれたことなんだけど…」
言葉を詰まらすワタシをみて水鳥くんはなにかを察して口を開く。
「この前ってもしかして森山先輩のことかな?」
「ええ、そうよ」
「もしかしてなにかあったのかな?」
水鳥くんは優しく話を誘導してくれたのでワタシはゆっくりと言葉を繋げていく。
「そうね…アナタのおかげで…その…デートに誘うことが出来たわ」
「ほんと!すごいよ!よかったね!」
ワタシの言葉を聞くと水鳥くんはまるで自分のことかの様に喜ぶ。それをみたワタシもなんだか嬉しくなる。そして、水鳥くんに探していた理由をいう。
「だから、そのお礼を言いにきたのよ」
「お礼なんていいよ、がんばったのは村咲さんだし、それにぼくなんかの意見が役にたってよかったよ」
ワタシは水鳥くんの発言が引っ掛かった。彼は本当に心から喜んでくれている。だけど、なんだか少しモヤっとした。
「…ねえ、ワタシはアナタだから相談したのよ」
「え?」
ワタシの言葉に水鳥くんはきょとんとする。
「誰でもいいって訳じゃないのよ、周りをよくみてるアナタなら一番まともに話を聞いてくれると思ったから相談したのよ」
「ぼくに?」
ワタシの言葉の意味が分からないのか彼は首を傾げたまま不思議そうな顔をする。
「アナタの悪い癖よ、自分のことを低く見過ぎなのよ」
「そうかな?ぼくなんか特になにが優れてるって訳じゃないし…」
彼はまたワタシの気になっている言葉を口にする。我慢できなくなったワタシは考えるよりも先に口を開いていた。
「言った側から言ってるじゃない、『ぼくなんか』ってのをやめなさい、アナタはアナタが思ってる以上に人として優れてるわよ」
つい口走ってしまったワタシはハッとなった。しかし、水鳥くんは少し驚いた顔をしたけど、すぐになにか考える仕草をする。そして柔らかい笑顔を向けながら嬉しそうな顔をする。
「…そう言ってもらえるとうれしいよ」
「分かればいいのよ」
彼の笑顔をみたワタシは何故だか恥ずかしくなって彼から目を反らし髪を掻き分けながらいう。
「それにありがとう村咲さん」
「え?」
突然お礼を云われたワタシは驚いて彼をみると真っ直ぐな目をこちらに向けて優しく笑っていた。
「ぼくのことを見てくれてたんだね」
「ち、違うわよ…アナタのそのナヨナヨしてるところを見てるとなんだかモヤモヤするから言っただけよ」
純粋に嬉しそうにいう彼にワタシはさらに恥ずかしくなって慌てて訂正する。
「それでもありがとう、なんだか元気が出たよ!多分、100倍ぐらい!」
「それは出過ぎよ」
右腕を曲げて二の腕に左手を乗せて元気ボーズを取る彼にワタシはクスリと笑いながら返す。
「じゃあ、10倍?」
「まあ、そのぐらいでいいわ。そうね、今度お礼にジュースでも奢るわ」
「ありがとう!じゃあ、ぼくはジュースを2本奢るね」
「それじゃ意味がないわよ」
水鳥くんと廊下を歩きながらいつも通りのなんの変哲もない日常会話をしながら教室へと向かう。ワタシは彼の横を歩きながらこの関係が続けばいいなと心から思った。
紫の菫と緑の風 完
紫の菫と緑の風 たぬきち @tanukitikaramemo
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