3人組vs3人組 4
「小さいだけじゃなくて華奢なんだよな。可愛い」
「襟元のフリルのせいかな。スカートが見えなくても女の子だ」
「……サクラちゃんも凄いけどな」
ハイブランドスーツを着こなす
「景都の母ちゃんの若い頃、こんな感じだったんだろうな」
「僕もそう思った」
景都も開き直って、楽しげにスカートをひらひらさせている。
その小さな胸など触ってみている
「あんまり触るとへこんじゃうよ。カップ付きのキャミソールを着てるだけだから」
と、同じく女装姿の
「お前のも?」
「俺のは女装用。インナーショップで母さんに作らされた。コルセットで女子体形に引き締めつつ、表面は柔らかい素材なんだよ」
貰い物の高級菓子をトレーに並べて、咲哉はテーブルに即席のお茶会を用意している。
山口も手伝いながら、
「男の子に女の子の恰好をさせてると、丈夫に育つみたいなやつか?」
と、聞いた。
「それも聞いた事あるけど、母さんは買い物に連れ回すなら女の子が良いってのが本音だよ。ちゃんと女の子らしくしてやらないと拗ねるし」
「いい息子だなぁ」
「親から離れて、ひとりで日本に住んでるのにか?」
と、咲哉は笑った。「よし、こんなもんだろ。流石、カメラマン頼むな」
「了解」
OKサインを見せ、流石は三脚にセットした一眼レフカメラを覗いた。
家具もティーセットも高級品。背景には上品なカーテンや、手入れの行き届いた庭の見える窓も写っている。
写真の中央では、隣合って座る山口と景子ちゃんがカラフルなマカロンを摘まんでいる。両隣では長門と周防もティーカップを片手に、楽しげに談笑している様子だ。
その隅には、サクラちゃんの後姿もピンボケで写っている。
上流家庭の子どもたちの、楽しいティータイムの一コマだ。
「凄いな。写真一枚で本当にどうにかなったよ」
スマホに転送した写真を眺めながら、山口が言った。
婚約を迫って来たどこぞの社長に、写真を添えてお断りの手紙を送った。すぐに、そういう事ならこの話は無かった事に、という返事が帰ってきたそうだ。
数日後の放課後。
節電設定のエアコンが切れた教室で、山口は話の顛末を報告していた。
景都はホッとした笑顔で、
「よかったねぇ」
と、答えた。
流石は景都のふわふわな髪を撫でながら、
「
と、聞いた。京香は景都の妹だ。
「うん。爆笑されたけど、なんか色々ふっきれるって言ってた。今度、流石もやろうよ」
「女装? 俺は無理があるだろう」
と、笑う流石の横から咲哉が、
「そうかな。
と、流石の前髪などいじってみながら言った。
「それ、母ちゃんに言ったら喜びそうだな」
「言ってあげれば良いじゃん。僕のお母さんも、私の若い頃にそっくりって言ってた」
そう言って景都は、山口のスマホを覗き込んだ。「それと、気付いたんだけどさ」
「ん?」
「柏山御三家の3人、眼鏡がおんなじだね」
実物の3人の顔も見比べて、景都が言う。
「あ、本当だ」
インテリ風眼鏡の3人を眺めて、流石も言った。
長門が笑って眼鏡を外して見せながら、
「同じ年に息子が生まれたからさ。やっぱり比べられるし、母さんたちはどうでもいい事を気にするようになるし」
と、言った。周防も頷きながら、
「いっその事そっくりになれば、俺らを見分けられない程度の奴は黙るだろ。先に目が悪くなってた山口が下見に行って、3人別々に、偶然同じ眼鏡を買ってもらった事にしたんだよ」
と、話した。「長門なんか今は伊達眼鏡だし」
「えっ、そうなの?」
「子どもの頃は微妙に遠視だったんだけどさ。だんだん良くなったんだよ。山育ちだからかな」
と、長門は窓から遠くを眺めて言った。
「いいなぁ。俺は近眼が進んでる」
と、言って、咲哉も窓の外を眺めた。
野球部にサッカー部、陸上部も校庭を分割して練習しているのが見える。
「咲哉はコンタクト、ダイレクトインしてるよ」
と、景都が言う。
「そろそろ新しい眼鏡も作りたいんだよな。今度、いい眼鏡屋を教えてくれ」
咲哉が言うと、御三家の3人は揃って頷いた。
今回は『不思議』が出てこない?
いや。また後日、妙な事実が発覚したのだ。
スマホのニュースサイトを見せながら、山口が、
「お前らの女装写真を送った相手がいただろ」
と、切り出した。
「不動産系の社長だっけ」
「個人資産家を狙った婚約詐欺だったらしい」
「えー?」
流石、景都、咲哉の3人は目を丸くした。
放課後の教室。本日は曇り空だ。
「うちの他にも個人資産家の息子に婚約を持ちかけてて、相手の資産を勝手に自分の会社の売上かのように
「詐欺にしては、お粗末だな」
と、咲哉は溜息をつく。
周防も頷いて、
「婚約させようとしてた娘って社長の後妻の連れ子で、もう二十歳超えてるんだってさ」
と、話した。
「マジか」
「後妻の死んだ元旦那が自分を呪って、会社を経営不振に陥らせたとか喚いてるんだよ」
スマホニュースを眺めながら、山口も肩を落として見せる。
「自分が無能だったせいだろ。死者を使って責任転嫁か」
流石も眉を寄せて言った。
「しかも、その娘の承諾なしにやってたらしい。最近流行りの、貴族だの悪女だの婚約破棄だのっていうフィクションに感化されたとも言ってる。アクションゲームを暴力事件の言い訳にするのと、同じような事かも知れないな」
「後妻と娘が社長の財産を奪うために、婚約詐欺をそそのかしたってのも考えられるかな」
「どうかな。個人資産家を狙うようになる前、経営が悪化し始めた頃から、後妻の元旦那の呪いだとかは言ってたらしいよ」
御三家の3人も、話しながら首を傾げていた。
締め切った窓の外からも、運動部の掛け声が聞こえてくる。
「本当に呪われてたのかな」
首を傾げる景都に、咲哉が、
「呪いってのは、言い訳に使えるほど軽いもんじゃないと思うよ」
と、答えた。流石も、
「呪われるとしたら、これからかな。無能と犯罪を死者のせいにしやがってって、元旦那とやらが怒りだしてさ」
と、言っている。
咲哉も自分のスマホを眺めた。
可愛らしいワンピース姿の景都が写っている。
「金持ちのガキがこれだけ揃ってれば、誰かしら顧問弁護士にでも相談しそうだろ。下心がバレる前に手を引こうとか考えてくれると思ったけど。それよりお粗末な結果だったみたいだな」
もう一度溜息をつき、咲哉はスマホをポケットにしまった。
「なんか、変な事に付き合わせちゃったな」
山口もスマホをしまい、3人組に言った。
景都が首を振り、
「僕は楽しかったよ。僕にお化粧してる時の咲哉も、めっちゃ良い顔してたし」
と、答えた。
「そうだったか?」
と、咲哉も薄く笑みを見せる。
「山口の家も、変な事にならなくて良かったな」
と、流石が言い、御三家の3人も揃って頷いた。
幽霊、呪い。今回は偽物だったらしい。
もし本物だとしても、ただの言い訳と間違えないよう、見極められるようになりたいと子どもたちは頷き合うのだった。
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