3人組vs3人組 3


 富山景都とやま けいとは、誰が見ても『可愛い』と表現したくなる男の子だ。

 小柄な体格に少々幼い言動。パッチリとした目に、ふわふわな髪。

 誰とでも手を繋いだり抱きついたりできる、人懐っこさも持ち合わせている。

 景都が女の子の恰好をすれば、それはそれは可愛らしくなるだろう。



 景都に女装をさせるため、6人で咲哉さくやの家にやって来たところだ。

 柏山かしわやま御三家の3人も小金持ちだが、栃木とちぎ家の豪邸に驚いたのは言うまでもなく。

 とりあえず、大きなソファの並ぶリビングでひと休みだ。

 咲哉の家にも慣れた流石さすがが、6人分の紅茶を淹れた。

 テーブルにカップを並べながら、流石は、

「山口を不細工に特殊メイクして、相手にドン引かせるってのは?」

 と、聞いてみた。

「俺の写真は、相手に要求されて親が勝手に渡した」

 と、山口はカップを受け取りながら答えた。

 山口と並んでソファに座る周防すおうも、

「娘の写真は後日届けるとか言っといて『娘の写真はまだか』とでも言われるのを待ってるのかな。その気が無いなら不要なものだ。優柔不断な先伸ばしのために娘の写真を取り合えず見てからなんて考えてても、写真を見たいってのは、その気があるんだろうって事になってさ」

 と、話す。

 広いリビングに目を丸くしていた長門ながとも、

「写真を見てから嫌とも言わせないだろうな」

 と、話に加わった。

「言えないだろうなぁ」

 カップを口へ運び、山口は溜息をついた。

 景都も紅茶をひと口飲み、

「僕の女装で、なんとかなるの?」

 と、聞いた。

「別に美少女バトルって訳じゃないからさ。好きな子が居るっていう証拠写真を付ければ、言葉だけより確実なお断りができるんじゃないかな」

 2階のエアコンもつけてきた咲哉が、リビングに戻って来た。

「どこの社長だって?」

「きさらぎコーポレーション」

 すぐに咲哉はスマホで検索する。

「……あー、はいはい」

「一応、黒字のグループみたいだけど」

 咲哉は、ポポポッとスマホをタップしながら、

「いや、ギリギリだな。グループはまともだけど、その社長はお飾りだ。元々、先代社長とは血縁でもなく仲良し役職の副社長だったらしい。先代の急病で社長職に棚から牡丹餅ぼたもちしたものの、社内では本人の無能が露呈してる。今年中に功績を出さない限り、業績悪化の責任で社長から下ろすって、グループの上の方から言われてるみたいだ」

 と、話した。

「……どこで調べてるんだ、そんなの」

 スマホを覗こうとする山口から手元を遠ざけ、

「秘密」

 と、咲哉は薄い笑みを浮かべた。

 難しい話がよく分からなかった景都は、

「でも、どうしたら良いんだろう」

 と、首を傾げる。

 咲哉はスマホをポケットにしまい、

「景都の女装でいいと思うよ。景子けいこちゃんだな」

 と、答えた。景都は自分を指差し、

「景子ちゃん?」

 と、聞き返す。

「名付けて『うちはこちら側ですが、なにか?』作戦だ」

 薄い笑みを浮かべたまま、咲哉が言う。

 御三家の3人も、揃って首を傾げた。

「こちら側?」

「御三家の3人と景子ちゃんのティータイムって設定でどうだ? みんな数十万のスーツとワンピースでも着てれば、婚約なんかお門違いって伝わるだろ」

 相変わらず、咲哉はサラリと言う。

「数十万のスーツっ?」

「ちょうど今、母さんがイタリアに居てさ。変なスイッチが入ってて、日本円で百万超えてそうな服なんかも土産に買って来るんだよ。母さんの趣味だけど、俺サイズのスーツ貸してやるから」

「ガチセレブって実在したのか……」

 と、長門が呟いた。

「流石。プロジェクタールームのクローゼットに、大きめのカメラバッグがあるから持って来てくれるか。食器棚の一番上にあるティーセットも、南側の洋間に持って行っておいてくれ」

「OK」

 頷いた流石は、すぐにリビングを飛び出して行った。

 当の山口と景都は、目をパチパチさせながら顔を見合わせる。

「咲哉も変なスイッチ入ってるかも。お母さんにそっくりだし」

 と、景都は山口に言った。

「マジか……適当にスマホでツーショットとか考えてたんだけどな」

「僕も、ちょっと楽しくなってきたよ」

「そうか? それなら、こっちも気が楽だけど」

 にっこり笑顔を見せる景都の髪を、山口は優しく撫でた。


「服の部屋、こっち」

 と、咲哉は御三家の3人と景都を2階に呼んだ。

「わー、クローゼットルームは入るの初めて!」

 楽しげに景都は、トコトコと部屋の奥に入って行く。

 不織布に包まれてハンガーに掛けられていたり、箱に入れられていたり。部屋の奥では型崩れ防止のためか、マネキンが着ているドレスもある。

 大きな姿見鏡や、北欧風のタンスも並んでいた。

「この辺りが俺のサイズのやつ。着る機会が無い内にデカくなっちゃうかと思ってたから丁度良かった。この辺の、まだ俺にはサイズ大きいから、3人に丁度いいんじゃないかな」

 と、咲哉は話すが、御三家の3人は呆然と見回すばかりだ。

「……これ、素手で触って良いやつ?」

 と、長門が呟く。

 咲哉は適当に素手でスーツを取り出しながら、

「山口はこの辺のブリオーニとかどうだ? 長門がわかりやすいアルマーニとか。周防はこっちのオーダーメイドのやつとか、ちょっと癖があるのとか似合うんじゃないか?」

 と、言っている。

「おー、良い趣味だな」

「ぜんぶ母さんの趣味だよ。あとはその辺の小物、適当に合わせてみてくれ。俺は景都に可愛いの着せて来るから」

 と、咲哉は景都と手をつなぐ。

「僕のはここじゃないの?」

「景子ちゃんの服は、サクラちゃんの部屋にあるよ」

 と、咲哉は言った。



 一階、南側の洋間。

 お茶会もできる、大きなテーブルの置かれた一室だ。

 カーテンや家具も高級感があり、窓の外にはイングリッシュガーデンが広がっている。

 日の長い7月の放課後。

 庭には、まだ夕日の色も見えていない。

 流石は窓の外に庭の緑も見える角度で、カメラの三脚を立てた。

 その窓ガラスを鏡代わりに見詰めながら、スーツ姿の長門は、

「肩回り、ちょっと窮屈なんだけどさ。布が伸びちゃったりしないかな」

 と、軽く腕を動かしている。

「伸びるような素材じゃないだろ」

 と、周防が笑う。

「咲哉はデカくなっても、肩幅とか厚みがつく事を想定されてないんだろうな」

 などと流石が言っていると、洋間に足音が近付き、扉がゆっくりと開いた。

「景子ちゃんのご用意できましたよ」

 女装した景都と、同じく女装した咲哉が顔を見せた。

 景都はパステルイエローの、ふんわりとしたワンピース姿だ。ふわふわな髪はそのままに、前髪の横にワンピースと同じ色の花がついたヘアピンを止めている。

 そして咲哉は、サラリと長い黒髪のウィッグに、上品な薄茶色のブラウスと焦げ茶のスカートを身に着けている。

 ふたりとも、薄っすらとメイクまでしているではないか。

 ハイブランドスーツを着こなす3人も、あんぐりと口を開けた。

「……栃木?」

「富山はイメージ通りだけど……」

 流石も眺めながら、

「相変わらず似合うな」

 と、声を掛けた。女の子の恰好にされた景都も、

「サクラちゃんだけ居れば良いんじゃない?」

 と、咲哉を見上げている。

「俺は顔出しNGだから。一緒に写ってる写真が欲しくて、ティータイムに隠し撮りしてもらったって設定で良いだろ?」

 軽く笑い、咲哉は景都をテーブルに促した。

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