3人組vs3人組 2


 翌日。数学の学力テストが返された。

 咲哉さくやは100点、山口は計算ミスがあり98点だった。咲哉の勝ちだ。

 流石さすが長門ながとの腕相撲勝負は長門の勝ち。景都けいと周防すおうのお絵描き勝負では景都が勝っている。

 景都に女装をさせたいと言う、山口の仕掛けた三本勝負。

 仲良し3人組の勝利となった。


 放課後、山口は窓際の席で項垂れていた。

「あー、負けたなぁ……」

 帰り支度を済ませた流石は、景都と咲哉の袖を引いて窓際へやって来た。

「訳を聞かせろよ」

 山口の席の横で周防が、

「俺らは柏山かしわやま御三家ごさんけなんて呼ばれてるけど、山口の家は資産家でさ」

 と、答えた。

 思い出したように流石は、

「そういや、不思議屋で聞いたな。柏山御三家って、山持ちの金持ちだったのか」

 と、聞いた。首を横に振って山口は、

「長門の家はマタギの棟梁で、周防の家は陶芸の窯元だから潤ってはいるよ。でも、うちは古いだけの旧家って奴で、昔は借金もあったくらいでさ。中央区に持ってた二束三文だった土地が、合併都市開発のおかげで資産価値が上がって、なんとか持ち直してはいるけど」

 と、話した。「不動産系の社長令嬢を、婚約相手に押し付けられそうでさ。好きな女の子がいるって言って断わりたいんだ」

 流石と景都は目を丸くした。

「そんな話って、本当にあるんだなぁ」

「婚約? 玉の輿狙いで近付かれてるのか」

 顔をしかめて、咲哉が言う。

「うちの親が、きっぱり断ってれば済む話だったんだ」

 と、山口は溜息を吐き出した。

「山口のご両親は、ちょっと気弱な人たちだから」

 と、長門も肩を落として言っている。

「優柔不断な世間知らずだよ。爺さんの代で持ち直したけど、親父の代でまた揺らいでる」

 もう一度溜息をつき、山口が言う。

「下手に断ったら、まずい間柄だったりするのか?」

 と、咲哉は聞いてみる。

「いや。知り合いの知り合い。紹介された覚えはないらしいけど、相手は初対面じゃなさそうな感じで、親父は自分が忘れてるだけかも知れないとか言ってる」

「ちょっと怪しいよな」

 と、長門と周防は苦笑いだ。


 天井からスーッという音が聞こえ、一斉管理された教室の空調が切れた。

 公立中学だがエアコン完備なのは、新しい学校の利点だ。しかし涼しい時間も終了する。

 すでにクラスメイトたちは下校し、教室に残るのは仲良し3人組と柏山御三家の3人だけだった。

「遠回しに断るつもりで母さんが、息子は好きな子が居るみたいでーとか言ったらしい。そうしたら『じゃあ、その相手を連れて来い。うちの娘が引けを取るか判断してやる』とか言って来たって」

 そう言って山口は不機嫌そうに眉を寄せると、また溜息をついた。

「何様な感じだなぁ」

 と、流石が言い、長門と周防が頷いて見せる。

「俺が『なんで判断されなきゃならないって言い返せないんだ』って聞いたら『それが言えるから、あなたは跡取りとして期待されているのよ』とか言われてさ。言い返す気も失せるだろ」

 と、肩を落とす山口に続けて、長門が、

「まだ早いって言えば、許婚いいなずけってのはそういうものだとかさ。すっかり相手のペースに乗せられちゃってるみたいなんだ」

 と、話した。周防も苦笑しながら、

「とりあえず息子に聞いてみるって事で、話を切り上げたらしい。だから相手は、息子がうんと言えば山口家側はOKですよって意味で受け取ってるみたいだ」

 と、付け加えた。

「今時、許婚か。その娘とやらも資産家夫人になる気満々なのかな」

「会った事もないよ。写真も寄こさないから見た事すらない。だから早くお会いしましょうってのも困るからさ。謎の美少女の写真を送って、僕たち付き合ってますみたいな? ハッキリ、許婚なんて気は無い事を伝えようと思って」

 山口は、景都を眺めながら言った。

 流石も景都の頭を撫でながら、

「でもよぉ。親にも立場とかあるから突っぱねにくいんじゃねぇの? 景都を女装させても解決しないんじゃね?」

 と、聞いた。

 景都は目をパチパチさせ、子どもたちは溜息交じりに考え込む。


 閉じられた窓の外からも、セミの鳴き声が聞こえている。

 換気用の扇風機は回っているがエアコンも止まり、徐々に室温は高くなるだろう。

「結局は、ハッキリした意志を伝えて断れば良いんだろ」

 と、咲哉が言った。「決してお勧めするわけじゃないけど、親が決めそうな婚約を揉み消した話ならひとつ知ってる」

「揉み消した話?」

「うん。資産家の令嬢が、高校生の時に許婚を決められそうになったんだ。相手は金持ちのボンボンで、親の七光りすら親が居なくちゃ使えないようなマザコンだった。令嬢は勝手に相手を決められる事より、そんな相手を自分に勧める奴等に対してご立腹でさ。腹いせに、相手からお断りされるように暴力事件を起こしたんだ」

「過激だなぁ」

 頬杖をついて頷き、咲哉は話を続ける。

「昔は峠の方で、暴走族がうるさかったんだってさ。檜葉ひばやまの方」

「新幹線で隣の駅の辺りだっけ?」

「そうそう。17歳でバイクの免許を取ったばかりだった令嬢は、ひとりで乗り込んでって暴走族をぶっ飛ばしたらしい」

「……資産家の令嬢がひとりで?」

「バイクの競争で勝ったってこと?」

「あぁ、スピードの勝負か」

 柏山御三家の3人が顔を見合わせながら聞くと、

「スピードで勝った後、難癖つけて来た数人の暴走族をぶちのめしたらしい」

 と、咲哉は痩せた拳を見せた。

「……すごいな」

「それっきり、族は解体された。警察からの感謝状も、自分もやり返したからってお断りして。自分が暴走族をぶちのめしたって話を広めたんだよ。んで、『そんな乱暴な女の人は嫌だよママ~』って、マザコンボンボンは泣いて嫌がり、話はまとまる事なく流れましたとさ」

 咲哉が話し終えると、流石と景都も顔を見合わせた。

「なぁ、その令嬢って」

「うん。うちの母親の話なんだけどさ」

 流石に聞かれ、咲哉はサラリと答えた。

「……マジか」

 呟く山口の隣で、長門と周防も目をパチパチさせた。

「あ、うちの父親は普通のサラリーマンだから。俺も庶民だし」

「イギリス勤めのエリートサラリーマンだろ」

 と、流石が突っ込みを入れた。

 咲哉は軽く笑い、

「だいたい、娘の写真もなしに見合いも何も始まらないじゃないか。相手の父親のが強いだけで、実際には不釣り合いだから強引に了解させちまおうってんじゃねぇか? 娘なんか実在しないような、婚約詐欺なんてのもあるかも知れないけどさ」

 と、首を傾げる。

「……それは考えてなかったな」

「一般的に正式な条件を提示してきてる訳じゃないなら、こちらも自分なりに示せばいい」

「なるほど」

「可愛い景都の女装写真を送りつけて断りのお返事としますって、山口が直接伝えるのが良いと思うよ」

「あ、やっぱり僕が女装するんだね」

 景都が苦笑いすると、柏山御三家の3人が揃って、

「嫌か?」

 と、聞いた。

「なんか大変そうだから、協力してあげる」

 と、答える景都に、流石と咲哉は、

「えらいえらい」

 と、笑って答えた。

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