3人組vs3人組 2
翌日。数学の学力テストが返された。
景都に女装をさせたいと言う、山口の仕掛けた三本勝負。
仲良し3人組の勝利となった。
放課後、山口は窓際の席で項垂れていた。
「あー、負けたなぁ……」
帰り支度を済ませた流石は、景都と咲哉の袖を引いて窓際へやって来た。
「訳を聞かせろよ」
山口の席の横で周防が、
「俺らは
と、答えた。
思い出したように流石は、
「そういや、不思議屋で聞いたな。柏山御三家って、山持ちの金持ちだったのか」
と、聞いた。首を横に振って山口は、
「長門の家はマタギの棟梁で、周防の家は陶芸の窯元だから潤ってはいるよ。でも、うちは古いだけの旧家って奴で、昔は借金もあったくらいでさ。中央区に持ってた二束三文だった土地が、合併都市開発のおかげで資産価値が上がって、なんとか持ち直してはいるけど」
と、話した。「不動産系の社長令嬢を、婚約相手に押し付けられそうでさ。好きな女の子がいるって言って断わりたいんだ」
流石と景都は目を丸くした。
「そんな話って、本当にあるんだなぁ」
「婚約? 玉の輿狙いで近付かれてるのか」
顔をしかめて、咲哉が言う。
「うちの親が、きっぱり断ってれば済む話だったんだ」
と、山口は溜息を吐き出した。
「山口のご両親は、ちょっと気弱な人たちだから」
と、長門も肩を落として言っている。
「優柔不断な世間知らずだよ。爺さんの代で持ち直したけど、親父の代でまた揺らいでる」
もう一度溜息をつき、山口が言う。
「下手に断ったら、まずい間柄だったりするのか?」
と、咲哉は聞いてみる。
「いや。知り合いの知り合い。紹介された覚えはないらしいけど、相手は初対面じゃなさそうな感じで、親父は自分が忘れてるだけかも知れないとか言ってる」
「ちょっと怪しいよな」
と、長門と周防は苦笑いだ。
天井からスーッという音が聞こえ、一斉管理された教室の空調が切れた。
公立中学だがエアコン完備なのは、新しい学校の利点だ。しかし涼しい時間も終了する。
すでにクラスメイトたちは下校し、教室に残るのは仲良し3人組と柏山御三家の3人だけだった。
「遠回しに断るつもりで母さんが、息子は好きな子が居るみたいでーとか言ったらしい。そうしたら『じゃあ、その相手を連れて来い。うちの娘が引けを取るか判断してやる』とか言って来たって」
そう言って山口は不機嫌そうに眉を寄せると、また溜息をついた。
「何様な感じだなぁ」
と、流石が言い、長門と周防が頷いて見せる。
「俺が『なんで判断されなきゃならないって言い返せないんだ』って聞いたら『それが言えるから、あなたは跡取りとして期待されているのよ』とか言われてさ。言い返す気も失せるだろ」
と、肩を落とす山口に続けて、長門が、
「まだ早いって言えば、
と、話した。周防も苦笑しながら、
「とりあえず息子に聞いてみるって事で、話を切り上げたらしい。だから相手は、息子がうんと言えば山口家側はOKですよって意味で受け取ってるみたいだ」
と、付け加えた。
「今時、許婚か。その娘とやらも資産家夫人になる気満々なのかな」
「会った事もないよ。写真も寄こさないから見た事すらない。だから早くお会いしましょうってのも困るからさ。謎の美少女の写真を送って、僕たち付き合ってますみたいな? ハッキリ、許婚なんて気は無い事を伝えようと思って」
山口は、景都を眺めながら言った。
流石も景都の頭を撫でながら、
「でもよぉ。親にも立場とかあるから突っぱねにくいんじゃねぇの? 景都を女装させても解決しないんじゃね?」
と、聞いた。
景都は目をパチパチさせ、子どもたちは溜息交じりに考え込む。
閉じられた窓の外からも、セミの鳴き声が聞こえている。
換気用の扇風機は回っているがエアコンも止まり、徐々に室温は高くなるだろう。
「結局は、ハッキリした意志を伝えて断れば良いんだろ」
と、咲哉が言った。「決してお勧めするわけじゃないけど、親が決めそうな婚約を揉み消した話ならひとつ知ってる」
「揉み消した話?」
「うん。資産家の令嬢が、高校生の時に許婚を決められそうになったんだ。相手は金持ちのボンボンで、親の七光りすら親が居なくちゃ使えないようなマザコンだった。令嬢は勝手に相手を決められる事より、そんな相手を自分に勧める奴等に対してご立腹でさ。腹いせに、相手からお断りされるように暴力事件を起こしたんだ」
「過激だなぁ」
頬杖をついて頷き、咲哉は話を続ける。
「昔は峠の方で、暴走族がうるさかったんだってさ。
「新幹線で隣の駅の辺りだっけ?」
「そうそう。17歳でバイクの免許を取ったばかりだった令嬢は、ひとりで乗り込んでって暴走族をぶっ飛ばしたらしい」
「……資産家の令嬢がひとりで?」
「バイクの競争で勝ったってこと?」
「あぁ、スピードの勝負か」
柏山御三家の3人が顔を見合わせながら聞くと、
「スピードで勝った後、難癖つけて来た数人の暴走族をぶちのめしたらしい」
と、咲哉は痩せた拳を見せた。
「……すごいな」
「それっきり、族は解体された。警察からの感謝状も、自分もやり返したからってお断りして。自分が暴走族をぶちのめしたって話を広めたんだよ。んで、『そんな乱暴な女の人は嫌だよママ~』って、マザコンボンボンは泣いて嫌がり、話はまとまる事なく流れましたとさ」
咲哉が話し終えると、流石と景都も顔を見合わせた。
「なぁ、その令嬢って」
「うん。うちの母親の話なんだけどさ」
流石に聞かれ、咲哉はサラリと答えた。
「……マジか」
呟く山口の隣で、長門と周防も目をパチパチさせた。
「あ、うちの父親は普通のサラリーマンだから。俺も庶民だし」
「イギリス勤めのエリートサラリーマンだろ」
と、流石が突っ込みを入れた。
咲哉は軽く笑い、
「だいたい、娘の写真もなしに見合いも何も始まらないじゃないか。相手の父親の
と、首を傾げる。
「……それは考えてなかったな」
「一般的に正式な条件を提示してきてる訳じゃないなら、こちらも自分なりに示せばいい」
「なるほど」
「可愛い景都の女装写真を送りつけて断りのお返事としますって、山口が直接伝えるのが良いと思うよ」
「あ、やっぱり僕が女装するんだね」
景都が苦笑いすると、柏山御三家の3人が揃って、
「嫌か?」
と、聞いた。
「なんか大変そうだから、協力してあげる」
と、答える景都に、流石と咲哉は、
「えらいえらい」
と、笑って答えた。
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