第7話 3人組vs3人組

3人組vs3人組 1


 合併都市開発の一環として建てられた、四季深しきふか市立中央ちゅうおう中学校。

 閉校寸前だった学校をまとめて、1学年9クラスのマンモス校となっている。

 現在は1クラスの人数もギリギリとなり、来年度には1学年10クラスになるという噂さえあった。

 生徒たちの成績や個人情報も、最新AIが管理しているとか、いないとか。

 そのAIが導き出した中間試験の傾向では、数学だけ小学校ごとの差が顕著だったらしい。

 流石さすが景都けいと咲哉さくやの3人組が卒業したきた小学校を含め、四季深市内、あちこちの小学校から生徒たちが集まって来ているのだ。

 7月の初め。

 そろそろ期末試験の話も聞こえ始めているタイミングだが、小学校ごとの差を確認するため、数学の学力テストが行われる事になった。



 栃木とちぎ咲哉は暑さでバテ気味だ。

 休み時間に机でウトウトしていると、

「栃木。数学のテストで勝負しないか」

 眼鏡の男子生徒、山口が声を掛けた。

「……勝負?」

 眠い目をパチパチさせて、咲哉は聞き返した。

 山口の後ろで、富山とやま景都が目を潤ませている。その横では、青森あおもり流石が地団駄踏んでいるではないか。

 状況が飲み込めず、咲哉は首を傾げた。

「どうした、景都。流石も」

「腕相撲したの」

 と、景都が言う。

「腕相撲?」

 山口はインテリ風の眼鏡を指先で押し上げた。

「富山に女装させたくてさ。青森に腕相撲で勝てたら、女装してくれるって言うから」

 肩を落とす流石と景都を見て、咲哉は、

「流石に腕相撲で勝ったのか。すごいな、山口」

 と、言った。

「俺じゃないよ。長門ながとが勝負した」

 少し離れた窓際で、山口とよく似た雰囲気の眼鏡男子がふたり。こちらに目を向けて手を振っている。

「長門に負けたのか、流石」

「ガリ勉メガネだと思って、油断した」

 と、流石は悔しげに頬を膨らませている。

「長門はうちの体力担当だ」

 楽しげに笑いながら、山口が言う。

「ガキだなぁ、青森」

 と、ガリ勉メガネと言われた長門も、近くにやって来た。

 山口とよく似た髪型の眼鏡男子だが、長門は少々体格がしっかりしている。

 同じく、よく似た眼鏡男子で、山口と長門よりも落ち着いた雰囲気の周防すおうも一緒だ。

「どうせ、ガキだよ」

 と、流石は口を尖らせる。

「なんで景都に女装させたいんだ?」

 と、咲哉は山口に聞いてみた。

「可愛い女の子と一緒に写ってる写真が必要なんだ」

 山口は、目をうるうるさせる景都の頭を撫でながら答えた。

「なるほど」

「栃木も納得するんだな」

 と、長門が笑っている。

「景都の女装より可愛い子は思いつかないからな」

「咲哉までそんなこと言うー」

 と、景都本人はむくれている。

 撫でたくなるフワフワな髪にパッチリとした目。小柄な体格も、少々幼い言動も可愛らしいのだ。

「女装って聞いて勝負を受けたんだろ?」

「だって、馬鹿力の流石が負けると思わなかったもん」

 と、景都に言われ、流石も、

「嫌なら普通に断れよな」

 と、笑いながら景都の頭を撫でた。

「どうしてもして欲しいなら、してもいいけどさ。でも普通にヤなんだもん」

「それで、次は俺が数学のテストで山口と勝負すれば良いのか?」

 時計を眺めながら、咲哉が聞いた。

 本日の5時間目。全クラス一斉に、数学の学力テストが行われる。

「三本勝負って青森が言い出したんだよ」

 と、山口が答えた。

「じゃあ、もし俺が勝ったら、周防と景都も勝負だな」

 咲哉が言うと、もうひとりの眼鏡少年、周防と景都が顔を見合わせた。

「勉強はムリ……」

「何なら良いんだ?」

 と、周防も景都の髪を撫でながら聞いた。

「えっ、えっと」

「山口が仕掛けた勝負だからな。富山が決めていいよ」

「えっと……あっ、お絵描き!」

 少し考えてから、景都は答えた。

「お絵描き? 富山、絵が得意なのか?」

「流石と咲哉よりは上手だよ!」

「景都の絵は凄いぞ」

 と、流石はガッツポーズを見せる。

 咲哉も薄く笑みを浮かべて頷いた。

「絵なら俺も苦手じゃないよ」

「それなら先に出来るな。昼休みまでに景都は俺と咲哉、周防は山口と長門の似顔絵を描くってのはどうだ?」

 と、流石が提案した。

 咲哉は大学ノートを1枚ずつ切り取って、周防と景都に渡した。

「山口と長門の似顔絵を描けばいいんだな」

 ノートの1枚を受け取りながら、周防も楽しげに言った。

「僕は流石と咲哉だね」

 目を潤ませていた景都も、やっと楽しげな笑顔になる。

「……周防、頼む」

 と、山口は周防の肩を叩いたが、次の休み時間に度肝を抜かされる事になった。



 景都と周防は次の授業中に似顔絵を完成させてしまい、休み時間に作品を見せ合った。

「わー、周防の絵、山口と長門にそっくりだね」

 周防の絵は山口と長門の特徴を捉えた、上級者のデッサンだった。

 シャープペンを使って短時間で描いたとは思えないような仕上がりだ。

 しかし、同じくシャープペンで描かれた景都の絵に、周防は目を丸くしている。

 山口と長門も、絵を覗き込んで言葉を失った。

 景都は、ピカソのような芸術作品を見せたのだ。

 流石と咲哉の似顔絵のはずだが、どの辺りがふたりの顔ともわからない。奥行きさえ感じる抽象的な風景にも見えるが、見詰めていると確かに流石と咲哉が向こう側から見詰め返してくるような感覚になる。

「悪いな、山口。これは俺の負けだ」

 潔く、周防は負けを認めた。

「本当? わーい」

 笑顔になる景都に、流石と咲哉が拍手する。

「じゃあ、5時間目のテストが3回戦だな」

「どっちも満点だったら?」

「そしたら、また考えようぜ」


 景都の女装をかけて突然始まった、仲良し3人組と優等生3人組の対決。

 数学のテスト結果がわかるのは翌日だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る