第4話 呪い石

呪い石 1


 仲良し3人組の通う、四季深しきふか市立中央中学校。

 1年2組の教室の隅に、大きな花瓶が飾られている。

 生徒に不幸があった訳ではない。

 担任の香川かがわ教諭の誕生日に、生徒たちが1本ずつ花を持ち寄って、まとめた花束をプレゼントしたのだ。

 すでに数日経過しているが、まだまだキレイに咲き続けている。


 朝の賑やかな教室。

 眼鏡をかけた男子生徒が3人、窓際に並んで外を眺めていた。

 背格好に多少の差はあるが、髪型や雰囲気もよく似ている。

 こちらは成績優秀な優等生3人組だ。

 そして流石さすが景都けいと咲哉さくやの仲良し3人組も登校して来た。

 景都が窓際の3人組を見付け、

「おはよー。今日はふたり?」

 と、声をかけた。

 流石と咲哉は窓際にいる3人と顔を見合わせ、景都に目を向ける。

 咲哉が景都の背を促し、

「景都。周防すおうも居るよ」

 と、右端の眼鏡少年を指差した。

「……あれっ?」

 景都は目をパチパチさせながら、眼鏡の3人を見回した。

「本当だ。ごめん、周防。見えなかったの」

 よく似た3人の中でも一番、落ち着いた雰囲気の周防成人なるひとは、

「見えなかったのは俺か」

 と、笑った。

 並んでいるふたり、山口梳紡やまぐち ときつぐ長門陸応ながと りくおうも笑っている。

 しかし通学リュックを下ろしながら、咲哉は少々眉を寄せ、

「周防。右のポケット、何入れてるんだ」

 と、聞いた。

「ポケット?」

 周防はズボンの右ポケットに手を入れ、首を傾げながら何かを取り出して見せた。

 その手にあるのは、ツヤのない黒い石だった。2センチほどの大きさで、平たく丸みを帯びた楕円形をしている。

「うわ……」

 一歩、身を引いて低く唸る咲哉に、景都は無言でしがみ付く。

「なんなんだ、その石?」

 と、流石が聞いた。

 山口と長門も、周防の手にある黒い石を覗き込んだ。

 首を傾げながら、

「なんで、こんな所に入ってるんだろう」

 と、周防は、手のひらの上で石を転がしている。

「どこかの砂利か?」

「いや。うちの親父が陶芸やってるんだけどさ。俺も真似して陶芸とか彫刻とか色々手を出してるんだよ。そんで、知り合いの材料屋さんにアルバイトしないかって誘われてさ」

「アルバイト?」

 眼鏡3人組の中では一番、賢そうに見える山口が聞いた。

「どっかの霊験あらたかな岩から切り出した石で、幸運のお守りになるんだってさ。お客から好きな梵字かなんかをネットで注文されて、それをこの石に彫刻するっていうバイト」

「色んなアルバイトがあるんだなぁ」

 と、眼鏡3人組の中では、体格のいい長門も言っている。

「うん。でも決められた通りに彫るとか、つまんないから断ったんだけどさ。あの人、勝手に俺のポケットに突っ込んだんだなぁ」

 のんびりと周防は言うが、

「すぐ手放した方が良いよ」

 と、咲哉は難しい顔を向けた。

「ん? この石?」

 景都も咲哉の後ろに隠れながら、

「すごく怖い感じする。絶対、体に良くないよ」

 と、言っている。

「……?」

「それで、これに気が付いたのか?」

 咲哉と景都が頷く。

 眼鏡の3人組は顔を見合わせた。

「じゃあさ。花瓶の後ろにでも置いといてみろよ。何本か、急に枯れるかも」

 窓際の角。大きな花瓶を指差し、咲哉が言う。

 香川教諭の誕生日に贈った、花束の飾られた花瓶だ。

「……お花、可哀そうじゃない?」

 景都が小声で言い、咲哉の袖を引いているが、

「なるほど。どうなるかな」

 と、周防は黒い石を花瓶の後ろに転がした。

「周防の白いアネモネだけ枯れたりして?」

「それは怖いな」

「ほら、この奥の白い花。俺が持って来たアネモネだよ」

 などと言って、眼鏡の3人は笑っていた。


 しかし、1時間目の授業の内に、全ての花が萎れてしまったのだ。

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