辻回し 3


 不思議屋へ通うようになってから、幽霊や妖怪など様々な存在に出会ってきた。

 すでに子どもたちは、不思議耐性たいせいが身についている。

 『妖怪』という存在にも驚かなくなっているのだ。

「お姉さんも、お茶しに来たの?」

 と、景都けいとは青いTシャツの女性に聞いた。

「チビッ子を転ばせる罪悪感に悩んで、相談に来たのさ」

 と、老婆が代わりに答えた。

「やぁだ、お婆ちゃん。でも、やっぱり小さい子はやめておけば良かったなって……」

 笹雪ささゆきが小柄な景都の肩の上で、

「幼く見えるが、この子も中学生だ」

 と、言った。

 辻回つじまわしという女性が目を丸くしている。

「あ、そっか。僕がチビッ子だと思って心配してくれたの? ありがとう。成長期がちょっと遅刻してるだけだから大丈夫!」

 力強く言うと、景都はガッツポーズを見せた。

 頷きながら、流石さすが咲哉さくやは景都の頭を撫でる。

「この店に来るのは人間だけじゃないんだな」

 と、流石は、改めて喫茶テラスを眺めてみた。

「ええ。不思議屋のお婆ちゃんは、私みたいな妖怪や幽霊の相談にも乗ってくれるのよ」

 と、辻回しと言う女性は楽しげに答えた。

「痛いの飛んでけの、いたいいたいを食べてくれるのも妖怪さんだったよね」

「色んな妖怪が居るんだなぁ」

「そうよ。みんなの周りには、人間に関わる色んな存在が居るの」

 そう言うと、辻回しと言う女性は紅茶を飲み干して立ち上がった。

「中学生なら脅かしても良いって事でもないけど、ちょっと安心したわ。ありがとう、お婆ちゃん」

「また、いつでもおいで」

「はーい」

 返事と同時に、手を振りながら女性は姿を消した。


 3人が誰も居なくなった空間へ手を振り返していると、テーブルに残っていたティーセットが宙に浮かび上がった。

 カップやティーポットが、ふわふわと宙を浮きながらキッチンへ帰っていく。

 3人は、ポカンとした表情を宙に向けていた。

「……いや、これは初めて見た」

「ここのティーセット、自分で戻ってたの?」

「そう言えば、食器って食べ終わったら、いつの間にか見えなくなってたな」

「慣れって怖いな……」

 口々に言う子どもたちに老婆は、

「お前たちも座りな。昼飯だよ」

 そう言って、キッチンがあるらしいテラスの奥へ歩いて行った。

「キッチンも、入った事なかったね」

 と、言う景都に、笹雪が、

「向こうはやめておけ。食材にされてしまうぞ」

 と、真面目な声で言う。

 3人は顔を見合わせ、無言で席に着いた。


「今日の昼飯は、定食風・お好みお子様ランチだそうだ」

 と、笹雪が話す内に、大きな3枚のお盆がふわふわと飛んできた。

 もう一度、3人は目が点になる。

「食い物も、こうやって運ばれてたのか……」

「量が多い時は、こんな感じだな」

 流石の前にはステーキ定食、景都は小さいオムレツ付きハンバーグ定食のお盆が到着した。

 小食の咲哉には、海鮮餡かけうどんだ。

「すげぇ」

 と、咲哉が感想を述べる。

 特大ステーキに、流石は目を輝かせている。

「僕はオムレツとハンバーグ、迷ってたの。うれしい」

「いただきまーす!」

 子どもたちが元気よく食べ始めると、いつの間にか老婆が隣のテーブルに座っていた。

「相変わらず、小気味こきみいい喰いっぷりだよ。デザートにサクランボのゼリーが冷えてるよ」

 渋茶をすすりながら、老婆はクックッと笑った。



 何時に来ると伝えている訳でもなく、食べたいものが出来上がっている。

 以前は驚くばかりだったが、それに慣れても不思議は増えていくのだ。

 子どもたちが拒絶することなく、素直に受け入れられるのも不思議の一部かも知れない。

 不思議耐性もレベルアップしていく子どもたちは、不思議な毎日を楽しんでいる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る