第1話 辻回し
辻回し 1
土曜日の今日は、商店街へ買い物に来ている。
田舎通りの商店街。
先頭を歩く流石の後ろで、景都と咲哉が手をつないで歩いている。
白い半袖Tシャツが爽やかな流石は、
「せっかく割引なんだから、特大ステーキとか買わせてくれりゃあ良いのになぁ」
と、ぼやいている。
手に下げた買い物袋には、買って来たばかりの鶏ササミと豚ロースが入っている。
その後ろで咲哉は、目深に被ったパーカーのフードの中で、
「毎月29日は肉の日か。それでいつも月末になると、肉料理の話をしてたんだな」
と、頷いた。
咲哉と手をつないでいる小柄な景都は、ウサギのイラストが描かれたTシャツ姿で、
「北駅前の商店街のお肉屋さん、毎月29日は全品30%オフでね。2月だけは9日が肉の日になるんだよ」
と、話した。
景都の買い物袋にも、角切り牛肉が入っている。
「なるほど。どうせなら29%オフにすればいいのに」
「29%に、お礼の気持ち1%の割引なんだって」
「おー。なるほど」
3人の住む北区は広い
よく似た外観の建売住宅もあれば、空き家や空き地も多い。
土曜日の午前中。
どこからか布団を叩く音が聞こえて来るが、人通りは少ない。
3人が進む道の先に、青いTシャツの女性がひとり歩いているだけだ。
景都が買い物袋を揺すりながら、
「お使い終わったし、これからどうする?」
と、聞いた。
「もうすぐ昼だな。今日、母ちゃん居ないんだよ」
と、流石が答えた。景都も、
「うちも、お母さんと
と、答える。
「じゃあ、お肉冷蔵庫に入れたら、不思議屋行くか」
咲哉が提案した。
「うん!」
「いいね」
そういう事になった。
日差しも強くなる初夏の陽気だ。
3人組の帰り道。どちらを見ても、似たような生垣の十字路が続く。
車通りも無いが、一応、左右に目を向けてから進む。
「わっ」
背後のドサリという音に流石が振り返ると、景都と咲哉が十字路の中央でへたり込んでいた。
「大丈夫か?」
慌てて起き上がった景都が、
「ごめんねっ、咲哉まで転ばしちゃった」
と、声を上げた。
「大丈夫だよ、景都」
咲哉もどっこいしょと、立ち上がる。
落としていた景都の買い物袋を拾ってやり、流石は、
「
と、聞いた。
両手についた砂埃をはたきながら、
「うん。なんか足が引っ掛かった気がしたんだけど。なんにも落ちてないよね」
と、答え、足元を眺めている。
「怪我してねぇか?」
「大丈夫」
「うん」
道の向こうを見れば、先ほども見えていた青いTシャツの女性がまだ歩いている。
「それじゃあ、行くか」
歩き出す流石を、咲哉が、
「流石、そっちじゃないよ」
と、止めた。
「ん?」
「そっちは逆だよ。うちは、あっち」
咲哉が指差す方角と、反対側の青いTシャツの後姿を交互に見ると、
「あれ?」
と、流石は首を傾げた。
景都もきょろきょろしながら、
「あれー? さっき、あの青い服の女の人、僕たちの前を歩いてたよね」
と、首を傾げている。
「確かに居たな。でも、あっちは肉屋の方向だろ」
頷く咲哉の手を握り、景都が、
「……瞬間移動するオバケ?」
と、聞いた。
「あぁいう色の服、流行ってるんじゃねぇか?」
と、軽い調子で流石が笑っている。
「あー……そっかぁ。ビックリした」
「腹減ったし、早く不思議屋の婆ちゃんとこ行こうぜ」
「うん」
帰り道を、流石が歩き出す。
景都と咲哉も、先ほどと同じように手をつないで後を追った。
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