第13話 秀人の天才崩理(6)


 ホール部。

「まずい! この攻撃で俺は――」

 落ちていく手榴弾に大井田は絶望的な顔をする。

 

 落下する手榴弾以外、静止した様な世界。

 この時、誰もが秀斗の勝利を予想した。

 無論、秀斗自身も――。

 

「――なーんてな」

 大井田は不敵な笑みを浮かべ、そう呟いた。


 彼を包んでいた雰囲気が天と地の様にガラリと変わる。

「っ!?」

 その表情に秀斗は全身に鳥肌が立った様な感覚に襲われた。

 不敵な笑み。まさか、大井田くん。君はこれを――読んでいたのか。

 だとすれば無論、対応策はあるのだろう。秀斗は悟った。

「倒れるとでも言うと思ったか!」

 そう言って大井田は、何かの合図の様に勢いよく右手を上にかざした。

 その動きに同調し、白銀の壁が溶けた様な動きをして球体状に変化していく。白銀の壁の上部が空いているのは、別に上部へ展開出来ない訳では無かったのだ。

 球体状にしていると、自然な明かりが確保出来ない。それ故、白銀の壁を球体状するのは任意の時のみだった。それが今である。

「中々やるな――明智」

 形状変化する白銀の壁を前に、大井田はゆっくりと笑みを浮かべた。

 良い手段だったぞ――明智。だが、これは想定内だ。お前の手札など、俺の前では  ――無力。必然的、結果だ。学誉の低いお前が、学誉の高い俺に勝てるはずがないだろう。

 そして、手榴弾は白銀の球体の上部で爆発し、灰色の煙がホールを包み込んだ。

「――まずいな」

 想定外の事態。下唇と噛み、秀斗は都合が悪そうな顔になった。

 白銀の壁の形状が変わることなんて、大井田くんの過去の対戦記録に――無い。秀斗はそう考えていた。

 だが、過去の対戦では上空で攻撃する生徒などいなかったことを思い出す。

「しまったなー」

 ここまでは想像出来なかった――。秀斗は自身の読みの甘さを痛感する。

もっと戦いのイメージをして来ればよかった。詳細かつ明快に。

 やがて、灰色の煙が止むと、白銀の壁は半壊していた。上部は全壊、四方の壁は至る所が割れている。その光景に大井田は驚き、呆然としていた。

 手榴弾で白銀の壁がここまで破壊出来るとは――。どうやら、爆破した際の当たり所が良かった様に見えた。

 ――が、それも喜んでいる場合ではない。秀斗は大井田の現状を瞬時に理解する。

 追撃するなら今だ――。大井田の思考が混乱している今しか無い。

 秀斗は速やかに吹き抜け部から大井田に向け、サブマシンガンを放った。

 無論、殺す勢いだ。出なければ、銃口は定まらない。

「なっ!? ――何故お前がその銃を!?」

 大井田が白銀の壁の中で信じられない様な顔で驚く。

 所々割れているせいか、一部の銃弾は白銀の壁の間を通り抜けた。これなら、大井田の校章にダメージを当てることが出来る――。

 やっと見えた一つの光明。秀斗は引き金を力強く引いていた。

 数発後、気づいた銃撃兵が秀斗に銃撃を放っていく。

 すぐさま秀斗はしゃがみ、銃撃兵の視界から姿を消した。

 どうやら、銃撃兵の攻撃指令は『敵が視界に確認された』が条件の可能性がある。ならば、銃撃兵の視界からいなくなればよいのだ。秀斗は咄嗟にそう判断した。

 銃撃を行っている間、僅かながら大井田のうめき声が聞こえた気がする。

 うめき声。痛みからなるものか――。となると、数発は大井田の校章に当たっているかもしれない。秀斗はそう思い、右手を校章にかざした。


 秀斗と大井田、両名の校章のポイントを確認する。


『明智 秀斗 40ポイント』


『大井田 健司 85ポイント』


 間違いなくさっきの攻撃で大井田はダメージを受けていた。

「15ポイントか……」

 さっきの攻撃でそのくらい。秀斗は眉間にしわを寄せ、目を細くして考える。

 これを地道にやるか――。だが、次は上手くいくと言う保証は無かった。

 白銀の壁も正規の様な強度は無い。割れている分、そこから攻撃を受けるし、避けるにしても逆に視界が遮られている。

 大井田も白銀の壁を残すデメリットは理解しているはずだ。しかし、その四方の壁の外へ出ない辺り、その先の行動を決められていない様に見える。

 今までとは違う選択。冷静にならない思考。選択を迫られる不安。

 秀斗は大井田の思考、心理を推測する。

「――よし」

 秀斗は覚悟を決めた様に右拳を握りしめ、立ち上がる。

「これで最後だ」

 清々しい顔で大きく息を吐いた。


 僕の理を持って、君の理を崩す。


 さあ、天才。

 これが僕の天才崩理だ――。


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