月の輝きについて

もやし

第1話

月には蝶が住んでいる。


蝶はその羽のうちに琥珀の光を湛え、遙か円い月の大地を淡く黄金色に照らしている。


月はその身に天の灯の火を宿し、蝶は幼虫の間その土を食んで光をその体に蓄える。そして成虫となって後、一生分の輝きを、その一生に比してはるかに短い時の間に放つのである。


月の民は蝶を飼う。否、育てるのではない。彼らはただ定められた刻に蝶を放ち、又定められた刻に収めるのみである。すべての蝶は夜の間厚い鋼鉄の檻の中に封じられ、その輝きの決して宙へと届かぬよう厳に管理されている。


昼になれば檻は開かれ、闇色の月の空を舞う蝶は、いつか絶えた灯の代わりに月面を象る。天の灯が絶えてから、月は蝶によって満ち、また蝶によって欠けていた。


自らの仕事を終えると月の民は海へ帰る。陸は月の光の蝶の領域であり、彼らが住まう場所は残されていないためである。

また一人光のない方へ歩いていって、その頭上には円い青の球がひとつ、ぽつりと満ちて輝いている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

月の輝きについて もやし @binsp

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る