第2話 子供と結婚

なんか、揺れてる?


「……」


ぼんやり見えたのは、可愛い男の子の顔


「起きたかっ!!」

「…?」

「アイザック様、近づかないでください。」

「なっ、離せノートン!!」

「アイ…ザ……っっ!?」


少年を私から引き剥がした男には見覚えがある。


「あの時のっ!!」


私の腹を殴って気絶させた男。って事は、私は既に売られてるか、売られる前…。どちらにしても逃げないと…。


この馬車の重厚な作りからして、既に売られた後の可能性の方が高い…


きっとこの金持ちが経営してる娼館にでもいれられて、一生男相手に働かされるんだわ…。


馬車を降りたら一目散に逃げるわ!


もう起きてる事は気がつかれてるんだし、最高の逃げ出し体勢をつくらないと!


「ドロシーっ!」

「……」


何なの、さっきからこの男の子は…。まぁ、敵にわざわざ返事することもないわね。


「む、オレ様が呼んでるのに、返事をしないなんて。」

「オレ様?」


まさか私はこの子に買われたの…?奴隷にでもされるとかね…。


「何をじっと見てるんだ!さてはオレの事、好きになったんだな!いいぞ…けっけっけっこんしてやっても。」


…けっこん?


「おめでとうございます。ドロシー・スナリオ様、今日から貴女はアイザック・ルートニア様の婚約者になりました。」


「…冗談はよしてください」


「…けっこん…するんだ!!ドロシーはオレとけっこんするんだ!」


「え…あ…泣かないで、言ってみただけよ」


「そうか、やっぱりドロシーもオレのことが好きなんだな!」


何がやっぱりなの…


黒髪の目付きの悪い男に、銀縁の髭眼鏡のオッサンに金髪で碧い目の男の子。


貴族の坊っちゃんの我が儘を聞いて、買われたのね。



「っちょっと!下ろしなさいよ!」

馬車から降りたら逃げるつもりだったのに、黒髪の男にかつがれてそれも出来なかった。

今日まで逃げ切ってきたのに!!



かつがれて連れて来られたのは、物凄くキレイな部屋。


「ドロシー!好きな食べ物はなんだ!」

「へ?チョコレート…かな。」

「チョコっ!!オレも好きだぞ!一緒だなっ!」

「っそんなのはどうでもよくて!!」

「どうでもよくないぞ!オレたちけっこんしたんだからな!」

「けっこん…?」


さっきから、まさか本気でいってるのかな…。


「私はどこへ連れていかれるの…?」

「ん?城だ。」

「シロ……」


私が知らないだけで、シロって領土があるのね。


さっきから何だかな会話が変だわ。

『けっこん』だとか、『おめでとうございます。』とか。


「私は、買われた訳じゃない…の?」


「買う?けっこんだぞ?」


けっこんはよく分からないけど『人を買う』って事じたい知らないんだ…この子。って事は売られてないんだ!


…けど、誘拐だよね。



はぁ…3年前から良い事なし…。私が何をしたっていうの…。


それにしてもアイザック坊っちゃん、まだまだ子供なのに、何故『けっこんする』とか言い出したの?田舎の靴屋の女と…。

会った事ないと思うんだけど…。


「む…こっち見るな!オレ様の顔を見るのは有料だ!」


顔が真っ赤…


「じゃあ見ない。」

「…っ!」


涙目に!


「ウソウソ、ちょっと言っちゃっただけだからね。」

「そうか、なら許してやる!!」


何だろう、この子…。偉そうに…。

ツンツンして可愛いけど。


「あの…シロというと所にはいつつくんでしょうか?」


「あと10日です。今日はここに泊まります。」

「…っ10日!?」

って事は、その間に逃げられるわ!

「帰ったら、すぐけっこん式だぞ!」

「……」

「答えろ、売られたいのか?」

「…っ」


この男…、人の意識おとしておいてよく言えるよね。だけど、売られるよりましよ。


「うん、そうだね。」


私がいうと、ニコっと笑った。その顔は可愛いんだけど、『けっこん』はしないわ。


「今日はドロシーと一緒に寝る!うれしいか?」

「……」

「うれしくないのか?」

「嬉しいよ。」

「そうか、やっぱり『いしんでんしん』だな!」


何がやっぱりなの…?


「…服がありませんので、帰らせてくさい。」


私の服は泥まみれ。


「こちらで用意します。」

「そうだぞ、可愛いの選んでやるからな!」

「用意しなくてもいいし、選んでもらわなくてもいいし…帰らせて…」

「…けっこん…するんだ。もうけっこんしたんだっ!」

「え?」

「それは冗談ですが、将来はそういう事になります。」

「何処の貴族なのかお金持ちなのか知りませんけど、お断りします。」

「ハァ…、アイザック・ルートニア様と聞いて『わからない』…など、どういう教育を受けているのですか。」


ムカつくわ、この髭眼鏡のオッサン…



「どこの誰だか知らない程度の貴族様なんですね。」

「口を慎みなさい!彼はこの国の王太子なのですよ!」

「へぇ…王子だか王太子だか何だか存じませんが、そんなに有名な方がなぜ私と結婚する事になるのか、それの方が解らないわ。」

「それはもうどうにもなりませんので。」

「…どうにでもなるでしょ。家に帰して。」


私と髭眼鏡が話してるのも気にせず、坊っちゃんが話に割って入ってきた。


「ドロシー、この水色のワンピースにしよう!」


目がキラキラしてる。


「服じゃなくて、何を聞いてたの、アイザック坊っちゃん……ん?」


…ちょっと、アイザック坊っちゃん、その服の値札見ましたか!?私がいつも買う服の100倍の値が…!


…後で請求されたら、私はとぶわよ。


「…オレの選んだ服を着たくないのか?」

「いや、そうじゃなくて…え?あの、泣かないで。着るから。」


我が儘にも程があるでしょ。まわりも何とか言いなさいよ。


「はぁ…。わかりました。とりあえず1度行きます。」

「ドロシーは帰らないぞ。ずっと城で住むんだ。うれしいか?」

「……」

「う、うれしくないのか?」

「嬉しいよ。」

「そうか!やっぱりドロシーもオレのこと好きなんだな。」


もう、そういう事にしておこう。


それから9日間、我が儘なアイザック坊っちゃんとお買い物したり、ご飯を食べたり。

『ご飯を残さず食べなさい』って言って泣かれたり、夜は一緒に寝たり…これは子守りじゃないの?


逃げようとしても、このノートンとかいう男に絶対捕まるし…。


『けっこん』だなんて言ってるけど、そのうち彼女が出来て『金はいくらでもやるから出ていけ。』とか言われるんじゃない?…それもアリだわ。別に結婚て執着ないし、1人でこの先暮らせるお金を手に出来ればいいよね…。

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いきなり結婚しろと言われても、相手は7才の王子だなんて冗談はよしてください リオ @oimo3takeo

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