第10話 危険信号
「おいカズ、最近自分を計測したか?」
「そう言えばしてませんね」
いつものように昼食を食べていると、不意にトキさんが俺に問いかけた。
「ちょっとデカくなったんじゃないか、見てみろ」
自分の両手を見つめて計測を使った。
身長172㎝、体重60.1㎏
「うわ、伸びてる!」
「そうかぁ?俺には同じに見えるが」
「お前はデカすぎるんだよ、デレク」
デレクさんは顎髭をさすり俺の手足をじっと観察した。
「うん、体つきはいくらかマシになった。俺の傭兵団に入るにはもう三回りはデカくねぇと駄目だがな!」
「入りたくないですよ、別に」
「わははは!確かに、お前さんはそういう奴じゃなさそうだ!」
「トキさん、こんなに体が成長することってあるんですか?」
彼はニヤリと笑って俺の質問に答えた。
「以前の生活を思い出してみろ。まともに運動もせず飯も大して食べずに、うだうだ毎日過ごしてたんだろ?」
うぐ、俺の心に突き刺さった。確かに、こっちに来るまではそうだった。
「でも、今は違います」
「そうだ、だからこうなった。当たり前の結果さ」
毎日必死に過ごしていて気が付かなかったが、どうやら俺の頑張りは間違っていなかったらしい。
それに、この半年間ただ体を鍛えていたわけじゃない。脱獄の計画だって進んでるんだ。
「うう、寒いなぁ」
運動場に出ると、冷たい風が俺達を出向かえた。季節はもうすっかり冬に変わっている。囚人服には上着と厚手のズボンが追加されたが、それでも少し冷える。
「カズ、ちょっと便所に行ってくる」
「ああ、俺も」
「いってらっしゃい」
トキさんとデレクさんは急な温度変化で催したのか、トイレに行ってしまった。
運動場で完全に一人になるのは初めてだな。準備体操でもして体を温めよう。
「おい、一人かよお嬢様」
クソ、時折俺に絡んでくるスキンヘッドの囚人だ。しかもそいつのグループが金魚の糞みたいにくっついてきた。
「だったら、なんですか」
「おーおー、相変わらず丁寧な言葉づかいでいらっしゃいますねぇ!いつもお嬢様を守ってくれる騎士様はどこに行ったのかな?」
奴らは下品に笑うと、俺をジリジリと取り囲んだ。
「トイレだそうです」
「ふーん、あっそ」
奴は急に真顔になり俺の胸倉をつかんで来た。
「てめぇはよ、新入り。な~んかムカつくんだよな~!なんでだと思う?」
「いつも守られてるくせに調子乗ってるからでしょ、旦那」
「ああ!そうそう。良く言ってくれたよ」
芝居がかった口調で仲間と会話を繰り広げるスキンヘッド。おいおい、ここで俺に手を出したら看守が黙ってないぞ?
スキンヘッドは俺の耳元で囁いた。
「安心しろや、今は手出ししねぇ。ただ覚悟しとけよ、じきに分かるぜ」
「……はぁ、覚えときますよ」
「チッ、おい行くぞ野郎ども!」
スキンヘッドと仲間達は一人ずつ俺を睨み付けてどこかに行った。ご丁寧なことで。
「待たせたなチビ助、鍛練と洒落込もうや」
「…はい、お願いします」
「何かあったか」
トキさんは鋭いな、顔に出したつもりは無かったけどバレた。
俺はさっきの出来事を二人に話した。
「舐めやがってあのボンクラどもが」
「これからはもっと気を配る。もしヤバいことになったら看守の近くに行け。いいな?」
「ええ…あの、アイツらが言っていたじきに分かるっていうのは、なんなんでしょう」
デレクさんがハッとした表情になって言った。
「おいトキ、もうとっくに冬だ。山狩りの事だぜ 、きっと」
「…ああ、だろうな」
山狩りってなんだ?俺が質問しようとしたら、看守が運動場の中央に立って咳払いを始めた。
「貴様ら!良く聞くけ!!」
カードゲームをしている者も体を鍛えている者も、皆静まり返った。
「山の中から腹を空かせた魔獣共が牢獄周辺に見られるようになった!貴様らでこれを処理しろ!」
なるほど、山狩りってそういうことか。
「明日からだ!生きてここに帰り労働に身を捧げても、死して神の元へ行ったとしても貴様ら囚人には身に余る喜びだろう!勇んで剣を振るうが良い!」
「トキさん、スキルは…」
「勿論、使えない。俺とデレクは自力だけで生き残ってきた」
「チビ助、俺達から離れるなよ」
死ぬぞ。そう締めくくったデレクさんの冷たく重苦しい声が、俺の頭の中で何度も再生された。
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