第3話 初代勇者

 騎士たちに留置場のような場所に連れていかれ、俺はそこで一夜を明かした。

 朝になったら両手脚を鎖に繋がれて馬車に乗せられた。

「俺はどこに連れていかれ――」

「黙れ!」

「頼みますよ」

「このっ!」

 肩を殴られた。でも、もうすべて失った気分だから怖いとは感じない。

「いいじゃないですか、冥土の土産ってやつですよ」

「……チッ、お前が今から行くところは牢獄だよ。犯罪者の中でも特別に危険性の高い者が送られる。脱獄は不可能だと思え。姫君に手出しをした罰だ、一生働かされてくたばるんだな」

「へぇ、そうですか。どうもありがとうございました」

「けっ」


 それから数時間経過してようやく牢獄に着いた。

 金網の向こう側に数百人は囚人が居た。俺を見てゲラゲラ笑っている。

「新入り!可愛い顔してるじゃねぇか」

「俺が飼ってやるよ、ぎゃははは!」

「散れ!貴様ら、作業に戻れ!」

 看守が追い払ってくれたお陰で随分と静かになった。俺は看守に連れられて、高さ50mはありそうな石造りの牢獄に足を踏み入れた。


 俺が身体検査を受けていると、看守たちの会話が耳に入って来た。

「おい、スキル封じの手枷がないぞ」

「しょうがないでしょう、昨日の今日だ。それに、あの少年は計測しかもってないんでしょ?」

「……まぁ、それもそうか」

 なるほど、スキルを封じる道具があるのか。そしてそれは手軽に用意できる代物でもなさそうだ。

「異常なし。お前の囚人番号は1969だ」

「分かりました」

「良し、行け」

「どうも」


 牢屋は大きい筒を囲うように円形に配置され、それが八階建てになっている。俺が居るのは第一棟で、他にも何棟かあるみたいだ。

「1969、ここがお前の一生の寝床だ。トラブルを起こせば懲罰が与えられる。喧嘩はするなよ」

「はい」

「ん、新入りか…」

 布団の中に丸まって寝ていた男が俺と目を合わせた。

 そして、お互いに目を見開いた。

「えっ、日本人!?」


「なんだ、知らない単語を話すな!どういう意味だ1969」

 俺が異世界からやって来た事は、看守は多分知っているのだろう。

 しかし、この男が異世界出身であることは知らないんだ。知ってたら同じ故郷の言葉を使ったのだと想定できるんじゃないか?ならばもっと違う言い方をするだろう。

「速く答えろ!」

「え、ええと」

「看守さんよ!随分生意気そうなのが入ったじゃねぇか!俺が教育してやりますよ!」

「ええい黙れ1007!」

「なぁんだよ連れねぇな!!!早く牢屋にこいつを入れねぇと、ちょっと手荒な教育になっちまうぜ?!」

「貴様、生意気なのはどっちだ!」


 1007と呼ばれた男が警棒でバシバシと殴られた。痛い痛いと叫んでいたが、俺には演技している様に見えた。

「はぁ、はぁ、時間を無駄にした!早く入れ!」

「うわっと」

 鉄格子が大きな音を立てて閉まった。この人、わざと殴られて看守の気を反らしたのか?

「おい坊主、日本人か?」

「ええ、あなたは何者なんですか?」

「多分お前と同じだよ」

「勇者、ですか」

「元が付くけどな」


 ってことは、勇者には代替わりが存在するのか。この人は三十代前半に見えるから、数代前の勇者なんだろう。

「いつこの世界に来たんですか?」

「300年以上経ったか、もう数えてないから分からんがな」

「ど、どうして生きてるんですか!?」

「ん?ちょっとまて。お前いつこっちに来た?それに、手枷はただの鉄製なのか?」

「昨日です。俺のスキルは弱いからいらないだろうって看守が」


男は血走った眼をして俺に詰め寄って来た。

「そ、それは!本当か!?」

「は、はい。計測ってスキルしか貰えなかったんで」

「これが、希望か…!?坊主、名前は!?」

「太刀山一志、です」

 なんだこの人は。呼吸も荒くなってるし、牢獄暮らしが長すぎて頭が変になったのか?


「俺の名前は、右京登軌。トキで良い」

 トキさんは傷だらけの大きな手を差し出した。

「ついでに、初代勇者だ」




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る