それは儚く一瞬で。

桜乃あめ

それは儚く一瞬で。


この想いが、彼女に届く日は来るのだろうか。

彼女と共に寄り添える日は来るのだろうか。


そんなありえない世界を、また俺は夢見る。



「あー終わっちゃった」


目の前にいる彼女は、3缶目を空けた。


「ペース早くないですか」


「そう?」


首を傾げたあと、君といるから楽しくて、と微笑む。


ずるいな、それ。俺の気持ち知ってて。

いつまでこんな関係でいるのだろう。

俺を選んでくれないなら、もういっそのこと、


「先輩、俺…」


そう言いかけると、目の前に缶チューハイ。

笑顔の彼女。


何も言えずに受け取り、口をつけた。

檸檬のいい香りがする。


「今日泊まっていきますよね?」


そう言ったのと同時に、彼女の携帯が光る。


「あーごめん、帰るね」


なんで。


「今日会いたいって言ったの、先輩なのに」


声が震える。苦しい。


また来るから、と帰り支度を始める彼女を横目に、手に持っていた缶チューハイを飲み干した。


「じゃあね」


立ち上がる彼女の腕を掴む。


一気に飲んだ酒が、心臓を熱くするのがわかった。

あぁ、今なら、言える。



ー行かないで、ここにいてー



何回目だろう。

また声にならなかった。

言葉にするチャンスはたくさんあったのに。

勇気が、出ない。


想いを口にしてしまったら、きっと彼女はもうここには来ないから。



するっと腕を解いて微笑む彼女。

仕方なさそうに俺の頭を撫でる。

ただの遊び相手だって実感させられる。

突き放された感覚にさえなる。



「またね」



そう言って玄関に向かう彼女の背中を、ただただ見ていることしかできなかった。



静まり返った部屋。



幸せな時間はいつも一瞬で終わってしまう。



ただ、空き缶と香水の匂いだけが、ここに彼女がいたことを証明させた。

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それは儚く一瞬で。 桜乃あめ @sakura_sa9

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