第2話

「それは恋だ、ブッコロー」


 ホームレスのおっさんが紙パックの鬼ころしを一気に飲み干す。朝イチで野菜ジュースを飲むような清々しさがある。しかしここは公園の段ボールの上だし、彼が飲んでいるのは紛うことなきアルコールだ。


「恋じゃないっすよ。明美は、なんか圧がすごいし……」

「お前じゃなくて、明美ちゃんが恋してるって言ってんだ俺は」

「えぇ?」


 確かにあれからやけにブッコローに会いに来るようにはなったが。休み時間も昼休みも帰り道も「勉強を教えてちょうだい」「お昼ご飯一緒に食べない?」「ブッコローくんのために競馬教本の出版権を握ってきたの」と清楚かつハイソな絡まれ方をされている。懐かれている自覚はあった。


「でも好きになられても困るなぁ」

「おっ、はっきり言うね〜」


 パックの野菜ジュースをクチバシで挟んで吸う。残りが少なくなっていたせいで濁った音が響き渡った。女の子に言い寄られるのは悪くない。しかし付き合えるかと言われたらまた話は別だ。ブッコローはまだまだ若いので自由を失いたくない。その自由にも自分が有能すぎるせいで退屈しているのだが。


「もう少しフリーでやってから女の子と付き合ってみたいっすね」

「カーッ高校生のくせに生意気言いやがって。素直に骨抜きにされてりゃいいんだよ。そうすれば奥さんは……クソ、俺は……っ」

「あんたの別れた奥さんの話はもういいですってば」


 感極まって泣き出すホームレスを放置して立ち上がる。放課後何が楽しくてこんなダメなおっさんと話しているのだろうと自分でも思う。だが結局、未知の世界に住むこのおっさんの話を聞くのが単純に面白いのだ。読んだことのない本を目で丁寧になぞっていく感覚に似ている。何より明美はブッコローにとっては難ありの女の子なので、誰かの意見が聞けるのはすごく有難いことだった。

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R.B.ブッコロー版 学園恋愛物語 帆糸奈古 @Dilabin_N

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