10本目(3)ネタ『青春とは』

「はい、どーも~2年の凸込笑美で~す」


「3年の江田健仁っす!」


「1年の厳島優美ですわ!」


「同じく1年のオースティン=アイランドデース!」


「『セトワラ』、今回はこの四人でお届けします、よろしくお願いしま~す」


「よろしくお願いするっす!」


「よろしくお願いしますわ!」


「よろしくお願いしマース!」


 借りた講堂内にひときわ大きな拍手が起こる。ひと呼吸おいてから笑美が話し出す。


「まあね、今日はなかなか意外な組み合わせってことやけれども……」


「そうデース! まさに『多士済済』と言った感じデース!」


「ああ、うん……」


「四人で『縦横無尽』にこのステージを駆け巡って、『気炎万丈』なマンザイを展開したら、お客さんは『呵呵大笑』間違いなしデース!」


「いや、開幕の四字熟語ラッシュエグいな!」


「え?」


「こっちがえ?って、なるのよ」


「スタートダッシュ決まりましたカ?」


「誰もそっちについていってないから……」


 笑美が手を左右に振る。オースティンが若干肩を落とす。


「そうデスカ……」


「そんなに落ち込まんでもええから。しかし、あれやね」


「はい?」


「オースティンも大分日本に馴染んできたんちゃう?」


「そうデスカ? 自分ではまだまだだと思いマスガ……」


「そうなん?」


「ええ、朝はいまだにコーヒーとパンデース」


「ああ、そうなんや。まあ、それはええと思うけど」


「強いて言うナラバ……」


「強いて言うなら?」


「パンに納豆を乗せて食べるくらいデスネ」


「だから誰も行っていない方向いくなや!」


「急いでいる時はパンに味噌汁をかけマース!」


「変なとこだけ馴染むなや! たまにご飯にかけるおっさんおるけど! せめてパンを味噌汁に浸せ、かけたらテーブルベチャベチャになるやろ!」


「あ、そうデスカ?」


「そうやがな」


 優美が髪を優雅にかき上げながら口を開く。


「……テーブルはその都度買い替えればよろしいのではなくて?」


「圧倒的財力……!」


 笑美がズッコケそうになる。優美が首を傾げる。


「あら、わたくし、なにかおかしなことを言いまして?」


「突然の財力カットインはやめてくれる?」


「ふむ……?」


「それにね、毎朝テーブル買い替えていたら忙しくてしゃあないわ」


「そうかしら?」


「そうよ、出入りする業者さんも大変や。持ち運びとか……」


「それならお任せ下さいっす!」


 江田がマッチョなポーズを決める。笑美が声を上げる。


「突然の筋肉カットインやめてくれる⁉」


「ああ、それじゃあいいっすか?」


「うん?」


「……ふん!」


 江田がステージの中央に移動し、そこで再びマッチョなポーズを決める。


「いや、許可を取れば良いってことじゃないんよ!」


「え、そうなんすか?」


「そりゃそうよ」


「とにかくパワーには自信があるっす!」


 優美が江田に尋ねる。


「それじゃあ、テーブルを運んで下さる?」


「お任せあれっす!」


「ええ、大理石入りのテーブルを」


「ここぞとばかりにマウント取るのやめてくれる⁉」


 笑美が再び声を上げる。優美が口元を抑える。


「そんなつもりは無かったのですけど……」


「自覚ないんか……」


「大理石入りはひっくり返すのが大変そうデース!」


「ちゃぶ台とちゃうねん! だから変なとこだけ馴染むなや!」


「自分で良ければ手伝うっす!」


「手伝うな! 共同作業でやるもんちゃうねん!」


 オースティンに近寄ろうとする江田を笑美が引き離す。江田が声を上げる。


「ああ!」


「ああ!とちゃうねん! 切なげな声を出すなや……いや、それよりもオースティン」


「なんデスカ?」


「高校生活っていうものは一度きりしかないねん」


「ハア……」


「どうや? 青春をエンジョイしてるか?」


「青春デスカ?」


「そうや、アオハルって言うてもええかな?」


「それは聞いたことがありますケド、具体的にはどういうものなんデスカ?」


「ええ?」


「春は季節デショ? それが青いってどういうことデスカ?」


「えっと……」


「ピンクだっていいデショ?」


「い、いや、ピンクはマズいな!」


 笑美が慌てて首を左右に振る。オースティンが両手を広げる。


「ナゼ? ニッポンの春と言えば桜デショウ? 違いマスカ?」


「う、うん、まあ、それはそうなんやけど……」


「なんでデスカ?」


 オースティンが両手を広げたまま笑美に近づく。笑美が遠ざける。


「う~ん、面倒くさいな、そんなんええねん! とにかく青春について教えたるわ!」


「ホ~ウ? お手並み拝見とイキマショウ……」


「なんか腹立つな……青春とはなにか、江田先輩、教えたって!」


「じ、自分がっすか⁉」


「そうや、いつも一生懸命打ち込んでいるやん……」


「ああ、Vtuberにチャットを……」


「ちゃうわ! ボールを打ち込んでいるでしょ! バットで!」


「ああ! なんだ、野球の話っすか?」


「他になにがあんねん!」


「……つまりどういうことデスカ?」


「一つの夢に向かって頑張るってことやねん」


「ウ~ン?」


「なんや?」


「ちょっと……汗臭くないデスカ?」


「多少はしゃあないやろ!」


「青春とは臭いものなんデスカ?」


「違うわ! ああもう、優美ちゃん、説明してあげて!」


「わたくしがですか?」


「そう、任せたで!」


「分かりましたわ。青春とは……恋愛です!」


「レンアイ?」


「そう! ラブです!」


 優美は両手の指でハートの形を作る。


「ラブ……」


「そうですわ、どなたか気になる方とかおりませんの? 胸をドキドキさせるようなことはありませんの?」


「ソウイエバ……」


 オースティンが顎に手を当てる。笑美が笑顔を浮かべる。


「おっ、おるんかいな?」


「いつも教室の片隅デ……」


「ふむふむ……」


「ブツブツと呟いている白いキモノの女性がいマース」


「それはアカンやつが見えてるやろ! 気になってしゃあないけど!」


「……ドキドキしマース」


「そりゃあそうやろな!」


「これが……青春デスカ?」


「違うわ!」


「じゃあなんなんデスカ?」


「う~ん……しゃあないな、ウチが説明したるか……」


「是非ともご教授お願いしマース」


「……友情やな。フレンドシップや」


「フレンドシップ? 具体的にはなんデスカ?」


「例えば文化祭を成功させるために一緒に知恵を出しあったり、体育祭で勝つためにお互いの力を合わせたり……」


「河原で殴り合ったりするんすよね?」


「そ、それはちょっと昭和臭いかな……」


 笑美が江田の言葉に首を傾げる。優美が尋ねる。


「殴り合う? わたくしは札束を使ってもよろしいのですか?」


「金持ちムーブやめろや!」


「電子マネーの時代に札束なんてナンセンスな……でもちょっと待ってクダサーイ……つまり青春には様々な形があるということデスネ?」


「奇跡的に結論へとたどり着くなや! もうええわ!」


「「「「どうも、ありがとうございました!」」」」


 笑美と江田と優美とオースティンがステージ中央で揃って頭を下げる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る