10本目(2)生徒会長からの通告

「わざわざお呼びたてして申し訳ありません……」


 眼鏡がよく似合う、知的な雰囲気を漂わせる美人が立派な椅子からスッと立ち上がって頭を下げる。司が恐縮しながら応える。


「い、いえ、とんでもありません、生徒会長……」


「この人が生徒会長か、初めてちゃんと顔を見たけど、それっぽいな……」


 笑美が小声で呟く。


「細羽司さん」


「は、はい……」


「凸込笑美さん」


「はい……」


「お二人をお呼びしたのは他でもありません……」


 生徒会長は椅子に座り直す。


「……」


「瀬戸内海学院お笑い研究サークル……通称『セトワラ』……」


「はい……」


「貴サークルの廃部が検討されていることを通告します」


「は、はあ⁉」


 笑美が素っ頓狂な声を上げる。


「お話は以上です……」


「ちょ、ちょっと待ってください!」


 笑美が生徒会長に詰め寄る。


「なにか?」


「なにか?やないですよ! なんですか、いきなり廃部って!」


「……理由は簡単です」


「え?」


「貴サークルは活動実績に乏しいのです」


「む!」


「お分かりいただけましたね?」


「分かりません! 活動はちゃんとしているでしょう?」


「例えば?」


「例えばって……講堂でライブをやっているのをご存知ないですか⁉」


「ああ、それは知っていますよ」


「ほんなら!」


「しかし……」


「しかし?」


「開催頻度が少ないですね」


「ええ?」


「現状では開催が不定期過ぎます。週に一度は開催して欲しいところですね」


「無茶を言わんといて下さい! そうそう簡単に新作のネタが出来上がるわけがないやないですか! 練習期間も欲しいし!」


「ふむ……」


 生徒会長は眼鏡のフレームを触る。


「あまりにもなことを言うてますよ!」


「ですが……」


「ですが?」


「他の部やサークルはほとんど毎日なにかしらの活動を行っております」


「そ、そんなんウチらかて!」


「この間、部室の前を偶然通りかかったとき……」


「?」


「聞き耳を立てるのは良くないのですが……妙な話が聞こえてきまして……」


「妙な話?」


 笑美が首を傾げる。


「ええ、互いの筋肉を寸評するような……」


「!」


「私はお笑いに精通しているわけではありませんが、いわゆるネタ作りに関係があるとは思えません……そのような話をただダラダラとするのを活動と呼んで良いのでしょうか?」


 生徒会長が眼鏡を抑えながら、小首を傾げる。笑美は苦笑気味に答える。


「そ、それはたまたまです……」


「ほう、たまたま?」


「はい、多少の雑談くらい、どこの部やサークルだってするでしょう?」


「……いくつか報告は受けております」


「報告?」


「ええ、例えば好きなアニメや漫画の話を大声でしていたとか……」


「む……」


「アニメや漫画の話をするなら、漫研やアニ研でも良いですよね?」


「そ、それは……」


「わざわざ部室を割り当てるほどかという話も出ておりまして……」


「……はともかく……」


「はい?」


「運動部などはともかく! 文化部は定期的なライブなどを行っていますか⁉」


「軽音楽部などは毎週ライブを行っていますよ。ご存知ありませんか?」


「知っています! でもあれは部員が多いからローテーションで出来ることであって……」


「確かに部員・会員の多い少ないも活動への影響はありますね……」


 生徒会長が顎に手を当てる。


「そういう点ももっと考慮して頂けないと……!」


「ふむ……」


「ご再考をお願いします!」


「ですが、やはり活動実績がね……」


「部員や会員の少ない部活やサークルは他にもいっぱいいますよ! 茶道部や書道部、それこそ漫研やアニ研とか!」


「そうですね」


「彼女ら、彼らは、定期的にライブなどは行っていないでしょう⁉」


「……長年の積み重ねというものがあります」


「積み重ね?」


 笑美が首を捻る。


「ええ、毎年、文化祭では成果をきちんと発表してくれています」


「うっ……」


「それに……」


「それに?」


「何らかの結果を出していますね」


「! 結果?」


「はい。コンクールやコンテストで表彰されることが多いですね」


「ううむ……」


 笑美が腕を組む。


「ところが……セトワラにはそうした実績がない。創部したばかりということもありますが、少々寂しいのが正直なところですね……」


「はあ……」


 生徒会長は司に視線を向ける。司は俯く。


「部室が手狭だという部活も多いのです。我が学院が広い校舎だといえ、限度があります。廃部は極端かもしれませんが、現状なら最低でも部室は明け渡して欲しいところです」


「……を出せば」


「はい? なんですか、凸込さん?」


「結果を出せばええんやろ⁉」


「! ……ええ」


 大声にやや驚きながら、生徒会長は頷く。笑美は端末を操作し、表示された画面を見せる。


「それならば……これで優勝したる!」


「ほう……お手並み拝見といきましょうか。では、そこまで廃部云々は保留とします」


 生徒会長は微笑を浮かべながら淡々と告げる。


「こうして皆に集まってもらったのは他でもない……」


「どうしたんだ?」


「ただ事じゃない感じっすね……」


 笑美の様子に屋代と江田が緊張した面持ちになる。


「単刀直入に言うで……」


「うわ、ドキドキする~」


「ちょっと、礼明ちゃん、茶化さないの!」


 礼光が礼明の態度を注意する。


「その前に司くん……」


「あ、は、はい……先日生徒会長からこのままでは『セトワラ』の廃部は免れないといった趣旨の話をされまして……」


「な、なんと⁉ まことでござるか⁉」


「呼び出されていたのってそういうことだったのかよ⁉」


 因島と倉橋が驚く。


「ええ、そうなんです……」


 司が苦笑を浮かべる。


「廃部とはまた急な話ですわね。小豆、貴方はこれをどう見ます?」


「……恐らく活動実績の乏しさかと。この学院は、運動部は言うに及ばず、文化部も多方面でそれなりの結果を出しておりますので……」


「さ、さすが……概ねその通りです」


 司が感心する。


「ふむ……それでどうするのデース?」


「対策をせねバ……」


「続きをお願いします、センパイ」


 オースティンとエタンが首を傾げ、マリサが笑美を促す。笑美は頷いて口を開く。


「……毎年夏に行われる『笑いの甲子園』……そこでウチら、セトワラが優勝を目指すで!」


「「「「「「「「「「「‼」」」」」」」」」」」


 笑美の宣言に皆が揃って驚く。


「その為には、全員のレベルアップが必要不可欠や! レベルを上げるには、経験を積むものと相場が決まっとる! よって今度からのネタライブではこれまでとは違った組み合わせで勝負していくで!」


「「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」」


 笑美の説明に皆が揃って困惑気味な反応を示す。


「司くん!」


「は、はい! それではまず次回の組み合わせを発表します!」


 司が声を上げる。

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