10本目(1)生徒会室へ向かう

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「い、いきなり呼び出しを喰らうとは……」


 司が廊下を歩きながら困惑する。


「ウチ、生徒会室に行くの初めてやわ」


「そ、そんなの僕だってそうですよ……」


「こういうのはこの学院ではよくあることなん?」


「い、いや、他でもあまり覚えがないですね……」


 笑美の問いに司は腕を組んで首を傾げながら答える。


「そうやんな、普通呼び出されんなら職員室とかやんな?」


「ええ」


「司くん」


「はい」


「これは相当……」


 笑美が顎をさする。


「相当……なんですか?」


「……悪いことしたんちゃうの?」


「い、いや、そんなことしてないですよ!」


 司が首と手を左右に振る。


「ホンマに~?」


「ホンマです!」


 笑美が悪戯っぽい笑みを浮かべる。


「な~んか怪しいなあ~?」


「怪しくないですよ!」


「ホンマに身に覚えないの?」


「え……」


「記憶辿ったらなんかあるやろ?」


「そんな……いや、待てよ……」


 司が顎に手を当てる。


「お?」


「本能寺の変、僕が黒幕ってバレた?」


「相当悪いことしてんな!」


「いや……『敵は本能寺にあり!』って言っただけなんですけどね」


「黒幕ちゃうやん、ええ台詞もろてるやん!」


「おかしいな、証拠は隠滅したはずなんだけどな……」


 司は首を傾げる。


「じゃあ、なにか他のことちゃうん?」


「他のこと……ひょっとして……」


「ひょっとして?」


「デスノートを使ってるのがバレた?」


「また悪いもんに手を出したな!」


「何故生徒会がそれを……?」


「もう生徒会で扱い切れる話じゃないのよ、FBIが出てくる話なんよ」


「でも、確かに僕って結構うっかりしてるから……」


「ああ、そうなん?」


「ええ、よくお母さんにデスノートを部屋の机の上に置かれているんですよ」


「オカン、息子のエロ本見つけたったみたいな感覚やんけ」


「もうしょっちゅうですよ」


「隠し場所考えろや」


「ベッドの下はマズかったか……」


 司が頭を抱える。


「……他にはなんかないの?」


「えっと……あれかなあ……」


「あれ?」


「あれです。いわゆる学校裏の……」


「う、裏サイトへの悪質な書き込みか? アカンでそれは」


「壁にバンクシーみたいな絵を描いちゃって……」


「ホンマの学校裏かい! 落書きはアカンけど、凄いなある意味……」


「なんでバレたんだろう?」


「目撃者でもおったんちゃうん?」


「いいえ、夜中ですから誰もいなかったはずです……」


「へえ、それならなんで?」


「……筆跡かな?」


「筆跡?」


「ひらがなで『ばんくし~』ってサインを書いたんですよ」


「アホか、自分は! あらゆる意味で!」


「う~ん……」


「……とまあ、冗談はさておき……逆にあれなんちゃうん?」


「逆に? なんですか?」


 司が尋ねる。


「褒められるとか」


「褒められる?」


「そうや」


「何を褒められることがあるんですか?」


「そりゃあるやろ、最近はライブで講堂を満杯にしとるし……」


「ああ……」


「なんや、違うんかいな?」


「そういうことで呼び出しますかね?」


「じゃあ、他になんか考えられるか?」


 笑美が尋ねる。


「……よく明智光秀を討ったねとか」


「いや自分黒幕ちゃうんかい。光秀裏切んなや」


「もう……土壇場で裏切ってやりましたよ」


「ドヤ顔すんな。最悪やんけ」


「『うわ、引くわー』って言われました」


「光秀も軽いな」


「それじゃあ、やっぱりあれかな?」


「なによ?」


「僕の地元の島での話なんですけど……」


「うん」


「おばあさんの原付が溝にハマっちゃったんですよ」


「ほう」


「それを引っ張り上げてあげたんですよ」


「それはええことやっとるやん。感謝されたやろ?」


「はい」


「良かったやん」


「おばあさんは素敵な笑顔で走り去って行きました……ノーヘルで」


「待て! ノーヘルを注意せえ!」


「時速60キロで」


「速度超過してる!」


「かなりの風を感じていました」


「かなりの恐怖を感じるわ!」


「……あ、着きましたよ。ここが生徒会室です」


 司が立派なドアを指し示す。笑美が少し緊張気味に頷く。


「う、うん……」


「入りましょう……お待たせしました、お笑い研究サークルの者です」


「……どうぞ」


「はい、失礼します……」


 女性の声に応じ、司と笑美は生徒会室に入る。

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