7本目(4)色物の彩り

「お疲れ様でした!」


 講堂の舞台袖に司が入ってきて、三人に声をかける。笑美が問う。


「……どうやったかな?」


「いやいやいやいや、今回も最高でしたよ!」


「ほうか……それは良かった」


「ふう……」


 優美が椅子に座る。司が尋ねる。


「ど、どうだったかな?」


「……」


 優美が無言で俯いている。司が慌てる。


「つ、疲れたのかな? だ、大丈夫?」


「……でしたわ」


「え?」


 俯いていた優美がバッと顔を上げる。


「最高でしたわ!」


「え、ええっ⁉」


「ギャグが決まったときの笑い声! ボケとツッコミの掛け合いが上手く行ったときに巻き起こる爆笑! 終わった時の拍手と歓声の嵐! あれは本当に……たまりませんわ!」


 優美が興奮気味にまくし立てる。司が戸惑う。


「そ、そう……」


「まさに新世界を見たような気分でしたわ! ツッコミ先輩!」


 優美が笑美に視線を向ける。笑美が笑みを浮かべる。


「それは良かった……凸込やけどな。ってか、笑美でええよ……」


「笑美先輩! 次のステージは⁉」


「え?」


「次のステージはいつなのですか?」


「気が早いな、司くん……」


「え、ええ……えっと、厳島さん」


「はい」


「今後もセトワラの一員として、活動を期待しても良いのかな?」


「無論ですわ!」


 司の問いに優美が力強く頷く。司が笑顔になる。


「それは良かった……」


「ええんか?」


 笑美が優美の傍らに立つ小豆に尋ねる。


「……優美お嬢様がご満足されたのならそれで構いません」


「お許しが出たで」


「ふふっ、良かったですわ」


 目配せしてくる笑美に対し、優美が笑う。


「入部されるということで、漫画に興味はないでござるか⁉ 拙者のおすすめは……!」


 因島が端末を取り出す。


「だから因島~オタクの悪い所が思いっきり出ちゃっているぜ~?」


 倉橋が笑う。因島がムッとする。


「むう……」


「ねえ? 俺と遊びに行かない? 隣の島で良い感じの雑貨店知ってんだよね~」


 倉橋が右手の親指を外に向ける。因島が声を上げる。


「く、倉橋殿! それこそチャラ男の悪い所が出ているでござるぞ!」


「……優美お嬢様に必要以上に近づかないで下さい」


「むおっ⁉」


「な、なんだよ⁉」


 部屋に入ってくるなり、優美に迫ろうとする因島と倉橋を小豆が押し返す。


「また聞くけど、SNSやってる? これ、ワタシのRANEのID!」


 礼明が端末を差し出す。


「あ、礼明ちゃん、ズルい!」


「だから、こういうのは早い者勝ちでしょ?」


「ねえ、一緒に動画を撮らない? ステージ終わりなんて映えるし、バズると思うのよね~」


「……そういったことはまず執事である私を通して下さい」


「きゃっ!」


「な、なによ……」


 優美に近づく礼明と礼光の前に小豆が立ちはだかる。


「……ふむ、あらためて問うが、医学に興味はないかい?」


「野球に興味は無いっすか⁉」


「優美お嬢様の目下のご興味はお笑いですので……」


「ぬおっ⁉」


「な、何をするっすか⁉」


 優美に話しかける屋代と江田を小豆が静かに押しのける。笑美が笑う。


「ははっ、目下のご興味はお笑いか……」


「……凸込様、先日の失言、あらためてお詫びいたします」


「ん? ああ、色物うんぬんか?」


「ええ、お嬢様の学校生活を彩っていただければと。私も微力ながら尽力します」


「色物が彩りを添えるか……なかなかええやん」


 頭を下げてくる小豆に対し、笑美が笑いながら頷く。

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