8本目(1)突然の訪問

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「また遅くなってもうたな……」


 笑美が部室に向かう。部室に近づくとなにやら聞こえてくる。


「~~!」


「うん? 部室から声が……」


「~~~!」


「なんやヒートアップしとんな……」


 笑美は耳を傾ける。


「日本は低レベルデース!」


「!」


「まったく同意ダ……」


「‼」


「呆れて物も言えないわよネ~」


「⁉」


 聞き覚えのない声がいくつか笑美の耳に入る。


「くっ、言わせておけば……調子に乗るなよ……」


「屋代先輩?」


「こうなったら勝負だ!」


「ええっ⁉ ちょ、ちょっと待った!」


 笑美が慌てて部室に入る。


「笑美さん!」


 司が声を上げ、皆の視線が笑美に集まる。


「ム? ニューカマーの登場デスカ?」


 金髪で長髪のルックスの良い、長身の白人男子が立っている。


「だ、誰や?」


「ドーモ初めまして、ミーは1年生、アメリカからの留学生、オースティン=アイランドと申しマース!」


「お、おう……」


 テンションの高さに笑美はやや気圧されてしまう。


「どれだけ人を集めようと同じことダ……」


 眼鏡をかけた体格の良い黒人男子がその隣に立っている。


「だ、誰……?」


「お初にお目にかかる……オレも1年生、フランスからの留学生、エタン=イル……」


「は、はあ……」


 落ち着いた口調に笑美は頷く。


「アハハ! セニョリータは楽しませてくれるのカナ~?」


 ツインテールでスタイル抜群のヒスパニック系女子が笑う。


「セ、セニョリータ⁉」


「アレ? ひょっとしてセニョーラ?」


「ナニョーラでもあれへん! っていうか、誰やねん⁉」


「コンニチハ! アタシは1年生で、スペインからの留学生、マリサ=イスラ!」


「ほ、ほう……」


 笑美が司に視線を向ける。


「えっと……サークルの見学に来てくれたんですけど……」


「けど?」


「ちょっとした雑談からいきなりマウント合戦が始まっちゃって……」


「ああ、低レベル云々ってそういうことか……」


 笑美がなんとなくだが状況を理解する。屋代が声を上げる。


「気を取り直して勝負だ!」


「フフッ……望むところデース」


 オースティンが髪を優雅にかき上げる。


「僕は難関大学受験を志している!」


「フム?」


「志望は医学部だ! 偏差値は高いぞ!」


「オーウ、ドクターを目指しているのデスカ?」


 オースティンが大げさに両手を広げる。


「そうだ!」


「Wie geht es dir?」


「な、なんだ?」


 屋代が首を傾げる。


「おやおや、これは参りましたネ~」


 オースティンが両隣りに立つ、エタンとマリサと目を見合わせて苦笑する。


「な、なんだというのだ⁉」


「それはこっちの台詞ダ、まさかドイツ語も分からないのカ?」


「ド、ドイツ語?」


「これは驚きダ……」


 エタンが眼鏡のブリッジを抑えながら首を振る。


「ドイツ語も分からないんじゃ、カルテも読めませんネ~」


 マリサが両手で後頭部を抑えながら笑う。


「ぐっ……」


 屋代が跪く。司が驚く。


「屋代先輩がやられた!」


「やられたんか、あれは……」


 笑美が目を細める。江田が前に出る。


「次は自分が行くっす! うおおっ!」


「オウ!」


 江田が上半身裸になり、オースティンたちが面喰らう。江田はポーズを取る。


「ふふ、見るっす、この筋肉を!」


「……」


「ははっ、言葉もないっすか⁉」


「フン……」


 エタンが制服を脱ぎ、上半身裸になる。彫刻かと見紛うほどの立派なボディである。


「なっ⁉」


「……言っておきますけど、これが欧米ではあくまでスタンダードデース」


「ええっ⁉」


 オースティンの言葉に江田は愕然とする。マリサが悪戯っぽく笑う。


「フフッ、所詮は『井の中の蛙大海を知らず』よネ~」


「ま、負けたっす……」


 江田もガクッと両膝をつく。司が頭を抱える。


「江田先輩もやられた!」


「どうでもええけど、ことわざの発音、めっちゃ良かったな……」


 笑美が妙なところで感心する。能美兄弟が前に進み出る。


「行くわよ、礼光ちゃん!」


「ええ、礼明ちゃん!」


「ン……?」


 能美兄弟は端末を取り出して見せる。


「ワタシらは最近美を磨いているの!」


「メイク動画がバズったんだから」


「マリサ……」


「はいはい……」


 オースティンが目配せし、マリサが前に進み出ようとする。そこをエタンが制止する。


「マリサが出るまでもない……オレで十分ダ……オレは世界的化粧品メーカーと専属モデル契約を結んでいる……」


「な、なんですって⁉」


「ま、負けた……」


「能美兄弟もやられた!」


「何をもってやったやられたなんや……さじ加減ちゃうんか」


 笑美が再び目を細める。

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